最高の小説は、あなたを二度殺す
皆さん、こんばんは。
今日は自分の、本読みにおける気持ち悪い情念の一部を、皆さんにお伝えしようと思います。
手っ取り早く読者をつかむには
以前、自分が大学在学中に、こう言われたことがあります。
「人が求めるものは、カタルシスだよ。謎が解けた時、結末が分かったときのあの快感。あれを物語の中にちゃんと入れておくんだよ。そうすれば、読者をちゃんと引きつけることができる」
確かにそうです。人が惹かれやすいのは、ミステリーです。謎的要素を前面に出した推理小説ではなくとも、どこかしらに謎や読めない展開を仕込んでおくと、人は熱心に読み続けてくれます。
最初に本を読んだときは、熱心にこのストーリーを追う。来たるべきカタルシスのために、目の前に並ぶ文字の列を消化する。黒字に翻弄されながら、その最後の一行を待つ。うぉ~ん、まだ続くのか、くっ、ううう~ん。流れる文字をごくごく飲む。飲む。飲む。そしてその文字が、ある一点から溶け出すのを待つ。
あなたは刺される。その一文に、その文字に、その空白に。飲み込んできたすべての情報達が、あなたの中で一つになる。意味のない情報の連なりではなく、全ては最後の結末に集結し、束ねられる。
あなたはその時、死ぬ。一つの新しい体験群が、あなたの脳内にもたらされる。にゅるっと、新しい架空の記憶が挿入され、過去の記憶とぬるぬる結合する。それはただの情報の追加ではない。新しい体験は、あなたの記憶達のあり方を新しくする。過去の情報を変えるのではない、結合の仕方を、新しい解釈を与えるのだ。あなたは新しい目になって、新しい世界を見ている。ああ。
これが読書における、1つ目の殺人だ。良き小説は、一度あなたを殺してくれる。
こんな風にまあまあの出来の小説、というものは一度読めば満足させてくれる。でも、ストーリーが分かってしまったら、もう読む気がしない。こういう本は「新幹線小説」と勝手ながら呼んでいる。駅前の本屋で買って、新幹線で2時間の間に読み、帰りの頃には要らなくなってしまうもの。
でも、本当に良い小説は、2回殺してくれるものだ。ストーリーが分かり切っているのに、読みたくなる。いや、ストーリーが分かっているからこそ、読みたい。ハラハラドキドキとこの先の展開が心配で、思わず読み落としていた描写や展開のうまさを、しっかり味わいたい。1度目の読書で荒く読み取った情報の解像度を、じっくりと上げていく。
いい小説は2回目も、しっかり殺してくれる。記憶の結合は、再び更新されれる。ぼんやりしていた感動は、あなたの中にしっかりとした形になる。あなたはこれまでと違う自分になれたことを、今度はしっかりと感じられるだろう。
だから、私は待っている。2度殺してくれる、すばらしい文章を待っている。1度殺してくれるものも少ないけど、それでも待っている。想像の中では、何度死んでもいいものだ。