作家紹介 vol.7
'TOYAMA ICONIC'
富山ガラス アーティスト・プロファイル
vol.7
金 東希 Kim Donghee
ガラスの道を歩んだきっかけ
私は韓国で生まれて、中学まで昌原市(チャンウォン)に、高校から大学1年生まではソウルに暮らしていました。父が日本で働くことになり、私も語学留学を目的に、家族と一緒に兵庫県の尼崎に移住しました。当時、まだ日本語は話せず、日本の文化も深く知りませんでした。しかし、住んでみると日本での生活はとても心地よく、日本語学校に2年通ったのち、美大に進学することにしました。子供の頃から手先が器用で、何かをつくることがとても好きでした。美大に通うことで、それを活かすことができればと思ったのです。大学の専攻を考えるタイミングで、いろいろな素材に触れる機会があり、工芸科の授業ではじめてガラスと出合いました。私にとって未知の世界だったガラスは、さまざまな表情を見せてくれる目の離せない存在となっていきました。「ガラスをもっと知りたい!」という気持ちとともに、ガラスのモノづくりへと進むことになりました。
富山を拠点にする理由
美大を出たあとは、東京の大学院に進学しました。大学院でもガラスについて学んでいましたが、卒業してからは、ガラス作家として活動するために富山に移住しました。私にとって、日本で活動していくには、工房などのガラス制作の現場で働きながら、経験を積む必要がありました。その点、富山には外国人を受け入れている工房があり、雇用形態もしっかりしていたので、この土地を選びました。実際に富山で活動をしてみて感じるのは、ガラス制作のための設備が整っていることはもちろん、多くのガラス作家が活動しているということです。作家が必要とするガラスの専門知識は、ネットで調べても知り得るものではありません。富山では、さまざまな経験を積んだ作家から、知恵やアドバイスを得ることができます。常に次のステップを目指していける、本当に素晴らしい環境です。富山では、雪が降るシーズンは雪掻きや移動も大変ですが、私にとってはそれ以上に魅力的な場所です。ガラス作家として、これからも富山でガラスをつくり続けたいと思っています。
ガラス作品への思いとこだわり
私が目指しているのは、「人の心が温まる」ような作品です。ガラスは、「透明感」が魅力の素材ですが、それだけではなく「やわらかさ」や「やさしさ」を表現することもできます。また、自然が美しい富山らしさを作品の中に表現したいという思いから“富山の空の色”をイメージしたモノづくりも行っています。これまでの作品に、「ぬくもり」と「けいと」というシリーズがあります。
「ぬくもり」は、ガラスでいろいろなパーツをつくっていくうちにできた板ガラスのパーツがフェルトのように見えることに着目しました。冷たいと思われがちなガラスのイメージに、温かい表情が生み出せることに気づき、大きな衝撃を覚えました。それ以来、つくり続けている作品です。写真1枚目は、フルーツやサラダに使いやすい「ストレートボウル」、2枚目は、「一輪挿し」です。3枚目は「ぬくもり」から派生した「けいと」。やはり「やわらかいもの」を追い求めて、毛糸のようなイメージを表現してみようと考えました。シンプルな色使いと使いやすい形状にもこだわっています。
具体的には、どちらもすべて吹きガラスですが、ガラスの表面に砂を吹きつけて、ツヤをなくして仕上げる「サンドブラスト」という技法と、板状の色ガラスを曲げながら吹いていく「ロールアップ」という技法を使ってつくっています。板状の色ガラスにもこだわりがあって、ガラスを砕いた粉状の素材を固めて、板ガラスにしています。色ガラスは、その色によってもやわらかさが違うため、空気を吹き込んだときに膨らむタイミングがそれぞれの色ごとに違います。気を抜くとあっという間に歪んでしまうので、その膨らみ具合を微調整しながらつくります。見た目からはもちろん、手に持った感触や、口にあたる瞬間に、温もりを感じていただけたら嬉しいです。
金 東希 作 「ぬくもり(ストレートボウル)」
金 東希 作 「ぬくもり(一輪挿し)」
金 東希 作 「けいと(グラス)」
〈富山アイコニック〉の魅力について
ガラス作家が、一つひとつ手をかけてつくる作品が、富山ならではのガラスなのだと思っています。そんな場所で生まれた〈富山アイコニック〉は、富山のガラス作家が集まってつくりあげる、作家の個性が息づく商品であるべきだと思っています。世の中には、たくさんのガラス・アイテムがあって、高級なものもあればカジュアルなものもあります。〈富山アイコニック〉は、作り手である作家由来のオリジナリティがあり、かつラグジュアリーな雰囲気も兼ね備えています。ガラスの持つ素材の魅力と、繊細で美しいフォルムを目指しながら、高品質で、シルエットや重さ、使いやすさを極めたアイテムを生み出しています。
富山アイコニックのこれから
富山がガラスで有名なことは、ガラスに携わる人にとっては常識という印象ですが、一般的に広く認知されるには明快なアイコンが必要だと思います。私は〈富山アイコニック〉が、そのアイコンとなってくれたらいいなと思っています。「日本のガラスといえば、富山」と誰もが答えてくれるくらい、もっと多くの人に富山のガラスを知ってほしい。そして〈富山アイコニック〉の制作チームに、私がいると認識していただけるくらい、私個人も作り手として力をつけていきたいと考えています。このブランドがもっと大きくなって、日本国内だけでなく、世界にも魅力あるガラス・アイテムを発信できるようになることを目指したいです。ぜひ、富山のガラス作家たちが集まって起きた“化学変化”に導き出されたアイテムと、これからも進化する〈富山アイコニック〉に注目してほしい。
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