タワマン上層階の子「成績は低迷」の特徴
アクセスがよく、見晴らしがいい。そして、何より特別感がある。大人にとっては最高のタワーマンション上層階だが、「子供の学びにとっては、いい環境とは思えない」と言われるにはなぜなのか?
中学受験専門のプロ家庭教師を始めて約40年。豊富な経験と指導力を自負する家庭教師の授業料は安くはない。そのためおのずと経済力のある家庭が顧客になり、経営者の家庭に訪れることが多くなった。かつては都内の高級住宅地を訪れることが多かったが、ここ数年増えているのが、都心のタワーマンションの上層階に暮らす子供の指導だ。
はじめは、たまたまだと思っていた。次第に「あれ? なぜだろう?」と思うようになった。そして今は、確信に近いものを持っている。それは、タワーマンションの上層階に暮らす子供は、成績が伸びにくいという事実だ。
タワーマンションの最上階に暮らすAくんは、外に出ることを面倒くさがる。いつも快適な温度の部屋で過ごしているから、「晴れているから外で遊ぼう」「涼しくなったから散歩に行こう」という気持ちにならないのだ。外に出ようと思っても、エレベーターの待ち時間があったり、エレベーターホールから玄関まで距離があったりで、時間がかかる。このアクセスの悪さも面倒くさがる原因になる。
外に出るのが面倒な子は、世界が広がらない。小学生の学習には、イメージが不可欠だからだ。子供は自分が体験したことや見たものでないとイメージできない。イメージができないと頭の中に知識が入りにくいし、そもそも問題を理解できないこともある。だから、実体験の乏しい子は、成績が伸びにくい。
別のタワーマンションの上層階に暮らすBくん(小2)も、外に出ることを億劫がる。母親は教育熱心で、幼少期から早期教育に走っていたが、Bくんの成績は常に低迷。母親はBくんを男子御三家のひとつに入れたいと思っているが、今の成績ではとても叶わない。Bくんは、計算問題は速く解けるものの、文章問題がまったくできない。
Bくんは、算数の足し算が「増えること」というイメージを持ち合わせていない。外遊びの経験が少ないBくんは、公園で砂を集めたり、バケツに水を入れたりといった実体験がないから、「合わせる」「加える」「集める」「一緒になる」といった表現に対して、どういう状態かイメージが持てないのだ。そのため「この問題は足すの? 引くの?」とトンチンカンな質問をしてくる。嘘だろうと思うかもしれない。でも、これは本当の話だ。
タワーマンションの上層階で暮らしていると、風や雨の音、太陽の光が感じられないため、四季を感じにくい。国語には情景をイメージし、それを人の心に喩えることがある。でも、四季が感じられない子には、それを人の心に喩えるなんてことは到底できない。「初夏のような清々しい気持ち」と書かれていても、初夏がどんな景色でどんな匂いがするのかイメージすることができない。
季節を感じられない子は、旬の食べ物にも関心を持たない。旬の食べ物というと、有名校では慶應中等部でよく出題されるテーマだが、土いじりをしたことがないCちゃん(小2)は、理科の植物分野全般が苦手だ。じゃがいもが土の中で育つこと、きゅうりにはつるがあることを知らなかった。実際に見たことがないから興味すら沸かない。そこで、私はCちゃんプランターでゴーヤを育ててみることをすすめた。はじめは母親に水やりを任せっぱなしだったか、育っていく様子を見るうちに、少しずつ自分で世話をするようになった。それから植物への興味も見せるようになった。
高層タワーマンションのキッチンは、ガスコンロではなくIHクッキングヒーターが多い。生まれたときからIHのキッチンで育ったDくんは(小4)は、間近で火を見たことがない。家には仏壇もないので、ろうそくに火を灯したこともない。私が驚いたのは、線香を知らなかったことだ。理科の気象の単元でフラスコに線香の煙を入れて、雲ができるしくみを知る実験がある。でも、Dくんは線香を知らないため、まずは線香とは何かを説明をしなければならなかった。
タワーマンションの上層階に暮らす子供はすべてダメかといえば、もちろん、そんなことはない。ただ傾向として、実体験が乏しいために物事をイメージできず、理解するのに時間がかかる傾向にあるのは事実だ。
タワーマンションの上層階は価格も高く、誰でも住める場所ではない。おそらく会社の経営者だったり、医者であったりと経済的に余裕のある家庭だろう。そういう家庭は、子供の教育にも熱心なはずだが、大人の欲望を優先してしまう傾向にある。タワーマンションの上層階のつくりや間取りは、都会を楽しむ大人向けにできていて、子供が伸び伸びとすごせる場所とは言い難い。伸び伸びできないということは、物事に興味・関心を持ちにくく、学びのスイッチが入りにくい。子育てという面で見れば、やはりタワーマンションの上層階は望ましくない、というのが私の率直な意見だ。
タワーマンションの立地に捨てがたい価値を感じるのなら、子育て中はあえて階を下に変えるなど、できるだけ地上に近い環境にし、子供の五感を育ててほしいと思う。引っ越すことができないのなら、床を無垢に変えたり、大人が好むムーディーな照明を明るいものに変えたり、ガラスやメタリックの家具を手触りのいい木製にするなど、リフォームや家具の買い替えで、できるだけ自然に近い環境にしてほしい。部屋に観葉植物を置くだけでも効果はある。
タワーマンションの居住者に限らないが、子供を意識的に外に連れ出したい。都心にも自然が残る公園はあるし、少し郊外に行けば畑もある。そしてできるだけ自然や生活を感じさせるといい。小学校で学ぶ勉強も、中学受験の勉強も、学びの根底にあるのは「自然」と「生活」だ。小学生の学びにそこが欠けていると伸び悩む。成績の伸び悩みは、子供自身の能力よりも環境によるところが大きい。
環境を踏まえてどんなことができるのかを考えるのも重要ではないでしょうか?
出典:タワマン上層階の子「成績は低迷」の理由 プレジデントオンライン
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