ちょっと足りないくらいが、ちょうどいい
南砺市で造園設計事務所を構え、庭師として活躍されている根岸新さん。
移住後の充実した暮らしや庭師のお仕事についてお話を伺いました。
移住を考えたきっかけ
学生時代、漠然と「ものづくり」をする仕事をしていけたらいいなと思っていたと話す根岸さん。ある日、本で見かけた京都の美しい庭の風景に目を奪われました。それと同時に幼いころ、実家のお庭の手入れをする植木屋さんの姿が脳裏に浮かび、庭の仕事も「ものづくり」になるのだな、面白そうだなと思い、庭師を目指すことに。
全国で唯一庭師を育てる学校が富山県にあることを知り、富山市の富山職藝学院へ入学。2年間、庭師としての基礎を学び、卒業後は東京の造園会社へ就職。5年間、親方の下で働きながら修業をする日々を送りました。
その後、お世話になった親方の元を離れ、独立を機に富山県上市町へ移住。上市町を拠点とし、先輩とともに庭師としての経験を重ねていたのですが、仕事を通じて出会った方から「井波へおいでよ」とお誘いを受けたことがきっかけで、2020年に富山県南砺市の井波地区へ移住されました。
富山でのくらし
井波での暮らしはとても気に入っていて、「極端な田舎なのが面白い」と話す根岸さん。
住まいは賃貸の一軒家。上市町から南砺市井波地区へ移り住むときに知り合いから紹介を受けて決めました。家の窓からは棚田が広がり、四季の移ろいで変化する景色を間近で見れるのは、とても贅沢。また、最近は鳥のエサ台を家の軒先に用意して、毎朝鳥たちが食べに来てくれるのを見ることが楽しみなのだそう。そんな自然に囲まれた場所にお住まいですが、自宅から車で数分移動すれば、食料品や生活必需品が揃うお店があり、必要なものはたいてい揃うので、暮らしていくには充分だそうです。
東京で暮らしていた頃、週末ごとに趣味の風景写真を撮りに出かけ、ついでに家電量販店に足を運ぶことも多く、ついつい新しいカメラやレンズが欲しくなり、無駄遣いすることもあったと言います。その頃と比べると、今住んでいる町は人も交通量も多くない。当然、お店の数も少ないから、時にはちょっと足りないって感じる時もあります。だけど、そういうちょっと足りないっていうのが僕にはちょうど良くて、居心地がいいんです。この環境に慣れてきているから、少しでも人や車の多い場所に行くことがあると、ドキドキしちゃうのだと、はにかんだような表情で話してくださいました。
庭師としてのお仕事について教えてください
-----庭造りで工夫されている点はありますか
同じ庭を造らないようにしていますね。人や場所に合わせた庭づくりをするように心がけています。何度も現場へ足を運び、打ち合わせをして、図面を作成していますが、いざ作業をしていると、図面通りでは面白くないなと直感で感じるときがあります。そんなときは現場の雰囲気に合わせて植物の位置や花の位置などを入れ替えて完成させます。
時にはお客さんからアドバイスをいただくこともあり、僕はお客さんとの出会いによって、成長させてもらっていると感じています。
-----根岸さんにとって良い庭とは
ただ眺めるだけの庭だと、つまらないと思うんです。
例えば、木を植えて、その下にベンチがあれば、それだけで充実した空間になります。
住んでいる人が、ふと「あ、庭に出てみよう」と思えるような空間。また、その庭の前を通りすがりの人たちも楽しめる、町の風景の一部にもなっていること。
もう一つ大事なのは、生き物が遊びに来ること。トンボ、蛙、蝶々、鳥など、様々な生き物が心地よいと思える場所は、きっと人にも心地よい場所だと思います。人と植物、生き物が寄り添って使える庭づくりを目指したいですね。そんな庭が価値のある良い庭なのかなと考えています。
-----雪国、富山での冬の庭仕事について
東京だと、冬は良い天気の日が続き、ちょうど落葉樹の葉が落ちている時期。木にとっても負担が少ないため、移動させやすく、いわば庭づくりには最適の時期。
ところが、雪の降る富山だと、そうはいきません。
東京では経験しなかった雪の降る地域ならではの庭木の雪つり作業。職藝学院で雪つりの基礎は習っていたものの、実際に仕事として作業を行うようになったのは、富山に移住してからなんです。庭師の先輩に教わりながら、経験を重ねていくうちに、上手くできるようになりました。そして、雪が積もると庭師としての仕事は一旦落ち着く時期となります。時々、管理しているお庭の除雪作業が入ることもありますが、それ以外は春に向けて図面の作成や普段とは違う作業をしたり、有意義な時間を過ごしています。
今後の目標について教えてください
とにかく、今は庭を造り続けていくことが当面の目標ですと話す根岸さん。個人宅のお庭造りをはじめ、少しずつ規模の大きい公園などの設計施工をしていきたいですね。いつか、親方を招待して、自分がデザインして造り上げた自信作の庭を見てもらいたいというのがもう一つの目標です。だけど、まだまだ自分が納得のいく庭が作れていないから、親方に披露するのはもう少し先かな。
これから移住を考える方へ
南砺市井波地区は木彫刻の町と知られ、職人が多く住む町。その職人の多くが県外からの移住者のため、地域全体が移住者を受け入れてくれやすい環境だと思います。
先輩移住者がたくさんいるので、移住者同士、いいことも悪いことも、参考になる意見が聞きやすいのではないでしょうか。
もっと地域を元気に、盛り上げようと活躍している若い世代が多いので、そういう仲間たちの中に自ら飛び込んでいってもいいかもしれません。
まずは自分のやりたいことや、目標を公言し、行動していれば、背中を押してくれる仲間との出会いがきっとあると思います。
僕も移住されてくる方たちを、応援していきたいですし、僕自身も良い仕事をして、町を盛り上げていきたいと思っています、と話してくださいました。
お気に入りのモノ、コト
根岸さんの仕事道具の数々。
これらの道具を使用し、素敵なお庭が日々造られています。
時間があるとき、近くの閑乗寺公園まで出かけ、そこから眺める井波地区の町の風景がお気に入り。
▷根岸造園設計事務所 https://aratanegishi.com/about/
▷Instagram https://www.instagram.com/p/CaR_YHPJXsU/