病ませる水蜜さん 続・少し未来の話
はじめに
※『病ませる水蜜さん 第一話』『番外編 少し未来の話』『4コマ漫画1〜10』からストーリーが続いている一連のシリーズですが、細かいところを気にせず甘酸っぱい男女カップルの話としてなら単発でも読めるかもしれません。冒頭に簡単なキャラクター紹介も掲載しております。
※このオリジナルシリーズは私の性癖のみに配慮して書かれています。自分の好みに合うお話をお楽しみください。
【特記事項】
今回は 礼×陽葵
・普段は礼×水蜜(BL)ですが、今回は男女のカップルです。
・今後もこの一次創作BLシリーズはCPも受け攻めも固定しません。好きな組み合わせの小説を選んでね!
ご了承いただけましたら先にお進みください。
↓前作
ざっくり登場人物紹介
※今回は本編より未来の時間設定(約十年後)になってます!
・寺烏真 礼
寺生まれで霊感が強い三十歳。誰かが困っていると身体を張って除霊してしまうお人好しな男。大学生のとき謎の怪異・水蜜に気に入られてしまい、襲われて強引に童貞を奪われた。その後大学在学中は同棲して肉体関係もあった。礼は恋人のように誠実に接していたが、水蜜からは『あくまで友人』と釘を刺されていた。卒業後は同棲解消して真の意味で普通の友人関係となる。つい最近成人した陽葵に告白され、晴れて恋人同士となった。初めて出会った時の彼女は小学生で、ずっと妹のように面倒をみてきた。恋人としての接し方はまだぎこちない。
・水蜜
因習村で神として祀られていた謎多き美人。中性的な外見だが、性別は男に近い両性(男性寄りのふたなり)神様の割に強そうな特殊能力は無く、人懐っこい飄々とした性格のポンコツ怪異。近づいた人を無意識に誘惑して自分に惚れさせる制御不能の能力『蠱惑体質』を持つが、霊感の強い礼には効かなかった。能力抜きで純粋に自分のことを好いてくれた礼のことは水蜜も大好きだが、あくまで友人と考えており、束縛される恋人関係は望まなかった。しかし、自覚していない心の底では礼に強く執着している。陽葵と礼には幸せな家庭を築いてもらい、二人(+子孫も)まとめて自分の側にいて欲しいと思っている。愛情表現が人間と少しズレている。
・郷美 陽葵
礼の大学時代の恩師・郷美正太郎の孫娘。二十歳。元は『桜 陽葵』だったが、親が離婚して郷美姓になっている。郷美家は水蜜を神として信仰する村の名家であったが、村の因習を良しとしない祖父に庇われ、陽葵は村のことをほとんど知らずに育った。しかし彼女は礼を超えるほどの霊媒体質であり、因習村や水蜜という怪異と関わらなくてはならない運命だった。それを心配した礼に怪異との付き合い方を教わり、時には危機から救われることで陽葵は礼に強く惹かれるようになる。十歳年下のため、いつまでも陽葵を子ども扱いしていた礼からはなかなか恋愛対象として認識してもらえずにいたが、二十歳になったのを機に猛アタック。めでたく恋人同士となる。その後順調にお付き合いを続けて結婚、子宝に恵まれ一生仲睦まじい夫婦として過ごす未来が待っている。そうなるように水蜜が運命を引っ張っている。
番外編三『続・少し未来の話』
ここは陽葵の通う大学の近くでひっそりと開いている静かなバー。その立地から客は大学生や教授が多い。あまり馬鹿騒ぎせず、静かに専門分野について語り合うような人の多い落ち着いた店だった。
「懐かしいなー。ここ正ちゃんのお気に入りでさ、礼くんたちともよく来てたよ」
「私もおじいちゃんに教わったの。二十歳になったら、絶対ここでお酒飲むって決めてたんだ。この間礼くんとも二人で入ったし」
「あ、礼くんとはもう経験済みね。よかったー。ひまちゃんの初めては礼くんじゃなきゃダメだよね」
「もー、蜜ちゃん言い方ぁ」
奥のテーブル席……他の客に会話が聞こえにくい席で声を落として話している、水蜜と陽葵は複雑な関係である。陽葵が小学生のころから憧れ続け、先日ようやく恋が実ったお相手・礼とかつて恋人のように同棲していた期間があり、あまつさえ彼の童貞を強引に奪ったのが水蜜である。実質、今カノと元カノ……元カレ? が一緒にいる状態だ。
陽葵が中高生くらいのころは水蜜を恋のライバル視していたこともあったが、「礼くんとは友達で、恋人ではないよ」という言葉が本気であるとわかってからは気の置けない友人となっている。彼は怪異である。多分千年くらい生きている。神として扱われる、人ならざるものである。考え方が、根本から違っている。人間一人に執着したり、嫉妬したりすることはないのだ。
性別も男性だとはどうしても思えない。会話のノリは女子会そのものだ。そんなわけで、今夜も陽葵は水蜜に恋愛相談をするつもりでいた。恋人としての礼についてなら誰よりも知っているし経験豊富。何より猥談に羞恥心が一切無い。ごく普通の乙女である陽葵にとっては貴重な友人なのだった。
「礼くんがちっとも手を出してくれないの!」
「うん、まあそうだろうね」
可愛いなあ微笑ましいなあ、と水蜜はニコニコしているが、陽葵にとってはかなり切実な相談だ。
「十歳も年下だし……初めて会ったときは小学生だったからって、今でも子ども扱いされることだってあるし……でも、私だって二十歳になったんだよ? いつまで妹みたいな感じなんだろうって思うじゃない」
「うーん、どっちもわかるからなあ……私から見たら正ちゃんだって赤ちゃんのころから見てるわけで、今でも可愛いと思うことあるし」
「スケールおっきいね……」
水蜜は不老不死なので、陽葵の祖父が幼い頃から姿が変わっていない。それどころか、先祖代々の郷美家を見守っている。そんな彼から見たら、今生きている人間すべてが可愛いものだと言えるかもしれない。
「でもせっかく恋人になれたんだから、いつまでもセックスできないのは困るっていうのもわかる」
「でしょ! どうしたら大人の女として意識してもらえるのかなあ……」
「それは私にも難しいなあ。だって私は大学にいたときから『いつひまちゃんに手を出すのかなあ』ってずっと思ってたから、今でも手を出さない礼くんの気持ちがわからない」
「いや、礼くんが大学生のとき私小学生だよね。それはちょっと引くよ、蜜ちゃん」
「まあ、昔のことはとにかく。二十歳なら今の法律でも大丈夫なんでしょ? それに、見た目も……」
水蜜は陽葵の姿を頭から足元までじっくり見た。
「礼くん的にはドストライクだと思う」
「ほんと? 恋人的にアリ?」
「うんうん。すっかり大人っぽくなったし。あとさ、礼くん絶対おっぱい見てるでしょ」
「そこ? まあ……確かに視線は感じるけど……」
「本来は私みたいなのより、ひまちゃんみたいな女の子が好きなはずなんだよ礼くんは。だから自信もって」
「でも手は出されないんだけど……」
話は振り出しに戻った。
「考えられるとすればまあ、あれだな」
「何か心当たりあるの⁈」
「一応確認しとくけど、ひまちゃん処女だよね」
「え! あ、うん」
この手の話を振っておいて、面と向かって聞かれるといちいち赤面する。うーん、可愛い。と微笑みながらも水蜜は容赦なく続けた。
「すごく大きいんだよ……おちんちんが……」
「そんなに……?」
「そんなに。私が抱かれてきた数えきれない男の中でも二番目に大きい」
「それでも二番目なんだ」
「一番は雪ちゃんだからね。でもあれ神霊だから。人間じゃないから」
「じゃあ人間なら一位……ってこと?」
「初めて見たときはビックリしたよ」
陽葵が息を呑んだ。
「小さいときに……おじいちゃんとお風呂一緒に入ったときくらいしか見た記憶ないんだけど。その、男のひとのあれって」
「いやいや、正ちゃんは中の下くらいしかないからそれと比べてたらひっくり返るよ」
「知らないところでアレな比較をされてしまうことになったおじいちゃんごめんなさい……ていうか、もしかして蜜ちゃんおじいちゃんともやっ」
「誓ってやってないよ! 正ちゃんと温泉旅行くらい行ったことありますけど!」
「そういえば蜜ちゃんも男の人だったね」
ついつい忘れてしまうが、水蜜は男性と付き合うことが多く女性器『も』持つだけで、基本的に男性である。
「そうだよ? 彼氏がいるのに男と二人きりでお酒なんて、悪い子」
「な、なによ急に……」
普段は気のいいお姉さんのような朗らかさだが、真顔に微かな笑みを添えて黙り込むと端正すぎる顔が恐ろしく感じる。水蜜が不意に男の表情をするものだから、陽葵は思わず身体を後ろに引いた。それを逃さず、テーブルの上の手を取られる。
「なんなら、ボクが慣らしてあげてもいいけど? 実戦で教えてあげようか。男の悦ばせ方」
「おい」
頭の上から降ってきた、ドスの効いた低い声。
「他人の恋人には手ェ出さない主義じゃなかったのかよ」
「やあ礼くん、思ったより早かったね」
「れ、礼くん⁈ なんで……お仕事は?」
怪異対策課の仕事が終わってすぐ来たらしい、スーツ姿のままの礼が二人を見下ろしていた。
「水蜜さんが陽葵を連れ出して呑みに行ったって郷美先生から連絡があったから飛んできたんだよ。一応水蜜さんは俺が仕事で監視してる扱いだからな。管理対象の怪異が妙な動きしてるってことで理由つけちゃったけど、残ってる書類仕事を郷徒さんに押し付けてきたのは明日謝らないとな……」
「郷徒くんは別に、上手く使えばいいんだよ」
「未だに郷徒さんに辛辣なのやめなよ……それで水蜜さん、そろそろ怪異対策課に収容される気になったってことかな?」
「やだなあ! 本気にしないでよお。ちょっとした刺激じゃないか。そもそも礼くんが童貞みたいにウジウジしてるのがいけないんでしょ!」
「どっ……うるせえな! あとあんまり陽葵に変なこと言わないでくれる? この間初デートのときに白いワンピース着ろって入れ知恵したのも水蜜さんだろ!」
「えっ……あれ可愛くなかった……?」
もう肉体関係も同棲生活も解消しているとはいえ、礼と水蜜は相変わらず仲が良い。陽葵に対しては今でも気を遣っているように感じることがあって、こうして遠慮なく言い合っている関係が正直羨ましかった。だから水蜜のようになりたくて、助言通り真っ白なワンピースで初デートに挑んだ。礼はすごく褒めてくれたけれど、あれも気を遣ってのことだったのかと不安になる。
「可愛いかったよ! これは間違いないから言っとくけど! 正直惚れ直した!」
「わかった、わかったから……!」
静かなバーの中で正直かなりうるさかったが、そのときの客層は平均年齢が高かったため『甘酸っぱいな……』なんて生暖かい雰囲気で見守られていた。
「初めて水蜜さんと出会ったときも、そうだったんだよ」
「えっ?」
「陽葵は初めてのデートですごい気合い入れてくれてたから俺もちゃんと応えたかったんだ。大事な時に他の人のこと思い出すなんて最低だろ、俺……」
「そんなこと気にしてたの?」
礼は青春の大半を水蜜に奪われていた。故にまともな恋愛経験には乏しく、変なところで奥手になる。年上だけどそういうところは可愛いと、陽葵は密かに思っていたけれど。
「わかった。もう蜜ちゃんの恋愛アドバイスは聞かないから。ね?」
「そうしてくれると助かる。郷美先生も心配してるから帰ろ? 俺送ってくから」
「なんだよー、正ちゃんもなんなんだよー。私と一緒ならひまちゃんも安心だろー」
「いや、水蜜さんと一緒だから余計心配なんでしょ」
「で、私はどうすれば」
「勝手に帰って」
「ひどーい。ま、私もここで一緒に帰るなんて野暮な真似はしないとも。精々送り狼になってくれたまえ」
「ならないけど」
近くに駐めてあった礼の車まで、二人は無言で歩いた。助手席に陽葵を乗せて、礼も車に乗り込んだところで。意を決して、礼が口を開いた。
「あのさ……さっき水蜜さんと話してたのちょっと聞こえちゃったんだけど……一人でその、挿れる練習……とかしようとしてないよな?」
「し、してないよ!」
「そうだよな? よかったあ……」
盛大にため息をつきながらハンドルに突っ伏す礼に、よくわからないまま陽葵は慌てた。
「そ、そんな大袈裟に……」
「そりゃあするよ心配! 他の誰かとは当たり前に嫌だけど、何か道具とかでも嫌だからさ。先越されてたら」
「じゃ、じゃあさ……」
陽葵とて、初めては好きな人に捧げたい。どうやって踏み出せば良いのかわからないけれど。
「誘ってよ。私のこと」
「……うん、ごめん。先に言わせちゃって。怖かったんだ」
「礼くんが怖いの? 初めてじゃないのに?」
「いい年して恥ずかしいけどさ……俺も初めてなんだよ。恋人ができるのは。妙な怪異に振り回されてたおかげでな」
陽葵が思うほど大人じゃないんだわ、と素直に認める。大柄な体格を丸めて笑う、礼はいつもより子どもっぽく見えた。
「うっかり痛い思いさせて、陽葵が俺のこと怖がるようになったらって。嫌われたらどうしようって」
「嫌いになんかならないよ! そ、その……痛いかもとか、確かに怖い、けど……怖くても、嫌とかキライとかは、絶対に無いもん……」
「本当に?」
「わ……っ」
不意に座席を倒されて、陽葵の身体も仰向けに倒れた。暗くて狭い車の中で、長身で分厚い身体に覆い被さられると思った以上に身動きが取れない。礼は喫煙者ではないものの職場で拾ってきた煙草のにおい、バーで持ち帰った酒のにおい。男の汗のにおい。誰よりも頼ってきたはずなのに、知らない男のように感じられた。
何か冗談でも言ってはぐらかそうとした唇は、噛みつかれるようなキスで塞がれる。キスするのは初めてではなかったけれど。いつもするそれとは違って、あまり優しくなくて。呼吸を奪って、体の内側を暴く行為。口の端から唾液が伝っても構わずに、さらに深く貪られる。ブラウスの上から、豊満な胸に無骨で太い指が食い込む。スカートの内側、内股の柔いところにまで手が滑り込んできて。あっ、抱かれるんだと実感に襲われた。やっとキスから解放されて必死で息を吸い込む、その隙に閉じていた脚が緩んでしまった。ショーツの上から、秘裂を指先でなぞられて……
「もう、濡れてる」
耳元で響く低音に脳髄が痺れた。
「……なんてな! 流石にこんなところではしないぞ!」
そこまでして、パッと解放された。顔が熱い。車内が暗くて助かった。きっと茹でタコみたいに真っ赤だ。心臓の音がうるさいくらい響く。えっ、パンツ濡れてた? 怖かったかどうか以前に、すさまじく恥ずかしくなった。
「ごめんな。服直して」
座席を直しながらそっぽを向く。急に紳士に戻らないでほしい。
「怖かった?」
「……ずるいよ」
「はは。次のデートで覚悟しときな」
「そんなのとっくにしてるよ」
「へえ?」
「今日も、大丈夫な日だよ」
「今日はこのまま家まで送るぞ」
このまま嵐みたいに、奪ってくれてもよかったのに。不貞腐れながらスマホに目を落とすと、水蜜からメッセージが届いていた。
「蜜ちゃんからメッセージがきてた」
「ろくな話じゃないだろ」
「ここから近いオススメのラブホテルのリスト」
「ろくな話じゃねえな! 今日は! 家まで送るから!」
「行こうよ」
「ダメ! 俺が準備してないから無理」
「ラブホ行けば大体揃ってるんじゃないの?」
「仕事終わってダッシュで来たから持って無くてさ……その……俺、そのへんで買えないから。ゴムが」
「歴代二位のやつだ!」
「何の話? てか、見ないでそんなまじまじと……今ちょっと勃っちゃってるから……」
窓から僅かに落ちる明かりでも、はっきり印影が浮かび上がっている。私とちょっと触れ合っただけで、そんなに興奮してくれたんだ……と嬉しくなり、とりあえず大人しく帰ることに同意する陽葵なのであった。
一方その頃水蜜は、陽葵と礼を見送った後カウンターに移動してお酒のお代わりを求めた。ほんの十年前くらいは、ああやって大切なお姫様としてエスコートされていたのは水蜜だったのに。なんて思い返しながら。一人では、食事も酒もあまり好きではないのだけれど。
礼との同棲は大学卒業時に、前もって話していた通りに終わった。だが、水蜜たっての希望で部屋はそのまま水蜜が住み続けることになり、礼は一旦修行のために実家の寺に帰るという形でまとまったのはちょっとした変化だった。
たった四年間だけれども、礼と共に住んでいた部屋をあっさり無くしたくはなかった。随分と広くなってしまったけれど、息子二人は相変わらず寝る時は押し入れに入る。余程気に入ったらしい。水蜜も礼の残した家具の配置やちょっとした小物までそのままに、部屋の中の時間を止めて残る温もりに縋りついていた。
「私、思ったより礼くんのこと好きだったんだなあ」
だからといって、彼を引き止めようとは思わなかったし、彼の新しい恋を邪魔するつもりはない。むしろ陽葵とうまくいって、郷美家に入ってもらうのが狙いなのだ。そうなんだけど。寂しいものは寂しい。
「そろそろ新しい人探さないとなんだけどな……雪ちゃんは好きだけど同棲はキツい……梅ちゃんも杏ちゃんもめちゃくちゃ嫌がるだろうし……」
「お姉さん、さっきの騒ぎなんだったの? フラれたの?」
一人で唸っていたところに軽薄に声をかけてくる大学生らしき若者。空気を読まないナンパだったが、今の水蜜にとってはかえってちょうど良かった。
「やだなあ。私がフッたんだよ。でも元彼に『これからはいいお友達でいましょう』なんて爽やかに言った手前強がっちゃって、本当は寂しいのを言い出せない可哀想な美人に何か言いたいことある?」
「あはは、お姉さん面白いね。マジでフリーなら俺とかどう?」
「どうかな。セックスの相性しだいでは考えてもいいよ」
まあ、今夜の暇つぶしはコレでいいかと品定めしながら。
「また五十年くらい見つからなかったらどうしようなあ、丈夫なお友達……」
次 番外編四
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?