
人間そっくり/安部公房
『自分を火星人だと思い込んでいる、地球人の気違い…だと思い込まれれている、火星人・・・』(p.110)
こんにちは火星人という寓話的ラジオ番組の脚本家の元に、自身を”火星人だ”と名乗る男が訪ねてくる。
男の妻から「夫は気違いなので、刺激しないように」と電話を受けた脚本家は、精神病患者の戯言、と適当に相手をしていたが、二転三転する男の話に次第に翻弄されてゆき・・・
あべこーべーワールド全開。最高。大好き。生き返れ。
ものすごく構えて読んでいるのに、ところどころ馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうあの感じ。オチは星新一作品みたくストンとキマッていて、安部公房初心者の方にも読みやすい一冊だと思います。
火星人と地球人の外見が”そっくり”である以上、男の戯言が嘘である証拠はどこにもない。
”そっくり”というのは厄介だなと思った。
例えば目の前にひとつは本物、ひとつは”そっくり”なじゃがりこがあるとして、どっちが本物か分かんないもんねえ?
食べたとしてもあの食感と味がそっくりなら、どうしようねえ。
真実はある、でも真相は分からない。
ドグラマグラを読んだ時にも感じたけれど、読み進めるうちに自分が居る場所どころか自分自身でさえ覚束なくなってゆく感覚が奇妙で面白い。
精神病患者が狂っていると何故そう言い切れるか、自分が正常だとどうして言えるだろうか。
加えて福島正実氏の解説も素晴らしかったです。解説というより、日本のSF小説史について書かれています。
まさか解説で泣く奴はおらんだろう、と思いましたが私は泣きました。