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この危機へのドラッカーさん三選

 ウクライナの危機は、まさに世界大戦の危機というか、少なくとも「西側諸国」とロシアの戦争になりつつありますが、「なぜこの戦争が起こっているのか?」ということについて、把握するのに、私が役に立つと思える、ドラッカーさんの本を三冊並べておきます。

 ざっくり言うと、以下のように整理できると思います。

「経済人の終わり」(1939年発行)
 先の大戦の原因を読み解いた本
「産業人の未来」(1942年発行)
 先の大戦の戦後のあるべき未来について語った本
「ポスト資本主義社会」(1993年発行)
 今われわれが直面している、資本主義後の知識社会について語った本

「経済人の終わり」

 ドラッカーさんのいわゆる処女作です。改めて読むと、このまえがきの記載が印象的です。

 ファシズム全体主義がヨーロッパの基本原則を脅かす存在であることを知るが故に、私は、ファシズム全体主義革命についての通常の解釈や説明を受け入れるわけにはいかない。それらのものは、表面的な現象の説明と解釈に満足している。争う余地のない事実を認めようとしない者も少なくなく、あらゆる種類の旧体制が自らの死を隠蔽する為に陥った自己欺瞞を連想させる希望的観測にしがみついている。
 旧秩序の支持者たちが陥っているこの自己欺瞞は、彼ら自身の勝利よりも、むしろ新興の革命勢力にとって助けとなっている。

まえがきより

 この記事を書きながら、プーチンさんの演説を読み直すと、冷戦終結後、世界から冷遇されつつ、そして知識社会についていけないロシアの悲痛な叫びにも聞こえます。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html

 先の大戦ではドイツを恐れすぎたことが悲劇を呼んだように、今度はロシアを恐れすぎたことが悲劇を呼ぼうとしているのではないかとも感じます。ロシアにとっては、ソ連崩壊が第一の敗戦であり、今まさに最終的には、第二の敗戦を迎える戦争に突入してしまっているのではないか、と感じています。

「産業人の未来」

 戦時中の著作でありながら、戦後の未来のありようについて書かれた本です。帯に書かれた、ドラッカーさんが「保守主義の原則」と呼ぶこの文言がキーだと思います。

 一人ひとりが「位置」と「役割」を与えられ、権力が「正統性」をもたなければ、社会は機能しない

「帯」より

 また、このような述懐もされています。

 (だからといって、)本書は未来を楽観してはいなかった。本書の中核部分を書いていた1940年の夏、ラジオはナチスの勝利、フランスの陥落、イギリス軍のダンケルク撤退を連日のように報じ、楽観できるものなど何もなかった。しかし本書は、基本的な価値と希望と決意を確認するためのものだった。事実それらのものは戦後実現されていった。その背景には第二次世界大戦後唯一の経済大国となったアメリカのリーダーシップがあった。

「1995年へのまえがき」より

 このまま事態が進行すると、先進国社会は核戦争による、破滅の一歩手前まで進むかもしれませんが、希望を失わないように、前向きに考えようと私は思います。

「ポスト資本主義社会」

 そして時代は下がり、1993年になります。ここでドラッカーさんは、当時理解している範囲での「ポスト資本主義社会」について語っています。
 ドラッカーさんは、その課題として「知識労働者とサービス労働者の格差」「(社会のために生きるという)市民性の喪失」「教育ある人間の育成」をあげていましたが、今振り返ると、これは一国の社会の話だけではなく、世界全体の話と考えた方がいいのかもしれない、と私は思いつつあります。
 さらに、今後「知識」が大切な役割を果たすと書かれていますが、と同時に、以下のように、(1993年当時では)まだ分からないことが多い、としています。

 要するに、少なくとも今日のところ、知識を定量化することは不可能である。
 もちろん、知識を生産し、流通させるために、どれだけのコストがかかるかは計算できる。しかし、知識がどれだけのものを生産するか、すなわち、我々が「知識収益」という言葉で表現すべきものを明らかにすることはできない。
 経済的な事象を定量的に表すモデルが存在しなければ、経済理論とはならない。しかも経済理論がなければ、合理的な選択を行うための方法論も存在しない。この合理的な選択を行うための方法論を明らかにすることが、まさしく経済学の仕事である。
 そのうえ、知識の定量的側面たる「知識の量」は、知識の定性的側面たる「知識の生産性」ほどには重要ではない。このことは、古い知識とその応用はもとより、新しい知識にも言える。

1993年版・P.306

 理想論に過ぎないのかもしれませんが、SECIサイクルをはじめとする知識に関する知見をアップデートしつつ、国内社会での秩序を担保していた保守主義の原則を今、国際社会でも展開する必要があるのではないか?と、この整理をしながら、私は感じました。


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とんきち
団塊Jr。エンジニアを生業としつつ、経済学→経営学→心理学へと関心が移ってきた変な人。ついに退職し、「知識志本主義社会」へ旅立つ。夢(妄想?)は、アダムスミスやドラッガーのように結果として新たな学問領域を打ち立てること。SF:戦略性/学習欲/内省/慎重さ/着想