マテリアルの設定パラメータは著作権で保護されるか?

元の話は、マテリアルの設定パラメータを販売するとどうなるかと、それの著作権保護の話で議論になっているみたい。
けど、元のツイートはいくつか消えているし、震源そのものの議論とは違うから引用はしません。

でも、著作権周りの話は毎回ややこしく、今回も実はいくつかの論点が交差してて、そういう無為な議論を繰り返さないためにも、ぜひクリエイターの人に知っておいてもらいたいポイントについて、なるべく平たい表現でまとめておきます。

著作権は思ったより守ってくれない

著作権の適用範囲は思ったよりも狭い。
法律には「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と書かれてて、だから例えば、商品名は著作物じゃないし、手法やアイデアも著作物じゃない。(とはいえ、キャッチコピーとかは著作物になるからややこしいんだけど!)
え?ゲームとかのプログラムは?ってなるけど、プログラムは後から著作権法に追加されたというか定義されたというか、条件付きで著作物になっているんだよね。これは後ほど。

で、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ってのが厄介で、ニュース題字なんかが、事実を書いただけの場合には著作物じゃない、という判例が出てたりするんだよね。

著作権侵害になるかどうかについても、結構直感的ではなくて、このサイトが有名な例をまとめてて分かりやすいから眺めてみてほしいんだけど、「博士イラスト事件」なんかは、おいおい重ねたらほぼ一致するじゃん!って感じなのけど、侵害じゃない。

逆にその後に紹介されている「出る順事件」や「西瓜写真事件」は、博士のに比べると位置とかも違うのに著作権侵害になっている。

どうしてこうなるのかというと、著作権は絵全体や工夫に及ぶのではなく、その独自性や創造性といった特徴に対して判断されるからなんだ。これを本質的特徴部分と言ったりする。
同じものを表現しようとしたらその方法が普通だよね?といったものや、今までに似たようなものがあり得るよね、といった場合、あるいは表現の結果ではなく手段だよね、というものは著作権が及ばないことが多い。

著作権侵害は本質的特徴に対して判断される

例えば、絵柄やタッチなんかは、大抵は著作物と判断されないし、真似ても著作権侵害にならない事が多い。真似されるのは腹立たしいかもしれないけど、とにかく著作権はそれを守ってくれない。
なのでマナー違反だという風に責めても、法律的根拠は無いから、自分たちのマイルールに過ぎないし、強制したり罵倒したら、訴えられるのは自分のほうになってしまう危険性がある。
レイヤーの構造も、ポリゴンフローまわりの話、色使いも大体これと同じ話を含んでいて、基本的に、合理的な手段を使っていると独自性は認められにくいから、大抵の場合著作権侵害を主張するのは無理になってくる。

じゃあ完全に真似されて自分の作品だと誤解されるような売り方をされているんですけど!という場合は「不正競争防止法」が役に立つから、これを覚えておこう。他人の商売を妨害したり、真似して評判を乗っ取ったりしようとしている場合にはこっちが管轄だ。

著作者人格権も意外と難しい

著作者には著作者人格権があるじゃないか!という話も出るから、こっちもほんの少し解説。
著作者人格権を、どの状況でも著作物を好き勝手されない権利というワイルドカードだと思っている人は結構居るのけど、そこまで強くはない。といううか、強くなりすぎかねないのでかなり限定して定義されている。
とくに「同一性保持権」と「名誉声望保持権」が便利すぎるのか「アバターを売った相手と喧嘩したので動かす権利を剥奪します」とか「あなたの使い方は著作者の自分が傷ついたと思ったので違反です」という後追いの権力的な使い方をする人が居るけど、そこまでの効力は無いんだよね。
あくまで、著作物の扱いによって、著作者が客観的に誤解を受けたり社会的評価が落ちていると裁判官が判断できるような状況でなければならないので、認定される範囲は想像より狭いんだ。
このあたり解説していくとすごく長くなるけど、一旦はワイルドカードじゃないよってだけ覚えてください。

結局、マテリアルパラメータは著作権で守られるの?

結論から言うと、守られない可能性が高い。

マテリアルパラメータを美術として考えると、絵柄や色使いに近い。
例えば金属の質感を完璧に表現したパラメータは、表現したいものに対する手段にあたる。手段そのものは、著作権法では守られない。直感に反するかもしれないけど。
とくに同じものを表現しようとすると値が近くなる場合は認められにくい。

マテリアルパラメータをプログラムとして考えても同じような話になる。プログラムは、後から著作物に定義された特殊なものだけど、あくまでプログラムの結果による「表現」が著作物であるという判例が出たりしている。
なので、プログラムの手法やアルゴリズムそのものは著作物ではないってことになることが多い。だからソフトウェア会社がアルゴリズムを守りたい場合は特許を取るんだね。

もちろん、マテリアルパラメータや、そのマテリアルだけを眺めて「作者の感情や思想が伝わるな~」って客観的に思えるなら著作物なんだけど、ちょっと強弁するには無理があるよね・・・?

じゃあ売ってるモデルとかのマテリアルのパラメータをコピーしてきて売ったらどうなるの?

元々の販売物を邪魔する可能性があるなら、不正競争防止法で利益の侵害になるかも。でも、元々の販売物を邪魔したり乗っ取ろうとしたり商標侵害してない場合、止める根拠が薄くなるからちょっと難しいんじゃないかな・・・。

使用しているshaderのライセンスは関係するの?

マテリアルってことはshaderを使用していて、じゃあライセンスはどうなっているの?という話も議論に混ざっていたのでこっちについても。
議論の結論には結局直接は関係ないのけども、こちらも覚えておくべきポイントを解説。

今回で言うと、liltoonがMITライセンスで、MITライセンスは特定の表記をすればどう使おうと自由なライセンス。特定の表記は大抵LICENSE.mdってファイルとかに書かれているのでうっかり消さないようにすればOK。
(3D空間上で表記が必要かどうかという議論について、現状それを求めている著作者が居ないっぽいので省略)

自由の度合いはむちゃくちゃ広くて、無断転載も販売もOK。ってか許可されてるので無断も何も無い感じ。liltoonを含んだものを販売しても大丈夫。このあたりは文化の違いを感じるよね~。

え?じゃあMITライセンスを使ったモデルは無断転載されるの?

これはよくある勘違い。
MITライセンスで許可されるのは、そのライセンスが記載されている部分だけなので、その周囲にまでライセンスが感染することは無いです。
でも、感染するライセンスも確かにあるので、まとめておきます。

ライセンスが感染しない

  • MITライセンス

  • BSDライセンス(修正BSDライセンス)

  • Apache License 2.0

  • zlibライセンス

  • CC0

感染することがある

  • CCライセンスのうち、「SA」とつくもの

複雑すぎてここには書けません。理解せずに使用することはおすすめできません

  • GPL

CC(クリエイティブ・コモンズ)ライセンスには、CC0がよくあるのでフリーってイメージがあるので注意したいね。

まあでも、無料で出回ってるshaderは、MITライセンスなことが多いから大抵は大丈夫。

以上、間違いがあったら教えて下さい。
タオルくんでした。