【R18BL小説】いわゆる麦茶セックス
エアコンが壊れたら命に関わる、そんな風情の無い夏を忘れて情緒に耽りたい。そう、麦茶セックスですね。
3000字弱でサクッと読めるスケベな話。BL小説です。R18描写があります。
今までの『病ませる水蜜さん』シリーズを読んでなくても分かるように書いたつもりの単発ネタですが、よかったらシリーズも第一話から覗いて行ってくださいね。
※受けが男ふたなり設定です。男性の体に女性器もついています。
番外編 二『クーラーが壊れた』
礼の自宅のクーラーが壊れた。
修理は数日後……スマートフォンで天気予報を確認すれば、死ぬ気温ではないだろうというささやかな救いはあった。だが暑い。暑いものは暑いのである。
「明日は早起きしてさっさと大学行くか、一限無かったけどとにかく涼みてぇ……。そのまま大学にギリギリまで残って、夜は我慢だな。はあ、今日はどうするか……」
休日であった。すでに夕方と呼べる時間帯も過ぎ去り、今から大学に行ったところであまり滞在できないだろう。では近くのコンビニにでも行くか……礼が思案していると、なんとも涼やかな顔のままの水蜜が背後で呑気な声を出した。
「出かけるのも面倒じゃない? 明日早起きするんなら、ちょっと早いけど水風呂でも入ってさっさと寝ちゃえば?」
「あー……それもありかな……それにしても水蜜さんは平気そうで羨ましいわ。汗ひとつかいてないもんなあ。暑さも寒さも感じないの?」
「感じてはいるけど、だからって体がどうにかなるわけじゃないからなあ」
礼が水蜜と初めて会ったとき、彼は夏物の白いワンピースを身につけて裸足のまま、雪の残る冬の終わりの山中にいた。その時も寒そうに震えている様子はなかった。
水蜜は怪異である。外見は若々しい青年、人間そのものだ。しかし今と同じ姿のまま途方もない年月を生きてきた不老不死で、どれだけ傷ついても時間が経てばその中性的な美貌を完璧に取り戻す。じっとり蒸された部屋の中、汗で汚れることも表情を醜く歪めることもなく微笑む現在の姿を見れば『やっぱり人間じゃないんだよなあ』と礼は思うのだ。
「礼くんと少しでも暑さを共有するために、私もちょっと暑そうに汗とかかいとこうか」
「そんなこともできるんだ」
「うん。ドキドキするのも、息があがるのも、濡れるのも。別にしなくても困らないこと。ただ、人間に『同じ存在なんだな』と安心してもらうための要素だよ」
「はあ……じゃ、喘いでるのとかも演技?」
「感じてないわけじゃないって言ってるじゃんかー。そうだ! もう寝ちゃうならお風呂入る前にしておこうよ」
「暑いんだけど」
「もうすでに暑いんならもっと暑くなっても一緒じゃん! ねえ、いいでしょー」
水蜜は咥えていたアイスキャンディーをもったいぶって舐り、わざとらしい音を立てて吸う。
このふでふでしい居候ときたら、来客の無い日の部屋着は素肌に礼のTシャツを借りただけのしどけない姿ときたものだ。いわゆる彼シャツというやつで、ミニスカートのワンピースのような際どい姿でうろつく。
今もそんな格好で擦り寄り、脚を開いてだらりと座る礼の股の間にすっぽり収まって背中を預けてくる。見下ろせば艶やかな髪がポニーテールで纏まっており、白いうなじが色欲を煽る。
「さっき冷凍庫見たらこれが最後の一本だった。ゴメンねー。半分あげる」
強引に口内に捩じ込まれた溶けかけのアイスを、噛み砕いて飲み込めば儚い冷たさが喉元を過ぎた。
「半分も残ってないんだけど。ったく……」
サイズの合わない襟元から覗く胸元、惜しげもなく晒された素足の曲線。十九歳の健全な男子は素直に反応してしまうわけで。観念した礼は、ひとまわりほど小さな水蜜の身体を抱え上げてベッドに放り投げた。
不快に張り付くシャツを苛立たしげに脱ぎ捨てる。湿って重たく床に落ちたそれの上に、乾いたTシャツがふわりと被さる。たった一枚脱ぐだけで裸になった水蜜の淫蕩さに眩暈を覚えながら、礼も茹だる頭で自棄気味になる。家の中じゃないか。さっさと全部脱いでしまおう。
ちょっとした水蜜の気遣いか、彼の体温は低めで乾いた肌はひんやりと心地良かった。それも礼の肌がはりついてしまえばすぐにぬるくなり、いつもより性急な前戯で頬が朱く色づいていく。絡まる舌は同じアイスの味が残っていた。
止まらない。汗が滝のように湧き出して止まらない。額から流れるなまぬるい水滴が目に入りそうで鬱陶しい。礼の鼻先からこぼれ落ちた汗が、水蜜の薄い胸に受け止められて鳩尾に水溜まりをつくる。
「水蜜さんは汗かいてなかったのに、汚れちゃったね」
「私も、あとで水浴びするから……っ、いいよ……あっ、すごい。とってもあつい……」
「だから言ったのに。今更やめないけど」
濡れた肌がぶつかれば、平素より大きくまぐわう音が響いて下品さを嘲笑いたくなる。
「楽しそうだね」
「ん……あのね、すごくね、男の人のにおいがする……」
「悪かったな臭くて」
「あ、ん……っ、いいの、それが。いきてるかんじがする……」
肌の暑さも、汗に濡れて額に張り付く髪の感触も、開いたままになって乾く喉も。そんな中でも浅ましく色を貪る歓喜も。これが生きてる人間の感覚なのだと思い出させてくれる。水蜜はこういう時間が大好きだった。
「……ね、外に出して、ゴム外して……わたしもう中でいっぱいイったから……ほら、口でもしてあげる。おねがい、礼くんの味がほしい。すぐ洗うからいいでしょ、顔にかけてよぉ……」
「はは、趣味悪……」
呆れたように嗤いつつも、礼は言われた通りに抽送を止め。未だいきり勃つそれを焦らすように引き抜いて、ぐしゃぐしゃになったスキンが水蜜の腹に投げ捨てられた。
「……ぉ、ごほ……っ」
喉奥まで突き入れられ、流石に人形のようなかんばせを歪ませる水蜜の媚態に仄かに嗜虐性をほころばせながら。礼は遥か上から声でも責め立てる。
「自分ばっかりイってさあ……口でもどっちでもいいけど、俺のこともちゃんと面倒みてよね」
(礼くんって頑張って紳士的なふりしてるけど、やっぱり才能あるなあ)
マゾヒズムも大好物な水蜜は悦んで、頭から雄のにおいでドロドロになるまで目の前の怒張に貪りつくのであった。
一通りことを済ませてしまうと、後からどっと暑さが押し寄せてきて。
礼は自堕落にも裸身のまま、風呂に水を貯めにゆく。朝イチでベッドからボックスシーツを剥いで、洗って干してから大学に……と現実をうんざりと背負いながら。
キッチンのシンクの側には麦茶の残るコップがさみしく佇んでいた。めいっぱい詰めていたはずの氷は溶け切って、手に取れば薄い琥珀色の液体が揺れる。ガラスの表面から水滴が大量に垂れて、床にぼたぼたと水溜りをつくる。
『いきてるかんじがする』
いっぱいに艶のふくんだ囁きを、蒸しあがった脳で反芻する。まだ冷たさが残る液体を一気に喉奥に流し込めば、脳天までキンと貫く痛みで幾分か冷静になれた。なくなりかけの麦茶をきちんと補充しようと思う程度には。
「礼くーん、いっしょにお風呂はーいろ」
「やだよ……涼みにいくのに二人で入ったら暑苦しいったら」
「水浴びるんだから涼しいじゃん! 髪の毛も洗ってね。礼くんので汚れたんだからね」
「水蜜さんがやれって言ったんだろ! はあ……なんで俺も毎回ノッちゃうんだか」
「礼くんも好きだからでしょ」
「違いねーな。ああ、恥ずかし……」
自分は綺麗に洗ったところで、どうせすぐ汗だくになる。丁寧に洗うのは翌朝にしよう……と礼はため息を漏らし、淫らに汚れたまま微笑む『友達』を徹底的に洗いにかかることにした。
乱雑に閉じた冷蔵庫の中が、狭く微かな救いであった。
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