#18 女王様はおかんむり
「もう一匹猫を飼う」
「・・・」
弟の発言はまたも突然にやってきました。
” 飼いたい ” ではなく、” 飼う ”。
本人には既に決まったことなのです。
正直言うと、少し驚きました。弟はゆめちゃんにベタ惚れでしたから、そんなことを言い出すとは全く思っていなかったのです。
少々間が空きましたが、もう決めているならと、私も端的に返しました。
「どこから?(買うの? 譲ってもらうの?)」
***
ある日、個人でお店をしている方が、店の敷地内にいた子猫を見つけた。
1匹だけだった。辺りを見回しても段ボール箱などはなかった。捨てられていたのか、迷子なのか、親猫とはぐれたのか?
辺りには誰もいないし、親らしい猫もいなかった。
とにかくその猫を動物病院へ連れて行った。
生後3ヶ月くらいで、栄養状態は良好とのこと。
けれどもその方は飼うことができないので、引き取り手を探した。
知人の伝で、引き取り手が一度は見つかったのだけれど、しばらくしてやっぱり飼えないと言われて戻ってきた。
友人にお願いしてしばらく預かってもらうことにした。その友人は既に多頭飼いをしているのでずっと飼うのは無理だけれど、飼える人が見つかるまでの間なら、ということで預かってくれた。
その後、友人知人に声をかけまくって広がって、たどり着いたのが弟だった。
話を聞いた弟は、その猫に会いに行くことにした。
***
とまあ、ざっくりこんな事情で会いに行ったのだそうです。
弟の第一印象は、『変なコ』だったそうです。
「・・・? どう『変』なの?」
寝ている姿が変ということでしたが、弟もどこがどう変だったか、説明がしづらいようです。私は諦めて先を促しました。
その猫は、茶色で耳が垂れていたそうです。大体7ヶ月くらい。
獣医さんによると、スコティッシュフォールドと何かのミックスだろうとのこと。
そのコが起きたので、挨拶して頭を撫で喉を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしたけれど、目を大きく見開きキョロキョロと周りを見回して、この音がどこから出ているのか探したように見えたと言います。
自分が出している音だと気づいて更に驚いていたように見えたと。
弟はそのコを抱っこして、「ウチに来るか?」と聞いたらちゃんと返事したそうです(ゆめちゃんのときもお伺いを立て、返事をしたそうなのでもう驚きません)
「・・・お迎えの準備をする間、少し待ってもらえるのかな?」
私は気になったことを聞いてみました。
「1ヶ月くらいは待ってくれるってさ」
それなら良かった。
早速、準備をしなくては。
月齢に合うご飯。トイレは3個になるから場所を考えなくちゃ。トイレは猫の頭数プラス1が必要です。
それに食器も必要だし、おもちゃは何がいいかな?
ゆめちゃんをお迎えするときは、まず勉強するところからだったので時間がかかりましたが、今回は、準備に時間はかからないように思えました。
ただ一つ、最大の問題を除けば。
それは、
ゆめちゃんにどう説明するか ?! です。
約2年間、ゆめちゃんはひとりっ猫でした。自由にのびのび育ち、遂には女王様になってしまわれたので、下の子ができることが、どう影響するかが心配になったのです。
本にもちゃんとありました。つい新しいコに目が行きがちだけれど、その場合先住猫がいじけてしまうことがあるので注意が必要と。
人間の場合でもありますよね。弟妹が生まれると、お母さんはその子の世話をするのに忙しくて、兄姉が拗ねたり幼児退行したり・・・
ゆめちゃんをまず優先させることを、確認し合いました。
そんなこんなの後で、とにかくゆめちゃんに話さないと、となりました。
まずは弟がゆめちゃんに話してみました。
「ゆめ、お前に弟ができる」
ギラリ! 表情がガラッと変わったと思うと、ダッシュでタンスの上に駆け上がり、私たちを見下ろしました。
弟を睨むことに集中していたせいか、私がカメラを向けたことに気づかなかったようです。光の加減もあったかもしれませんが、凄い表情が撮れてしまいました。
ゆめちゃんのこんな顔は初めてです。
左下の写真は、お迎えして5ヶ月くらいの、カメラを嫌がるようになる以前の貴重な1枚です。
右がこの時、つまり弟ができると聞いた後の顔です。
動物は表情筋が少ないから、表情はあまり変わらないと言いますが、「いやいやわかるって!」と、この時ほど感じたことはありません・・・💧
まずい! なんとか説得しないと・・・
そのコは、どこのお家に行くか、なかなか決まらないんだって。一度決まるかと思ったけど、違っていたみたいなの。ゆめちゃんも、おじさんとは相性が合わなくて、私たちのところに来たでしょ? それで「ウチに来るか?」って聞いたら来ると返事したんだって。
そのコが来ても大丈夫だよ、私たちはゆめちゃんのことが大好きだから。それは変わらないからね。これからもいっぱい遊ぼうね。一緒に寝ようね。
ゆっくりゆっくり、毛の逆立ちが収まっていきました。
表情も落ち着き、少しうつむいて。
しかたないわね・・・
ホッ 💧 本当にゆめちゃんは賢くて優しいとジーンとしました。
けれどもこれから、何度も言わないと落ち着かないかもしれないから、これまで以上に、この言葉をかけようと心に誓いました。
「ゆめちゃん、だ~いすき!」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
参考書籍:イラスト図解 室内ねこ くらす&育てる 日東書院監修 松原ペットクリニック院長 岩富俊樹 著者 たまき みけ