病ませる水蜜さん 第四話【R18】
はじめに
※『病ませる水蜜さん 第一話』から続く一連のシリーズですが、細かいところを気にせずエロシーンだけ楽しむなら単発でも読めるかもしれません。冒頭に簡単なキャラクター紹介も掲載しております。
※このオリジナルシリーズは私の性癖のみに配慮して書かれています。自分の好みに合うお話をお楽しみください。
【特記事項】
今回は 仁×礼(仁が悪霊に取り憑かれている)
・普段は礼×水蜜ですが、今回は仁×礼のR18です。
・今後もこの一次創作BLシリーズはCPも受け攻めも固定しません。好きな組み合わせの小説を選んでね!
・プレイ内容は攻め洗脳の強姦です。受けがノンケなので露骨に嫌がります。
ご了承いただけましたら先にお進みください。
ざっくり登場人物紹介
・寺烏真 礼
寺生まれで霊感が強い大学一年生。誰かが困っていると身体を張って除霊してしまうお人好しな男。大学進学を機に地元を離れ、霊感のことは内緒にして普通の一人暮らしをするつもりだったが……謎の怪異・水蜜に気に入られてしまい、怪奇現象に満ちた大学生活をスタートさせてしまう。何故か水蜜だけは好みドストライクで一目惚れしてしまったが、基本的には完全にノンケ。本来好みのタイプは大人っぽくて胸の大きい女性。男性には欲情しない。
・水蜜
因習村で神として祀られていた謎多き美人。中性的な外見だが、性別は男に近い両性(男性寄りのふたなり)神様の割に強そうな特殊能力は無く、人懐っこい飄々とした性格のポンコツ怪異。近づいた人を無意識に誘惑して自分に惚れさせる制御不能の能力『蠱惑体質』を持つ。その体質のせいで他の怪異も引き寄せ周りの人を怪奇現象に巻き込んでしまう。礼のことは頼りになる友人(セフレでもある)と考えており、束縛される恋人関係は望まない。しかし、自覚していない心の底で礼に執着しはじめている。
・長七 仁
礼とは実家が近所で幼稚園から一緒の大親友。大学も同じ。霊感のような特殊能力は無く、ごく一般的な大学一年生。ただし高身長イケメン。性格も優しくモテるが恋人はいないらしい。恋人いない仲間だと思っていた礼が、大学入学早々恋人と同棲をはじめたと聞き衝撃を受けているようだが……
【簡単なあらすじ】
幼馴染で同級生の親友に襲われるノンケ男子大学生の話。今回は新キャラ『長七 仁』にスポットを当てたお話です。怪異に取り憑かれて自身の欲望を歪んだ形で増幅されてしまった仁は、昔から密かに想いを寄せていた礼を襲ってしまいます。幼馴染で親友という関係を壊したくなかったのに、暴走してしまう仁。恋愛感情はないものの、親友として仁を大切に想っていた礼の決断とは……
一『礼の幼馴染』
ある週末、礼の部屋に友達が遊びにきた。
水蜜の息子である幸梅と杏寿は話がややこしくなるので外出させているが、水蜜はそのまま部屋にいる。大学での偽名『佐藤さん』こと水蜜が礼と同棲までしている事実は、ごく親しい人物にしか伝えていない。つまりこれから招く彼は、礼に相当信頼されている人物ということだ。
「うわ、めっちゃ広いじゃん。綺麗だし大学近いし……家賃高くないの?」
「それがさ、悪霊が棲みついて自殺者続出の事故物件だったんだよね。自分で除霊できたから今は普通の部屋。そのまま激安家賃で住まわせてもらってんだわ」
「何それ面白! 礼ならではって感じ。不動産屋から金もらえそう」
礼と同じくらいの長身に、茶髪の似合う端正な顔立ちは『爽やかな好青年』を絵に描いたようで。二人のイケメンが少年のように無邪気に笑い合うさまは、さぞや女子学生の注目を集めることだろう。
「おっ、噂の佐藤さんじゃん。ほんとに同棲してんだ……話には聞いてたけど……」
「いらっしゃい! 私のことは知ってるんだね。えっと、君は……」
「ああ、ごめんね。俺は長七仁。仁でいいよ。礼にもそう呼ばれてるし」
「仁くんね! よろしくー。ちっちゃいときから礼くんのお友達なんだって?」
「ああ、仁とは幼稚園から一緒だったんだ。中高は同じサッカー部に入ってたし。結局大学の学部まで同じなのはびっくりしたよ。長い付き合いだよなあ」
「そうだな。まあサッカー以外も趣味合うし、俺はそんなに驚かなかったけど。それより驚いたのはお前になんだけど? 入学早々こんな綺麗な彼女できて、同棲って。この目で見るまで信じきれなかったよ。佐藤さん、もしかしてドッキリに付き合わされてない?」
「ふふふー、本当に住んでるよー」
「これは複雑な事情があってさ……」
「わかったわかった。でも寂しいな。恋人いない仲間がまた減っちゃったじゃんか」
「あのさ……それずっと気になってたんだけど」
水蜜はずっと気になっていた疑問を口にする。
「礼くんも仁くんもすごくカッコいい男の子なのに、高校まで恋人いなかったの? ただの一人も?」
「ん? ああ、そうだけど」
「なんで?」
「なんでって言われてもなあ……」
礼も仁も、顔を見合わせて苦笑するばかり。
「時間が無かった……とか? サッカー部の練習も結構厳しかったし、家の手伝いの除霊とか」
「まったく遊べないってことは無くない?」
「うーん、遊べる日も仁とつるんでることが多かったかな。小中学生あたりは毎日のように遊んでたからなあ」
「流石に子どもみたいなノリは無理だけどさ。俺、結構気軽に誘っちゃうから彼女さんからしたら迷惑極まりないかもしれないな……デート最優先で、せっかくできた彼女さんを大切にしろよな」
「わ、いいよいいよ! 私に遠慮しないで、仁くんも礼くんと遊びにいけばいいじゃん! 友達は大事だよ!」
「佐藤さんってなんか大人っぽいね。同級生なのにお姉さんみたい。余裕ある感じがかっこいい」
「かっこ……いいか? 大雑把なだけじゃね?」
家に友達を呼んだ息子に絡んでくるお母さん感はちょっとだけある。実年齢は祖母すら超えるが。
二人が話すところをしばらく見ていた水蜜は、自分なりに納得した様子で満面の笑顔を見せた。
「なるほどなるほどー。仁くんは本当に礼くんと仲良しなんだね。ほかに恋人なんていらないくらいに」
だから礼くんは大学入学まで童貞だったんだね。と心の中で独りごつ。
優しいが度胸はある。身勝手な暴力行為は決してしないが、不意に引き寄せてくる逞しさにはドキドキする。紳士的ではあるが、セックスしたくなれば日和ることなく誘ってくる。それに加えて、色気のある整った顔立ちとよく鍛えた肉体もある。
これだけ条件が揃っていれば、高校生のころにはとっくに彼女がいて経験もしていると考えたほうが自然だと思っていた。実家の寺で除霊の手伝いをしていたというので、何かでしくじり女難の呪いでもかかっているのかとも思った。
だが実際は、この幼馴染の仁という男が礼とのデート権を独占していたようだ。この男、恋人には遠慮しているように見えるが、さっきから礼との距離はかなり近い。礼も違和感なく過ごしているので、ずっとこうなのだろう。雑談のあちこちで、昔から礼のことを良く知っているらしい言動を存分に見せつけてくる。爽やかな友情の皮を被ってはいるが、これは十分牽制だ。気弱な女の子ならば、仁を差し置いて礼と親しくなろうとは思えないだろう。
(この子……好きなんだろうなあ。礼くんのこと)
となると、フリとはいえ恋人の座に居座っているのは申し訳ない気がする。
(礼くんは仁くんと恋人になる気あるのかな。いや……無さそうだな……)
好感度も信頼度も十分すぎるほどだけど。恋愛となると話は別だ。水蜜へのほのかな恋心を『幼い初恋だった』とさっさと片付けてしまった正太郎と、礼はどこか似ている。二人とも優しいけれど、肝心なものは与えてくれない。
熱くて、痛くて、互いを縛るもの。友情だけじゃもらえない、唯一の……
「なあ、水蜜さん。……水蜜さん?」
「へ? あ、えと、何?」
つい考え込んでしまっていた。
仁は日没前くらいの時間に帰って行った。やはり『彼女』に気を遣っているのだろう。
「仁さあ、大丈夫だったと思う?」
「え? ああ、次遊びに来るときは私も梅ちゃんと杏ちゃん連れて外行くね! 二人っきりのほうがいいよね!」
「あれ、そんなにヤバそうに見えた?」
「ん?」
「んん?」
何やら話が噛み合っていないような。
「いやだから仁はさ、俺と違って怪異とかわかんないし霊感も皆無なの。俺と仲良くしてると今後も水蜜さんとよく会うことになるし、効いちゃったら困るだろ? 蠱惑体質」
水蜜は制御不能の力を持っており、耐性のない一般人は水蜜の近くにいるだけで恋をしてしまうことがある。正気を失い、いわゆる『ヤンデレ』レベルまで拗らせてしまいかねないほどに。礼は仁にもその症状が出ないか心配しているのである。
「あ、ああー、それね! そっちね!」
「他に何心配してたの?」
「ううん、こっちの話! 仁くんは心配ないと思う!」
「自信満々だな。なんで大丈夫ってわかるの」
「私の能力ね、他にすっごく好きな人がいると効きづらいのよね」
「え! 仁って好きな人いるの? そんなこと今日言ってた?」
残念、君の想い人はとんでもなく鈍いよ……私は今日の雑談だけでビシバシ感じたのに。水蜜はひっそりと仁に同情した。
「今まで数えきれない人数の恋愛感情にさらされてきた私が言うんだから間違いないよ。仁くんは私なんかによそ見する暇はないくらい、好きな人がいる。間違いないね」
「変な説得力あるな……まあ、仁が誰を好きかは置いといて。それなら良かったよ。あいつは親友だからさ、これからもずっと仲良くしたいんだよ」
屈託のない笑顔。
ああきっと、この顔が何よりも好きで、いとおしくて。何よりも歯がゆいのだろう。
水蜜は心底、仁に同情した。
二『ずっと前から好きだったのに』
大学内、図書室の地下書庫。レポートに夢中になっていたら、随分と遅くなってしまった。仁は一人で本の片付けをしていた。
『仁くんは本当に礼くんと仲良しなんだね。ほかに恋人なんていらないくらいに』
仁が思い返していたのは、礼の部屋に我が物顔で居座っていた妖しい女の顔。何もかも見透かしているような微笑み。
おそらく彼女は……佐藤さんは、仁が礼に対して抱えている想いに気づいている。それが長年積み重なったものであることも。
幼い頃から感じていた何か特別な気持ち。礼が他の誰かと、知らないところで楽しそうにしていると嫌な気持ちになった。それが嫉妬だと気づいたのは中学生になったころ。肉体が男性として出来上がっていく過程、芽生えた性欲はその想いと結びついた。夢精により精通した朝、自分が欲情する相手が礼だと突きつけられたときはひたすら自己嫌悪に陥った。いつもより登校の遅い仁を心配して、わざわざ家まで迎えに来た礼の顔が見られなかった。
それからは、ひたすら己の恋心を隠す日々。礼が無邪気な笑顔で『俺の一番の親友』と言ってくれる、今の関係のままでいたかった。
しかしそれで満足していられる期間もあっという間だった。高校生までがギリギリ限界だった。大学生にもなれば、礼は地元を離れ仁の知らない人たちと新たな人間関係を構築していく。特別な感情を抱く女性と出会い、恋人もできる。当然のことだ。さすがに入学早々一ヶ月もせずに彼女と同棲というのは急展開すぎないかと思ったが。それも仁に対する天罰みたいなものかもしれない。礼から恋愛につながる芽をそれとなく奪い、しかし自分の恋心を伝えるでもなく、臆病で卑怯な手段で礼を独占していた報いなのかもしれない。
「ねえ君」
突然、本棚の影から男子学生が一人現れ声をかけてきた。鬱鬱と考え事をしていたのもあり、仁はかなり驚いた。
「え! あ、ああ……何?」
仁の知らない学生だった。
「長七くんだよね」
「俺のこと知ってるの?」
「よく知ってるよ。君が誰を愛しているのかも」
「……何? どこかで会ったことある?」
何やらただならぬ男の様子に、仁は一歩後ずさる。
「君もオレと同じ気持ちだよね、許せないよね?」
「だから何言ってるの、さっきから」
「だってありえないでしょ。オレのほうがずっとずっと前から好きだったのに。ポッと出の知らない奴が、急に付き合いだして。同棲までしてるんだよ?」
「は……」
ずきりと、胸が痛んだ。
「あんた、誰だよ……さっきからワケわかんないこと言って。俺何も知らないんだけど。人違いじゃないか?」
仁の声色は苛立っていく。それにも構わず、男はずかずかと近づいてくる。
「お願いがある。あの二人を別れさせてほしい。君があいつと付き合えば解決なんだ」
仁は横目で、男が現れた本棚の方を見た。地下の書庫は可動式本棚だ。普段は本棚同士はぴったり詰めて並んでいる。見たい本棚があればハンドルを回して棚と棚の間に隙間を作り、挟まれないようロックしてから入る方式だ。しかし、先程男がいたはずの本棚に隙間は無い。つまり、人が入っていられる空間は無かった。目の前の男は……人間じゃない。
(幽霊が見えてる……まさか、礼じゃあるまいし)
気づいた瞬間、ただでさえ窓がなく閉塞した地下の空気が重くなった気がした。
「君も願いが叶う。お互いに得しかないだろう?」
「そんなこと、無理だ……だって、あいつ、は」
この男は、誰の話をしているかは一言も口にしていない。それなのに仁の頭の中にははっきりと、たった一人の人物が浮かんでいる。
「わかるよ。なかなか踏み出せないよな。でもいい加減勇気を出さないか? オレと協力しよう」
「……っ、やめろ! これ以上近づくな!」
間近で見た男の姿に怖気がはしる。やはり人間じゃない。人間の皮をかぶっただけのような、グニャグニャした何か。顔を見れば、目と口の部分にはただ真っ黒なものがあるだけで……それに気づいた途端に、仁は気を失った。
***
「仁の部屋も綺麗じゃん。てか、ちゃんと整理整頓してて偉いなあ……俺、つい散らかしちゃうんだよな」
今日は、礼の方から仁の部屋に遊びに来ていた。よく考えたら、二人で会うなら必ずしも礼の部屋である必要はないのである。会うのにも特に理由は必要ない。地元に居たときから互いの実家には気軽に出入りしていたし、特別何をするでもなく二人で時間を過ごしていた。一人暮らしをはじめても、それは変わらない。
「佐藤さんとは、どうやって出会ったの?」
他愛のない雑談を経て、話題は自然と恋愛に関するものに流れていった。
「えっと……ヤバいストーカーに襲われてたあの人をたまたま助けることになって、そしたらって感じ……かな」
嘘はついていない。かなりはしょってはいるが。
「へえー! 漫画みたいな話。礼らしいわ」
「あと、あの人も悪いモノを引き寄せやすい性質みたいで、なんかほっとけなくて……たまに除霊もしてるんだわ。だからたまにそういう話にもなると思うんだけど……まあ、テキトーに相槌うっといてくれればいいから。またオカルトな話してゴメン」
「なんだよ、今更。小さいころからお化けの話聞いてるけど、礼の話、テキトーに扱ったことなんてない」
「仁……」
「確かに俺には礼の言ってるお化けとか見えないよ。でも、見えないからって礼がでたらめ言ってるなんて思わない。昔から、そういうこと言ってくるやつはいたから礼が気にするのもわかるけど……俺にまで気を遣われると傷つくよ?」
「ごめんって……いや、ありがとう。俺が『視える』からってウザい絡み方してくる奴がいたら、仁が真っ先に怒ってくれてたもんな」
「俺も……佐藤さんみたいに礼と同じものが視えていたら、」
「ごめん、聞こえなかった今。なんて?」
「ん、なんでもない」
近頃、仁の様子が少しおかしい。明るく振る舞ってはいるが、時々落ち込んでいるような、悩んでいるような……そういえば、水蜜が『仁には好きな人がいる』と言っていたことを礼は思い出し、思い切って話をふってみることにした。
「あのさ、仁の方こそ、最近……」
大事な話だから、姿勢を正して向き合おうとする。少しだけ立ちあがろうとして、立てないことに気づいた。
「あ……れ」
足が痺れたとか、そういう次元ではなく。力が入らない。足だけでなく、身体を支えようとした手も……
「おっと。大丈夫?」
崩れ落ち目の前のテーブルに頭をぶつける前に、仁が礼の身体を受け止めた。まるで、礼がそうなることを予見していたかのような準備の良さで。
「やっと効いてきたみたいだね」
「仁、お前……何を」
「ごめんね、礼。普通の状態じゃ体格はほぼ互角だし、お前除霊得意だからな。飲み物にちょっとね……大人しくなってもらわないといけなかったんだ」
何か盛られた。体はどんどん力が抜けていくが、眠くはならない。睡眠薬ではなく、意識はそのままに体の力が入らなくなる効果なんて……そんな妙な薬、一般に入手は難しいはず。
(除霊を嫌うって……怪異の仕業か……?)
無防備に身を委ねる礼を、仁は愛おしげに抱き寄せた。ここまで近づいてやっと気づいた。仁ではない魂の気配がある。人ではない、いやな気配。
(仁のやつ、何かに取り憑かれてんじゃねーか……どうして気づけなかった?)
それは、仁が完全には悪霊に支配されていないからだ。普通悪霊に取り憑かれた場合、元の人格は気絶してしまう。本来の持ち主ではない悪霊が肉体を動かしていれば、その違和感に礼は気づくことができたはずだ。
しかし、仁は覚醒したままだ。肉体を動かす権利もある。奪われたのは、理性や葛藤だけ。つまり、礼を無理やり組み伏せてでも手に入れたい……そんな欲求は、元から仁の心の奥底にあったというわけだ。
そんな事情を知る由もなく、礼は混乱していた。ここまで気づかれずに懐に入られ悪霊に不意打ちされるなど、ほとんど初めてのことだった。ぐったりと全身を弛緩させ、指の一本も満足に動かない。怪異が作り出した毒ならば、除霊の要領で解毒できるはずだが……意識にもうっすらモヤがかかっており、集中力が続かない。
無抵抗な礼を手に入れた仁は、粛々と作業を進めていった。礼の服を脱がせ、一旦バスルームに運ぶ。二人とも大学生になって運動部を辞めているが、仁は変わらず身体を鍛えていたらしい。礼を抱きかかえることができる程度には。
「やめてくれ、もう、こんなこと……」
「恥ずかしがらなくていいよ。みんなやってることだから」
羞恥を感じるなと言われても無理のある行為が続く。そちらの知識には乏しい礼とて流石に気づいている。これは礼を抱くための準備だということくらいは。
シャワーで最低限下半身を洗った程度で、体の隅々までは洗われなかった。
その理由はじきにわかった。一通りの処理を終えた仁は、自分がいつも寝ているベッドに礼を寝かせた。盛られた薬の効果か、礼の体は熱く息も荒い。どくどくと脈打つ汗ばんだ首筋に、仁の唇が寄せられる。
「礼、いつもいいにおいする。やば……こんな近くで嗅いだらすぐ勃っちゃうのに……ああ、いいんだよな。今日は隠さなくても」
仁の言う通り、礼の太ももに当たっている彼の股間は既に硬く存在感を示していた。
いつも? 今日は? 混乱する礼をよそに、仁は言葉を続ける。
「部活の後とかさ……胸とか腹とか見えるのも構わないで、シャツで顔の汗拭いたりしてたろ。腹筋割れてるー、とか女子もキャーキャー言ってたけど……ズボンもちょっと下がってて、腰も結構露出して……エロすぎて見てられなかった。一回見ちゃったら、しばらくそれで抜いてた」
「は……? えっ……?」
「まさか、妄想が役に立つとはな。男の抱き方調べて、ネットのゲイコミュニティで色々読んで。礼を抱くなんて絶対無理だってわかってたのに、そういうの勉強しまくっては虚しくなってた。でも、今知識が使えた。きちんと準備できてよかったあ……」
「仁……何言って……」
俺を抱くって? 前からそういう想像をしてたって?
以前、怪異に『お前は団地妻だ』という荒唐無稽な洗脳を受けた水蜜の様子と比べると、発言に整合性がとれすぎている。怪異に取り憑かれ記憶や言動をいじられてるにしては、あまりにも自然な仁の言葉に聞こえてしまう。告げられる内容は、信じられないものであるはずなのに。
「一応聞くけど、礼って男に抱かれたことある?」
「あるわけ、ないだろ……」
「だよね。よかった。佐藤さんとのことは聞かなくてもわかるよ。そりゃもうヤってるよね。普段から距離近すぎるもん。ああ、いいよ。そっちはそんなに……礼がその方がよかったら、たまには俺が抱かれるのもいいけど……とりあえず今日は、こっちの初めてをもらうから」
普段の無邪気な触れ合いとはまるで違う。いやらしい意図をもった手で尻を撫でられ、礼は目の前の男が何者かわからなくなって思わず身震いした。
「はじめてだから、ちょっと苦しいこともあるかもしれないけど。できるだけ気持ちよくなってほしいから、痛かったら言ってね」
「なんだよ、それ……こんなの、まるで」
恋人の会話だ。言い淀んでいるうちに、唇を奪われた。軽く、啄むようなキス。至近距離で見た仁の表情は優しく笑っているようで、瞳の奥はギラギラとした欲に濡れていた。
「ずっと前から好きだった。愛してる、礼」
水蜜がときどき戯れに触ってくる以外は、礼の乳首は普段性感帯として意識されていない。仁に摘まれても、はじめはくすぐったい程度だったが……執拗に捏ねられ、吸われ、扱かれているうちに……甘い痺れが走る。女の胸のように胸筋を揉みしだかれ、恥ずかしいだけのはずなのに。
「……んっ、ぅ、あ……」
「可愛い声出た……胸いじられて感じて、すっごいエロい……もっとよがってる声、きかせて」
「い、ぃや、だ……ひっ、そんなとこ、触んなって」
胸を愛でるのと反対の手はずっと下半身を愛撫していて。抗うような声を上げようとすると、陰嚢を掴めるほど股間に手を突っ込まれて裏側を撫でられる。薬で動きを封じられているので、何をされても身体を逃すことができない。されるがまま、強制的に与えられる性的な刺激に悲鳴をあげるしかない。
「風呂で見たことはあったけど、礼のチンコマジでデカいのな……そりゃ彼女は経験豊富で大人っぽくなきゃ怖がられそうだよな」
執拗な愛撫により勃ちあがりかけている陰茎を撫でながら、仁がからかうように囁く。
「こんなモノ持ってて童貞なんて、めちゃくちゃ可愛いかっただろうな。ちょっと妬ける」
同じ男だ。勝手知ったる手つきで扱かれて、あっという間に勃起しきってしまう。同時に胸も弄ばれる。そこも性感帯であると教え込まれるように。
「俺はこんなにデカくはないけど……小さくもないと思うから、しっかり慣らすよ。さっきの下処理でまあまあ弄ってるけど、あんなんじゃ足りないから」
そろそろ慣らそうかと告げられ、胸元を愛撫していた手が離れる。息つく暇もなく、その手は背中を這い回り、徐々に下へと滑り落ち、尻の割れ目に指を滑り込ませて。ぎゅっと締まった窄まりを指の腹で押されて、ついに来たかと礼は息を呑んだ。
「やっぱり。あんな程度じゃもう閉じちゃってる。反応、処女みたいで……いや実際処女なんだけど。礼、こんなにカッコいいのに。可愛いとこ見られて嬉しいよ。無理に力抜かなくていいから、じっとしててね……」
ペニスを扱かれながらぐりぐりと後孔を押されて、じっとり湿った声で耳元に囁かれると、情けないことに腰が抜けてしまう。怪異の毒に打ち勝って反撃する機会を窺わなくてはいけない、そんな理性が遠のくのを感じて、必死で正気をたぐりよせる。そうしているうちに、たっぷりローションをまぶした指が一本、やがて二本と、礼の胎内を蹂躙していく。
(いや、これ、不味いだろ……マジで仁と本番すんのか? ケツ弄られるの違和感しかない……)
「やっぱり……いきなり気持ちよくはないよね」
「……っ、く……」
礼に気持ちよさそうな表情はなく、眉根を寄せてひたすら異物感に耐えている。
「うー……ん……ここ、とかは?」
「うぁっ! え、なに……っ」
「前立腺。そのくらいわかる?」
さすがに直接生殖器に繋がる部分を触れられれば反応する。内側から抉られる快感に礼が戸惑っているうちに、胎内を指で拡げて掻き回す指は十分に増えていた。
「そろそろ……」
自分の体からずるりと引き抜かれた仁の指が生々しく濡れているのを見て、礼は普段と立場が逆であることを自覚させられる。
「できるだけ優しくしたいけど、もう無理……礼を抱きたい。挿れたい。早く……」
下着からまろび出たそれは遠目に見ても怒張しきっていて、仁がどうしようもなく興奮しているのが伝わってくる。
友達だと思っていた男に。家族の次くらいに、長年共に過ごしたであろう親友に。ずっと欲情を向けられていたことを明かされて、これから身をもって味わう。
少し動けるようにはなってきているものの、同じくらいの体格である仁に正常位の姿勢で組み敷かれているので抗いようになかった。
「……っう、あ……」
「すご、い……あつい……きもちい……」
「やめ、もうむり、入んないって、これ……!」
「もうちょっとだから。がんばろ。ね……?」
わかってる。挿入を許してしまったからには、途中で止めさせるのは至難の業だってことくらい。
「ほら、根元まで入ったのわかる? すごい、イイよ……すごいな、礼とセックスしてる……!」
仁が未だかつてないほどに大喜びしている。友達としては『良かったな』と思ってしまいたくなる。
(いや、現実逃避するな俺……! 無理むりムリ、俺絶望的に女役は向いてないって……!)
相手が長年の親友で、小さいころから風呂に一緒に入ったりお泊まりで並んで寝たりしたこともある奴だからまだ、まだ百歩譲って耐えているけども。これが知らないオッさんとかだったら心が折れていたかもしれない。
「そろそろいいかな? 動くね……」
やっぱり折れそう、心。
幸か不幸か、礼は正直あまり気持ちよくない。異物感の方が優っている。おかげで幾分か冷静さを取り戻している。仁が満足して離れてくれる瞬間を待つしかない。
(……あ、仁のやつ、昨日出たあのゲーム買ったんだ……やりたかったな……一緒に……)
天井のシミを数えていれば済む、なんて定番の言葉を思い返しながら。必死で名前を呼んで腰を打ちつけてくる友の声とセックスの音に、名状し難い感情を抱えながら。夢中で自身の肉体を貪る、性欲に支配された親友の顔を見ていられなくて目を閉じると、口腔内を舐め尽くすようなえげつないキスをされた。礼は自棄気味に、水蜜に教わった通りの媚びるようなキスを返してやった。さっさとイけ、と心の中で悪態をついて。
「……っあ、イく……」
紳士的なことに、中で出すのは気が引けたのか。勢いよく怒張を引き抜かれる。その刺激がキツくて仰反る胸と腹に、勢いよく濃厚な精液が撒き散らされた。
「……仁」
「……あ……」
涎にまみれた唇で己の名を呼ぶ。眼下でぐったりと身を投げ出しているのは長年の親友で、最愛の想い人。
黒く長い睫毛と泣きぼくろに縁取られた垂れ目は涙に濡れて、頬から耳まで赤く染まっている。日に焼けた褐色の肌は汗に濡れて照明の光を反射させ、筋肉の印影が濃い胸や腹にべっとり張り付く白濁を際立たせて艶かしい。目に焼きつくひとつひとつが扇情的で、仁は思わず目を奪われた。
「ごめんな。歯は食いしばっとけ」
見事な右ストレート。霊障混じりの毒をなんとか克服した礼が、素早く起き上がって仁を殴り飛ばしたのだ。その衝撃で、黒いモヤ状の怪異が仁の体から飛び出した。
『ぐ、あ……大人しく寝取られておけばいいものを……!』
「何それ? お前の狙いは俺じゃないの」
『それはこいつの望みだ……こいつが貴様と結ばれれば、捨てられたあの方は、オレを……!』
「は……? まさか、彼氏を寝取られて……傷心の水蜜さんにつけこもう作戦……的な……そんなののために、俺は掘られたってのかよ……?」
あまりに滑稽なネタバラシ。重だるい尻の痛みに脱力感。その後に来るのは、とてつもない怒り。
「くっそくだらねえ……水蜜さんの雑魚ストーカーがよ……勝手にやっとけや……俺たちを巻き込んでんじゃねえよ……!」
黒い人型でグニャグニャと、かろうじて形を保っている怪異の頭らしき部分にまずは一発。床に倒れたところで、跨ってさらに一発、二発、三発……。実際のところ、一発でも殴って触れれば除霊できるレベルの怪異だ。礼もそれはわかっていたが、それでは怒りが収まらなかった。結局、完全に消滅するまで怪異は殴られ続けた。これにて除霊完了。
「……ああ、もしもし……水蜜さん? ごめん、ちょっとこっち来てくれないかな。仁の家なんだけど……うん。事情は後で話すけど、俺の代わりに仁を介抱してやってくれないかな……」
取り憑かれた身体を殴られ、乱暴に引き剥がされたショックで仁はしばらく気絶していた。礼は彼が目覚めるのを待たぬまま、着衣を整えて情事の痕跡を跡形もなく片付け、仁の看病を水蜜に任せて自宅へと帰っていった。
三『礼の親友』
事件から二日後。あれから体調不良を理由に大学を休み、自室で休んでいた仁の元に訪れたのは水蜜一人だった。
「あれ……佐藤さん? 一人?」
「うん。あのね……ちょっと入れてくれないかな。大事な話があって」
大学に残してきた礼の顔を思い返しながら、水蜜は真剣な表情で切り出した。
――
「なあ、水蜜さんにお願いがあるんだけど」
水蜜を一人で仁の家に行かせたのは礼だった。
仁は暴走したとき正気を失っていたようだが、そのときしたことを……礼を強姦したことを覚えているのか確認してきて欲しい。礼からの切実な頼みだった。
今回の事件は、怪異に出遭ってしまったことによる不幸な事故だ。数えきれないくらい除霊をしてきた礼にとっては、悪霊に取り憑かれて正気を失った被害者が暴力を振るってくるアクシデントは特段珍しいことではない。性的に襲われたことは初めてだったが……仁だって操られてあんなことはしたくなかっただろうし、傷ついているはずだ。
「もし、何をしたのか忘れちまってたら、仁は俺に殴りかかってきたとかそういう感じで説明してほしいんだ」
「告白してきたこととか、レイプだったことは黙ってるってこと?」
「ああ。今この事知ってるのは当事者の俺と、第三者は水蜜さんくらいだろ? もし仁が忘れてるなら、そのままにしておいたほうがいいと思うんだ」
「礼くんは、仁くんが気に病んで友達じゃなくなっちゃうのを心配してるんだね?」
「そう。こんなんで……くだらねえ怪異のせいであいつと友達じゃなくなるなんて嫌なんだよ。俺が無かったことにして済むなら、それでいいんだ。あいつとは幼稚園からの親友なんだよ。頼む」
――
「……佐藤さん、それを俺に全部話しちゃっていいの」
仁の部屋は、平素より雑然としていた。普段は几帳面に片付けられているはずの空間は乱れ、彼の心の動揺がありありと映し出されている。
「これは私の独断だよ。仁くん、全部覚えてるよね」
「うん。覚えてる」
水蜜にはわかっていた。怪異に取り憑かれて礼を襲っただけにしては、状況が用意周到すぎた。怪異に理性を消し飛ばされたのは間違いないにしろ、根底にあったのは、まごうことなく仁の願望だったのだ。
「礼くんを抱きたいのは正気でも変わらないよね」
「ああ」
「なんでそういうところは気づけないんだろうね、礼くん。人の気持ちには敏感な子だと思ってたけど」
「あいつ、そういうとこあるんだよな。自分に向けられてる好意には鈍感なんだと思う」
「仁くんは、礼くんのことよく知ってるんだね」
改めて、真剣な面持ちで水蜜は仁に向き合った。
「君たちはずっと親友なんだろ? 私が間に入って真実を伝えて、うまく収まるなら……そのほうがいいと思ったんだ」
「何なのそれ……佐藤さんって礼の彼女じゃないの? なんで通報したり責めたりしないのさ。自分の彼氏がホモに襲われたんだよ?」
「私は礼くんの彼女じゃないよ」
「は?」
「うん……仁くんばっかり暴かれてるのは平等じゃないから言っちゃうね。私、普通の人間じゃないんだ」
仁に霊感が無いのを踏まえて、水蜜はかいつまんで自身の素性を打ち明けた。信じてもらえるか自信は無かったが、長年礼の除霊話に付き合っている仁は受け入れるのが早かった。
「え……それって、地元でも礼がやってた除霊とか、化け狸保護したとかそういう案件ってこと?」
「礼くん、地元でも狸保護してたんだ……」
「俺は詳しくわからないけど……妖怪みたいなやつを危なくないように保護する、って礼の親父さんが説明してたような」
「話が早いや。私はその狸と同じような存在なんだよ。妖怪、みたいなやつ……礼くんみたいな視える人間は『怪異』って呼んでるね。私は正ちゃん……郷美先生が子どものころから友達で、そのころから見た目も今と変わってない」
「マジかよ……」
「礼くんは私が普通の大学生のふりして暮らせるように、自分の恋人ってことにして居候させてくれてるんだよね」
「は、はは……」
「仁くん?」
「ああ、わかったわ。めっちゃ腑に落ちた。いきなり彼女と同棲なんてやっぱりおかしいと思ってたんだ。礼らしいわ、そんなことしたら大学で本物の恋人できなくなるのにさあ……人助け優先しちゃうんだよな。底抜けにお人好しな奴。あははは……」
「私もそう思う……いや、すっごい話逸れちゃったよ! あのね、私が言いたいのは、私のことは気にしなくていいから仁くんの気持ちをちゃんと聞きたいってこと! 今回の事件だって、怪異が全部悪いんだよ。改めてちゃんと礼くんに告白するなら、私も……」
「いや、それは無理でしょ」
「仁くん?」
仁は、ひどく寂しげに笑った。
「佐藤さん。俺……『一昨日のことなんにも覚えてないよ』」
「それでいいの……ずっと秘密にするつもりなの? 礼くんに恋人になってほしい、セックスしたいって気持ちは嘘じゃないことまで隠すの?」
「墓場まで持っていくよ。言えないだろ……。俺が一番よく知ってるよ、礼は男に恋はしない。俺は中学くらいから意識してたけど、何度も告白しようか悩んだけど。それだけ様子見してて、結局今も言ってないのが答え」
「仁くんがそうしたいなら、私も話合わせるけど……ほんとに、ほんとにそうするの?」
「俺はゲイだけど、もし友達だと思ってた女の子に告白されたら……その子とは距離を置くと思う。その子を大事に思うならなおさらね。今まで通り仲良くしたいって頑張っても、絶対どっかでよそよそしくなる。礼とそんなことになるくらいなら、何も知らないふりをしてたいんだ。フツーに犯罪なことしたのに、礼の優しさに甘えちゃってるのは自分を心底軽蔑するけどな」
「ううん……仁くんがそうしてくれるなら、礼くんも喜ぶと思うんだ。礼くんは、親友だって言ってた。失いたくないって。必死で言ってたよ」
「ああ、礼のやつ、マジで……いい奴すぎんだよな……」
堪えきれず、仁の目から涙が溢れる。しばらくの間、水蜜は彼の横で静かに見守っていた。
それから数日おいて、礼と仁はすっかり元通りの親友に戻っていた。どこからどう見ても、事件があった痕跡はどこにもなく。
「よかった。礼くんも嬉しそう……唯一の伴侶じゃなくたって、『大切な人』でいいんだよね……一緒にいてもいいんだよね」
すべてを知る怪異は、ひとり微笑む。
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