見出し画像

作家紹介 vol.5

 'TOYAMA ICONIC'
富山ガラス アーティスト・プロファイル

vol.5
小寺 暁洋 Akihiro Kotera

画像1

―ガラス作家の道を進むきっかけ―

学生の時からものづくりが好きで、「職人」に憧れを持っていました。工業高校を卒業して、将来の進路は、自分が好きなものづくりの道に進みたいと思っていましたが、何を専攻するかは大学に入学して決めようと思い、近畿大学へ進学しました。専攻は、陶芸や木工など、いろんなジャンルがありましたが、ガイダンスで一目見たときから気になっていたのがガラスでした。オレンジ色に光る、トロトロと溶けたガラスをはじめて見て、大きな衝撃を受けました。吹きガラスを試してみたところ、それがすごくおもしろくて。それまでは「器」は買って使うものと思っていましたが、実際に出来上がったものを見て、「器って自分でつくれるんだ!」と感動しました。その器に料理を盛りつけて、実際に自分で使ってみると、さらなる感動が生まれました。そういう視点でつくっている自分の作品を見て「ここをもうちょっとこうしたほうがいいかな」などと思いを巡らせるうちに、ずっとガラスと向き合う時間がはじまっていました。

―物質的なガラスの魅力―

ガラスという物質は、個体なのに液体と同じ分子構造という、不思議な性質を持っています。通常個体であれば、ピシッと分子が並んでいる氷の分子に近いものですが、ガラスの分子は、水のようにバラバラと並んだ状態で固まっています。しかも、温度変化で水あめのように伸びるのに、少し冷めたらヒビが入り割れてしまうこともあって、繊細で扱いづらい性質を持っています。僕にとっては、その扱いの難しさや不思議な性質も、ガラスの持つ大きな魅力になっています。

―これまで手がけた作品について―

基本的に、吹きガラスは膨らませたガラスを「宙吹き」と呼ぶ方法で整え、手作業で部分的に形を変えてつくっていきます。その手作業によって、ガラスのかたちにわずかな差が出てくるものなので、そういう違いを楽しめる作品づくりを心がけています。これまでつくってきた作品に、銀箔を使用した「plata」、富山独自の色ガラスを使った「足つき器」、そして「score」があります。

北陸・金沢は古くから金箔や銀箔の製造が盛んに行われてきた場所ということもあり、北陸ならではの素材を使ってみようと「plata」をつくりはじめました。酸化して質感が変わる銀の性質を生かし、ガラスの透明なところに部分的に銀を貼ったり剥がしたりして、その対比を楽しめる作品に仕上げています。

「足つき器」は、用途は決めずに、手にした方が、スイーツやドリンク、カクテルなど、幅広く楽しんでもらえることをコンセプトとした器です。写真は、富山独自の色ガラス「コシノアオ」を使用したブルーですが、アンバーとクリアもつくっています。

最後に、五線譜をヒントに生まれた「score」は、スイーツを盛り付ける器をイメージしてつくりました。ガラスケイン(細いガラス棒)を用いて、ガラスの中に一定にリズムを表現しています。スイーツを盛り付けたとき、可愛くなりすぎず、スタイリッシュに映えるようにつくった作品です。

小寺 暁洋 作「plata」

画像2

小寺 暁洋 作「足つき器」

画像4

小寺 暁洋 作「score」

画像4


〈富山アイコニック〉のメンバーとして

〈富山アイコニック〉の制作は、ファースト・コレクションからサポートとして参加していましたが、チームメンバーとして本格的に加入したのは2021コレクションからになります。一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、富山は、たくさんのガラス作家がギューッと集まっている場所です。それぞれが、さまざまな技法とこだわりを持って活動しています。このプロジェクトのように、作家が7人も集まって、一つイメージを持つガラス・ブランドをつくり上げるのは、一筋縄ではいきません。しかし、作家たちの多様性をまとめて、いろいろなエッセンスを感じてもらえるブランドになれたら、おもしろいのだと思います。制作は、個人の優れた部分を打ち消してしまわないように、話し合いながら進めています。メンバーが試作で「こんなのつくってみました」と出してくるものが、自分にはない発想だったり、そこに多くの発見があることは、とても刺激になっています。手づくりならではのガラスのよさを知ってもらう、そんな役目が担えるガラス・ブランドにしていきたいですね。

2021コレクションの作品について

いま制作に臨んでいる2021コレクションのアイテムは、ラグジュアリーさはそのままに、手軽にさまざまな料理にも使える、使い心地、使いやすさという部分を追求しています。特に食べ物を盛り付ける器は、ちょっとしたサイズや高さの違いから、見た目の印象や使用感に少しずつ差が出てくるものです。こうした微妙なニュアンスを、実際に試行錯誤を繰り返して、制作チーム全体で納得できるクオリティに仕上げていきたいと考えています。

〈富山アイコニック〉のこれから

ラグジュアリーなガラス・ブランドとして、手づくりならではの質感と、美しさの精度も兼ね備えていなければなりません。異なる2つの魅力が共存しているところが、このブランドの価値になるはずです。制作チームが一丸となって一つのものをつくることで、ほかのガラス・ブランドとはまったく違った唯一無二のブランドになると感じています。そのために、僕自身がチームの中で役立てることを見つけていきたいと思っています。ゆくゆくは、日本で富山のガラスを広めるブランドになりたいです。富山のガラス作家たちがやっているブランドなんだと、たくさんの人に知ってもらえたらうれしいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?