知床周回シーカヤックの旅 第4章

羅臼側に出て朝がきた。朝と言っても4時ごろ目覚めて出発の準備をする。

3日目のこの日は気圧が下がってきており、天候が荒れると予想していたので、朝一出て、こぎ切ってしまおうという魂胆だった。

羅臼側は、人の住んでいるエリアが、ウトロ側よりも岬に近いところまできているので、漕ぐ距離も少ない。もう少し漕げばゴールとなる。

予想通り、海が荒れてきた。ウトロ側から漕いできた体力にはかなり堪える。

波は高く、丘が迫ってくるようだ。隣を漕ぐ先輩の船が自分の目線くらいの高さになったりして、海のうねりの強さを肌で感じた。

午前中にはこぎ切って、ウトロ側に置いてきた車をヒッチハイクで取りに行く計画だった。

そしてついに、羅臼側のゴール地点に辿りついた。知床半島周回をやり切った。

ゴールしたので、浜に上陸し、船を陸に上げていると、おじさんが血相を変えて怒鳴ってきた。

「お前ら!この土地を誰の土地だと思ってるんだ!?そもそもどこからきた!?こんな海の荒れてる日に漕いでるバカがあるか!」

ゴールした達成感に浸る間もないまま、急におじさんに怒られたのだ。確かに、上陸した土地はおじさんも物であれば不法侵入で罰せられてしまったかもしれない。

とりあえず、野営場のあるウトロ側から出発して、半島を周回して漕いできた。野営場の管理人に連絡先を教えて出発してきたと事情をおじさんに説明した。
するとおじさんは急に態度が変わった。
おじさんは周回をするなら、ゴール地点の管理人に話をしておくのが筋だろうと僕らを叱りつつも、2人の冒険を褒めてくれているようだった。

「お前らには知床シーカヤック仮免許を出してやる。こんな荒れた海を漕いできたのだから力はあるはずだ。しかし、知床の海をなめるな。今回無事だったのはただのラッキーだったからかもしれないからな」と言ってくれた。

出会った時の印象が強すぎて、今ではただの優しいおじさんが目の前にいる。

「それでお前ら車はどうやって取りに行くんだ?」

先輩がヒッチハイクで取りに行くというと、

「こんな場所でヒッチハイクしても乗せてくれる車なんてあるわけないだろ!乗せてってやるから早く準備しろ!」

え?乗せてってくれるの?

「船に食料とかまだ載ってるんだろ?狐にやられるから、そこの倉庫に入れておけ!」

え?そんな心配までしてくれるの?
もう怖いおじさんどころか、救いの手を差し伸べてくれる神のようである。

先輩と僕の二人はあっけにとられながら、おじさんの車に乗る準備を始める。濡れた服を着替え、食料などは倉庫へ放り込む。

そしておじさんの車に乗り込んだ。

「おいお前、食料を倉庫に入れたか?」

はい

「そんな身なりでもちゃんと人の話聞いてんだな」

と、おじさんに言われた。当時の僕は頭を金髪にしていて、目つきも悪いので、ただのヤンキーに見えていたようだ。無駄に関心してもらえるので、ギャップというのは大切かもしれない。

おじさんの車はすごいスピードで知床峠を走っていく。

「カーブでは多角形にハンドルを切ると、速度が落ちにくいんだ」などといろんなことを教えてくれながら、僕らの出発地点まで戻ってきた。

野営場に着き、お礼を言って車を降りる。

「お前ら羅臼側に来てもお礼なんかで俺を起こすなよ!これから昼寝するから!」

と言って去っていった。本当にただただいい人だった。

そういえば、おじさんの車の中で、おじさんに聞かれたことがある。

「お前ら外国人見なかったか?」

あ、マークのことだとすぐにわかった。見ましたと答えると、

「その外人一人で知床岬の方に歩いて向かったんだ。羅臼で噂になっている。クマもたくさんいるし、危険だから保護しないとまずい」と言っていた。

そんな外人に魚の切り身を与えて元気にしてしまったのは僕たちだ。その後謎の外国人マークがどうなったかわからない。

とりあえず先輩と僕の二人は、無事に車とテントのポールを回収し、あのおじさんの土地に置いてあるシーカヤックの回収に向かう。
おじさんにお礼をしようか迷ったが、起こすな!と言われていたので、船だけ回収してそのまま帰ってきた。

帰る途中、サバイバル生活の反動なのか、無性にジャンクフードが食べたくなり、イオンのフードコートで食事をした。めっちゃ美味しい。

知床から自宅まで、また数時間かけて戻る。2人ともかなり疲れていたので、運転を交代しながら帰ってきた。車内にはケツメイシのカーニバルが鳴り響くが疲れててテンションは上がらない。

人よりもクマの方が多い知床半島で、人に助けられて冒険を終えることができた。

生きててよかった。

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トヤガクト
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