【対談・前編】TOWING×tesio FOODS ~100年前と宇宙から探るこれからの農業~
対談企画第1弾。今回は、株式会社TOWING取締役COO木村俊介さんと杉山ナッツ代表の杉山孝尚さんの対談前編をお届けします。宇宙農業の技術から高機能バイオマス炭「宙炭」を開発したTOWINGと100年前の農法で幻の落花生を復活させた杉山さん。全く異なるアプローチで土づくりに携わるふたりの想いに迫ります。
【プロフィール】
杉山 孝尚さん(杉山ナッツ 代表)
完全無農薬、完全無添加による幻の落花生「遠州半立」の復活に成功。地元浜松の牡蠣殻や米ぬか、藁や海藻などを用いた昔ながらの農法で栽培した落花生を用いたピーナッツバター「杉山ナッツ」は、毎年売り切れが続出するなど国内外から高い評価を受ける。またtesio FOODSでは、落花生の後作として白菜などの野菜を栽培し、キムチや浅漬けの商品開発に携わる。
木村 俊介(株式会社TOWING 取締役COO)
2020年に創業メンバーのひとりとして株式会社TOWINGを設立。廃棄物をアップサイクルした炭に土壌の微生物を定着させる技術を用いた高機能バイオ炭「宙炭」の事業企画、マーケティング、営業を担当。農地の生産性向上をはじめ、圃場の炭素貯留による温室効果ガスの削減、カーボンクレジット制度を活用したビジネスの創出などを行う。
(以下、敬称略)
【本文】
■地元・浜松の”幻の落花生”で、世界を変えるピーナッツバターづくりへ
――はじめに、杉山さんが農業を始めたきっかけは何でしょうか?
杉山:
もともと農業には興味がなく、高校卒業後はヒッププホップダンサーを志してニューヨークに渡米し、ストリートやブロードウェイのミュージカルでダンサーとして活動していました。その傍ら音楽会社でリーガルアシスタントや監査法人でCPA(公認会計士)など、様々な仕事も経験しました。そのなかで衝撃を受けたアメリカンカルチャーの一つにピーナッツバターがありました。子どもの定番ランチであるPBJ(ピーナツバタージェリー)のサンドウィッチからお酒の〆まで、ピーナッツバターは年齢や貧富の差に関わらず誰もが愛する国民食でした。そんなある日、1904年に開催されたセントルイス万博で地元・遠州(静岡県西部)のスモールピーナッツ(遠州半立)が金賞を受賞した、という略歴の新聞記事が目に留まりました。それから生まれ故郷のピーナッツで、言語や宗教も超えて愛される美味しいピーナッツバターが作れたら、世界を変えられるのではないかと、想いを募らせるようになりました。
――帰国されてからは、どのような取り組みをされたのでしょうか?
杉山:
最初は浜松でピーナッツバターメーカーを作るつもりでしたが、すでに「遠州半立」の生産者はおらず、お茶碗一杯分の種を手に入れるのがやっとの状態でした。また農業について何も知らなかったので、1904年当時の農法を真似しようと文献を読み漁ることから始めました。そのなかで地域の文化や伝統を知り、浜名湖をはじめ山や海など浜松の豊かな土地から得られる牡蠣殻や米ぬか、藁や海藻など豊かな資源があることを知り、今では誰も見向きもしなくなってしまったそれらの資源をフル活用する方法で、完全無農薬、完全無添加による栽培にたどり着きました。
木村:
お話をお伺いして、杉山さんの農園では温故知新で先進的な取り組みをされていると感じました。おそらく杉山さんの農園を分析したら、アスリートの腸内フローラのような、理想的な微生物の環境が整っていて、理想的な土壌づくりをされているのだろうと思いますね。
杉山:
土壌づくりと言えば格好よく聞こえますが、やっていることは100年前の延長線上にあり、10回に9回は失敗を繰り返しながら、自分が良いと思うものをミックスしていく感じでした。また酪農家さんの牛舎で落花生の殻を活用していただき堆肥としてお戻しいただく循環型農業やtesio FOODSで取り組む、土壌改善から自然環境の回復を目指す再生型農業など、新しいチャレンジにも繋がっていると思います。
■エンジニアから農業への転身、サステナブルへの想い
ーー一方で、木村さんが農業に携わるようになったきっかけは何でしょうか?
木村:
私も、杉山さんと同じく農業とは無縁の生活をしていました。前職では総合電機メーカーで半導体の研究開発や車載部品メーカーで自動運転技術の新規事業開発を行うエンジニアとして働いていました。しかし30代に差し掛かり、改めて自身のキャリアを見つめ直した時に、よりお客様との直接的なコミュニケーションを通じて日常生活に密着した手触り感のある事業に関わりたいと思うようになりました。また当時子どもが生まれたこともあり、「子どもたちにはより良いものを食べて欲しい」という想いから食の分野や次世代にも繋がるサステナブルな産業に興味を持つようになり、TOWINGの創業メンバーとしてビジネスを作り上げていきました。
――TOWINGの主力商材である「宙炭」はどのように開発されたのでしょうか?
木村:
TOWINGはもともと、月や火星の砂でエネルギー源となるイモ類などを栽培できる人工の土壌を作る技術の研究開発を行っており、宇宙空間における食料生産システムの確立を目指して起業しました。その中で、より実際的な地球上の食糧問題に対するアプローチとして、創業当初から有していた「バイオ炭(多孔体)に微生物を付加する技術」を活用した土壌づくりによるビジネス展開を始めました。従来の土壌づくりはカンコツ(熟練技術)でやられている部分が多いのが実情でした。土壌づくりはまさにブラックボックスでこの農薬がいい」や「何々菌がいい」といったような単一機能によるアプローチしかされていませんでした。そのため、杉山さんの農地のような上質な土壌を再現性高く他の農地で実装する方法も皆無でした。そんななか我々は、アカデミックの知見とロジックから複合的に土に対するアプローチを行い、複数の微生物をコントロールする技術を活用して土壌改良剤「宙炭」を開発しました。通常3~5年かかるといわれている土づくりを約一か月で完了でき、化学肥料を使わずに品質の高い作物を生産性高く収穫することができる製品形態に仕上がっています。
杉山:
一か月で上質な土づくりが完成するのは、農家の立場からしても「とても早い!」と驚きますね。
後編では、おふたりが日々の”土づくり”で大切にされていることや、お仕事のやりがいについてお話しいただきました。さらに、日本をはじめ世界中で持続可能な農業を広めていくために何が必要となるのか、おふたりの想いに迫ります…。
>対談の後編はこちら
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