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【対談・後編】TOWING×tesio FOODS ~100年前と宇宙から探るこれからの農業~

対談企画第1弾。今回は、株式会社TOWING取締役COO木村俊介さんと杉山ナッツ代表の杉山孝尚さんの対談後編をお届けします。100年前の農法で幻の落花生を復活させた杉山さんと、宇宙農業の技術から高機能バイオ炭「宙炭」を開発したTOWING。全く異なるアプローチから土づくりに携わってきた両者が思い描く、持続可能な農業に寄せた想いとは…?

【プロフィール】
杉山 孝尚さん(杉山ナッツ 代表)
完全無農薬、完全無添加による幻の落花生「遠州半立」の復活に成功。地元浜松の牡蠣殻や米ぬか、藁や海藻などを用いた昔ながらの農法で栽培した落花生を使用したピーナッツバター「杉山ナッツ」は、毎年売り切れが続出するなど国内外から高い評価を受ける。tesio FOODSでは、落花生の後作として白菜などの野菜を栽培し、キムチや浅漬けの商品開発に携わる。

木村 俊介(株式会社TOWING 取締役COO)
2020年に創業メンバーのひとりとして株式会社TOWINGを設立。廃棄物をアップサイクルした炭に土壌の微生物を定着させる技術を用いた高機能バイオ炭「宙炭」の事業企画、マーケティング、営業を担当。農地の生産性向上をはじめ、圃場の炭素貯留による温室効果ガスの削減、カーボンクレジット制度を活用したビジネスの創出などを行う。
(以下、敬称略)

前編はこちら

前編では、おふたりが農業に携わるようになったきっかけと「杉山ナッツ」での独自の農法やTOWINGの主力商材である高機能バイオ炭「宙炭」の開発経緯についてお伺いしました。後編では、両者の土壌づくりに対する想いややりがい、また次世代に繋ぐ日本農業の未来についてお話しいただきました。

■多様性を活かして、「おいしい」持続的な農業を目指す
木村:
上質な土壌づくりを短期間で実現するためには、各地の土の質に合わせた微生物の組み合わせが重要になります。その際、我々は日本に生息する微生物のみを取り扱い、ゲノム編集などは行わず、その農地に根差した本来の生物多様性を保つように心がけています。それは従来の化学肥料や農薬を使用した農業で失われてしまっていた微生物の多様性を再生する機能も持ち合わせています。「ローカルの微生物は殺さずに活かす」ことは、私たちが土づくりの思想としても非常に重視している点です。

杉山:
僕たちは宇宙規模では考えられませんが…(笑)。TOWINGさんの多様性を保つという考え方は、僕ら地域という視点にも通じる部分があるように感じます。面白いことに、地域にいると農業も漁業も工業も全てが多様性を持って繋がっていることを強く実感します。気候変動やコロナなど刻一刻と環境が変化するなかで、一つの産業だけを伸ばすのではなくて、それぞれの生産者が一丸となって課題解決を目指すことが重要だと感じています。僕にとっては地元で取れる資材を活用した農業で地域課題の解決を目指すことが、農業を持続可能にする一歩だと捉えています。

木村:
持続可能な農業という観点では、杉山さんも行かれていたアメリカでも化学肥料や化学農薬による土壌劣化がソイルヘルスとして非常に問題視されています。今年TOWINGもカリフォルニアにラボを設立し、土壌の生物性を復活させる資材として複数の微生物をコントロールする技術の研究が進んでおり、注目いただいています。国内外問わず、サステナブルな農業の在り方を考えていくべき潮流を感じました。

杉山:
そうですね、日本に関わらず農業に関わる人たちの根底には、食べて「おいしい」だけでなく、地球にとって「おいしい」ものを作りたいという想いがあると思います。ただ味の良さを追求するのではなく、自分たちの事業を次の世代に継承していかなければ自己満で終わってしまう。そんな想いから毎年小学校で「一人一株農業」を実施しています。子どもたちが授業で使用したアサガオのポッドを再活用して、落花生を育てながら地域の歴史や文化を学ぶ取り組みです。また栽培した農作物を加工、販売し、収益をどのように活用するかというビジネススキームを子どもたち自身が考える取り組みも実践しています。浜松という小さなエリアですが、次世代に残せる強い農業をしたいという志はありますね。

木村:
「一人一株農業」で土に触れながら農業のスキームを体験できることは、次世代に農業のやりがいを継承する上でも非常に効果的だと思います。実は僕たちも「宇宙が…」とは言いながらも、愛知県刈谷市に自社農園を構え、地球上で農業をしています(笑)。エンジニア出身だったからこそ、工業製品とは違う農業の難しさを肌身で感じながら、これまでには味わえなかった手触り感を実感しています。だからこそ「宙炭」による生育性の改善を間近で体感できたときの喜びはひとしおです。

――今、やりがいというお話もありましたが、現場でのお仕事で感じるやりがいは何ですか?
杉山:
個人的なエピソードなのですが、小学3年生になる上の子が七夕に短冊で「お父さんの仕事が早く覚えられますように」と書いてくれたことが非常に嬉しかったですね(笑)。子どもたちも頻繁に農園に来て虫取りなどをしていますが、日ごろから横目で私の仕事に関心を寄せてくれていたことは、自分の仕事が人のためになっていることを肌で感じられたようにも思います。持続可能な農業の実現に向けて現場ファースト主義として、家族や地域など小さなコミュニティにおいても共感や関心の輪が広がっていることを一歩一歩実感できることに幸せを感じます

木村:
私たちも農業資材のメーカーという側面をもちながら、コミュニティにおける現場主義の重要性を痛感しています。国内で農業の持続性に向けて取り組むうえで、やはりJAグループとの協業は重要になります。我々は環境保全型農業や環境再生農業など新しい農業の知見を有していますが、スタートアップの我々がJAグループの商流を変えていくことは、組織の規模や従来の商慣習からしても簡単なことではありません。その中で、自社農地で実際に農業を行いながら研究開発をしている実績や、JAグループ出身社員による従来の農法を活かした営農指導など、当事者の一人として現場主義の姿勢を大切にしながらステークホルダーとコミュニケーションを取ることで、少しずつ受け入れていただけており、大きなやりがいを感じます。

■日本の農業から、サステナビリティが当たり前の世の中に
ーー今後、おふたりは、農業を通じてどのような社会を目指したいですか? 
木村:
サステナビリティに対して正当な評価ができる世の中になってほしいと思います。日本においては環境再生や持続可能性を金銭価値へ転嫁できていないことが大きな課題だと感じています。サステナブルな農作物がマスマーケットにおいて、高級志向ではなく、標準的なものとして正当な評価を受けられることが必要です。そのためにも我々が有している技術をグローバルに展開することで、環境再生農業がデファクト・スタンダード(業界基準)になる世の中を実現したいと考えています。

杉山:
僕は、目的を持って農業をすることで、地域の方はもちろん、世界中の人々と繋がれる世界を目指したいと思っています。例えば、実際に海外で農業をやるとなれば、肌感覚のない環境で困難なことばかりだと思いますが、「どうすれば良いものができるのか?」という共通の目標を掲げ、同じ方向を見て考えていけることは素敵なことだと思うのです。そこから世界は少しずつ豊かな道に進んでいけるのではないかなと、自分は思っています。海外からも注目を集める日本の農業技術は、そんな世界中の人を引き付ける求心力を持っていると思います。

木村:
杉山さんがおっしゃる通り、生産者の方々のお考えは多種多様ですが「環境に良いことをしたい」という想いは一致しているように感じます。そのためにもサステナブルな農作物に対して、しっかりと受け止めるマーケットを産業として仕立てていくことがまずは業界としてスクラムを組んで取り組むべき一歩だと感じます。作物の高付加価値化など、我々の技術を活用して皆様の想いを具現化するお手伝いをしていきたいと思います。

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