フィールドレコーディングについて④
「この素晴らしい自然の音を録音したい!」「この音を誰かに届けたい!」というのが、大体フィールドレコーディングの始まりなんだろうと思います。ネットで調べて、機材を揃えるところからスタートする。あるいは、手持ちの機材でまずやってみて、トライアンドエラーで自分なりのやり方をみつける。ま、いろいろ方法はあると思います。
今回は、「調べて試したら失敗しちゃった」件。
不測の事態②バイノーラル録音
少し前に流行りました。今もあります?バイノーラル録音。
人間が聴いている臨場感を再現しようとした画期的システム。要は、人間の耳の位置にマイクを設置して録音しちゃうというもの。マイクは左右必要です。
個人で製作しました的マイクから、高価なものまでいろいろあります。さらには、マネキンの頭部のようなものを用意して、その耳部分にマイクを埋め込んじゃうというものまで。
このマネキンを試そうかなと思ったんですが、購入する前に森の中で自分が使っている姿を想像してみたら、もう、グロい。生首そのものだもん。生首と一緒に森にいたら通報されかねない。
ということで、個人様製作の安価なものを購入。これは自分の耳に装着して使うものでした。
で、早速大好きな軽井沢の森へ。
しかしながら、この「自分の耳に装着」というところに落とし穴がありまして。
以前の投稿で、自分の服の衣擦れの音が云々と書きましたが、このシステムはそれを超える問題点があったのです。
なんと、自分の鼻息が録音されてしまう!
・・・鼻呼吸できないんです。無理もないです。自分の耳にマイクが装着されているんですから。
で、どうしたか。試行錯誤の結果、大口開けて、ゆっくりゆっくり呼吸をすることに。うまくいった!これだ!と、思ったんです。最初はね。でも僕の録音スタイルは長時間の生音を録るというもの。
もうね。森の中で長時間大口開けたまま動けないんですよ。音場が変わるから顔も振れない。蚊やブユに攻撃されようが、ハエが口の中に入ろうが、動いちゃダメなんです。でもそんなことは慣れっこなのでいいんですが、ここで不測の事態が。
ヨダレ。止まらない滝ヨダレ。
もう、ダーラダラ。だって、唾飲み込んだらその音も入っちゃうからねえ。これはさぞかし間抜けで不気味な絵だろうなあ、困ったなあと思っているところに、軽井沢だけに品の良いお母さまとお子様が通りがかって。
お子様が、森の奥でヨダレをだらだら流しながら目だけギョロギョロさせている僕を指さして。
「ママー、 あそこに変な人がいる」
「・・・見るんじゃありません!」
と、足早に去って行かれました(本当)。
こりゃー生首じゃなくても通報される録音システムだなーと思いました。でもまあ、いい音が録音されていればいいかな、と。
とにかくすぐに撤収しました。通報されると面倒なので。
そして家に戻って確認。あれだけ苦労したんだもん、いい音だろうよ、ってニヤニヤしながら。
中抜けしてやがる!
がっかりしました。確かに左右はちゃんと録れているんですよ。でもなんか、中央の音がスカスカなんですよ。悩みました。世間ではバイノーラルはいい音が録れるというのが定説らしい。でも僕の感想は中抜けのスカスカ。
方法が悪かった?僕の鼻の形状がいけないのか?今度は天狗の面をつけて実験するか?とかいろいろ考えましたが、結局このシステムはやめました。
だって、天狗のお面が森の中にいたら、間違いなく通報される、というかニュースになっちゃう。
余談ですが、ひとつ実例をご紹介。
その行為、危険ですよ。
知り合いに、メジャーな音屋さんがいるんですが、ある日この方、子供たちのガヤが欲しいということで、幼稚園に出かけたそうです。通りから園の中に向けてマイクをセットして、「おーこの感じこの感じ。いいの録れるぜ」って、ニヤニヤしながら録音していたそうです。
そうしたら、肩をトントンたたかれて。振り返ったら警察の方。
個室で長時間いろいろ聞かれたそうで、いくら自分が有名なテレビ局の音屋だと説明しても信じてくれなかったそうです。無罪放免までは、相当時間がかかったんだとか。気をつけるんだよ!本当に、気をつけるんだよ!と何度も言われました。
フィールドレコーディングをやってみようというアナタ。是非人目を気にしてやってくださいね。