里山をマウンテンバイクで駆け巡る~道巡りと道創り~
兵庫県神戸市生まれの佐藤将貴さん。
たった一人で半年かけ荒れ果てた里山に道を拓き、里山再生のために精力的に活動する佐藤さんにお話を伺いました。
移住を考えたきっかけ
ご夫婦ともに登山や大自然が好きで「いつかは田舎暮らしができたら」と漠然と思いはあったものの、それは「いつか」の遠い話だと思っていたそう。そんな中、2011年の東日本大震災直後、当時住んでいた北関東も被害を受け、「人生は一度きり。やりたいと思ったことをやった方がいいと思った。」といいます。当時「おおかみこどもの雨と雪」の映画を観て、富山を意識し始め、富山の移住定住ツアーへ参加。
その後も何度か富山へ足を運ぶ機会があり、次第に地域の方との繋がりができました。そんな中、立山町の地域おこし協力隊から奥様へのスカウトがきっかけとなり、家族で立山町への移住を決意されました。
現在は定住歴7年目、陶芸家の奥様と男の子2人(7歳、3歳)の4人家族。(2021年4月取材時)
移住の先輩たち 奥様取材記事(2016年4月掲載)
道を開拓することになったきっかけ
2019年、地域の「東谷地区を歩こう会」の方と雑談中、大観峯という手つかずの里山があることを知り、「里山をマウンテンバイクで走ったら面白そうだと思わない?」の一言にピン!ときたそう。佐藤さん自身、マウンテンバイクに乗った経験がなければ、山道を走るなどという発想もなかったので、目からうろこの思いだったそう。
人口減少や少子高齢化に伴い、森林整備に人手が回らず、美しい景観が失われつつある現実。放置しておけば、やがて鳥獣被害、土砂崩れなどの災害を引き起こし、すべてが悪循環。森林整備をすれば景観を保つことができ、伐採した木は薪にして有効活用ができる。また、農作物を荒らすイノシシを獣害駆除すれば、ジビエとして流通できる。人が動けば、雇用にも繋がる。
地域を守り、皆で楽しめる里山づくりができないかと考えた佐藤さんは、行動を起こします。
約15年間続けてきた機械メンテナンスの仕事を辞めることにしたものの、これからの活動で、少し不安なことが。企画書を書いたこともなければ、プレゼンするノウハウもなかった佐藤さん。その為、まちづくりや場づくりを企画・提案し宿泊業も営む、とある会社へ「勉強させてください!」と飛び込みます。その熱意が伝わり、宿泊業のマネージャーに挑戦することになりました。
しかし、2020年3月、新型コロナウイルスが流行し、せっかく入社した会社は休業することに。その空いた時間を無駄にせず、里山整備をすることになります。夜も明けきらないうちから、日の出まで約2時間。一人で黙々と木を伐り、道を整えます。お決まりのルーティンを毎日繰り返し、半年後、ついに大観峯の古道にマウンテンバイクで走れる約2キロの道が完成したのです。
最初は、「地域の歴史や文化と里山を巡るトレイル遊びを掛け合わせると絶対面白くなる!人里に唯一無二の価値が生まれます!」とどんなに訴えかけても、誰も耳を傾けてくれなかったそう。しかし、本当に道ができたことで、徐々に話を聞いてくれる人たちが増えてきたと言います。
現在の活動と今後について ~道巡りと道創り~
現在は一棟貸切宿「埜の家」のマネージャーを務める傍ら、里山を切り拓く活躍ぶりに社内で新たな部署「マウンテンバイクツーリズム事業部」が立ち上がったのだそう。
「いろんなところでホラ吹いてたら、どんどん道が開けてきた。」
と、楽しそうに笑う佐藤さん。
整備に携わっている仲間も佐藤さんの熱い想いに賛同して一緒に活躍するようになったそう。お話を伺うと「真剣にホラ貝を吹いてる姿は、よくよく見たらおかしいんだけど(笑)誰よりも行動してて、本人が本当に楽しそう!その姿を見てたら、自然と背中押したくなるよね。」毎回、時間が許す限り手伝いに来ているのだといいます。
また、現地説明会の参加者には、「僕も移住者なんです。同じ関西出身で移住の地でとんでもなく面白いことをしている佐藤さんにお会いしたくて、今回参加させてらいました。」という方も。
道はまだ、ほんの一部を開拓したに過ぎず、最低でもあと5本の道を作る予定だそう。自然豊かで楽しい山道を誰でも楽に走行できるようにE-マウンテンバイク(※1)を用意したい。しかし、なかなか気軽に買えるような値段ではありません。そこでクラウドファンディングで資金を集め、E-マウンテンバイクを10台購入することを実現させました。
今後はより多くの人、地域の方々に里山を楽しんでもらうため、マウンテンバイクレンタルを始め、体験会を実施していく予定なのだそう。
(※1)電動アシスト付きマウンテンバイク バッテリー搭載でどんな坂道でも楽に走行することができます。
富山でのくらし
住まいは一軒家を購入し、ご夫婦でリノベーションをされたそうです。現在の家を選んだ理由をお伺いすると、ロケーションが良く、ここなら家族が笑顔になれると思ったから。朝焼けに染まる立山連峰を望み、反対側には富山湾が見えます。毎日素晴らしい景色を楽しませてもらっています。
また、薪ストーブを焚いて焔(ほのお)を眺めることが何とも贅沢な時間です。と佐藤さん。ボタン一つで暖房を付ければいいじゃないって話ですけど、あえて薪を割って、火をおこして焔を眺める。一見、無駄に感じるけど、そんな手間暇をかけて過ごす時間を大切にしています。
移住後の収入は減ったものの、生活にかかるランニングコストが減り、その分、自由に使えるお金は増えたそう。しかも、すでに家のローンが完済!!富山に移住してきたからこそできた自由な時間で自分がやりたいと思うことと仕事が合致しました。「移住に対する満足度は200%です!」と佐藤さん。
移住を考えている方へ
「富山へ移住を希望されている方、人生は一度きりです。迷っている暇があったら行動しましょう。まずは僕のところへ来てみませんか(笑)先輩移住者としてアドバイスやいろんなお話ができると思います。」と熱く語る佐藤さん。自ら行動を起こし、夢を近づけたからこその強い説得力を感じました。
こだわりの道具を見せてください
大岩山日石寺の住職から譲り受けたホラ貝(写真上部)。時々、大観峯の山頂でホラ貝を吹く練習をしています。いつか大観峯の向かい側にある大岩山日石寺の住職からお返しのホラ貝の音が返ってくることを信じて。
飛び出た枝を切るためののこぎり(写真中央)、枯葉や細かい枝を集めるための熊手(写真下部)。どちらの道具も幾度も折れたり、曲がったり。そのたびに修理をし、ずっと使い続けているそう。