15.岩手の出稼ぎ労働者
15.岩手の出稼ぎ労働者
スポーツでも何でも相手の嫌がる戦術を採ると言うのは必勝のセオリーでもある。
実子誘拐の実行犯の出身地は岩手県久慈市。この久慈と言う地名であるが、ハッキリとした由来は分かっていない。比較的新しい時代のものは由来が分かるが、有史以前からのものには諸説あるというのが一般的だ。そもそも人々は、古来は川、つまりは水と生きて来た。世界の文明も大河が中心となって発達している。海よりの地名で津と言うのは港を意味する。えぐられて崩れた地形の事と言うのが久慈の地名の大本という説が主力だ。「えぐる」という漢字書きは「抉る」と書くが一般的ではない。刃物などを突き刺してくりぬくような動きを「えぐる」と言うが同時に心の動揺を引き起こし、心が痛むという比喩(心がえぐられるなど)表現に於いても使われる。つまり久慈とは、心が痛むようなと言う意味でもある。あるいは口津から転じたもの。口津とは河口付近の港を言う。また口州。こちらは河口近くの長い海砂州の事だ。つまり「クジ」とは「抉る(くじるとも読む)」で、「ほじくる」こと。凹凸の多い、荒れたグジグジした地形。まあリアス海岸だ。そして「ぐじぐじ」とは、それが転じて物言いや物音などがはっきりしなくて、聞きとりにくいさま、また、口の中でつぶやくように、不平などを言うさまを表わす語。ぐずぐず。ぶつぶつ。と辞書にある。まさにあの岩手特有の無口な誘拐犯の特徴をよく表現していることは言うまでもない。
相手方は「マザコン」と言う言葉と同じくらいに「岩手の出稼ぎ労働者」という部分に過敏に反応した。岩手の寒村では最盛期には人口の約3割が出稼ぎ労働に従事していたという。3割と言うと少ないようだが、女は基本出稼ぎには行かないし、子どもや老人もいる。つまり3割と言うと生産年齢人口のほぼ100%が出稼ぎに行っていたと言う計算になる。電気やガスが普及すれば毎月の支出が生じるが田舎にはそんな生活を支える産業基盤がない。最低賃金という概念が出来たのは昭和34年。当時、東京では1日働けば1000円前後、岩手あたりだとなんと150円だったと言う。実に6倍以上の差だ。当然、そんな労働者は馬車馬の如くこき使われた。現代でもキツイ、汚い、危険な職場には後進国からの出稼ぎ外国人が多い。まさにそんな感じだろう。出稼ぎのピークは元夫、小山田隆志が生まれた昭和47年だ。翌年から出稼ぎは減るのだが、何も岩手に産業基盤が誕生したと言う理由ではない。昭和48年、石油輸出国機構は原油の減産と原油価格の4倍もの引き上げを通告してきた。産業を石油に頼る世界各国は大打撃を受けた。世に言うオイルショックだ。それまでは高度経済成長の波に乗り、東京へ行けば仕事はいくらでもあったが石油危機で消滅した。かなり危険な仕事、当時だとマンホールから地下下水道の点検作業と言った過酷な仕事。まず健康な人でも体を壊す。そして交通事故。当時は急速に自動車が普及し死亡事故も多かった。特に田舎から出てきて、交通ルールをマトモに知らないおじさんどもがかなり亡くなっている。昨年の交通事故死者が史上最低を記録した。統計があるのは昭和23年からだが、当時は無謀運転の進駐軍ジープが多かったらしい。昭和23年が3848人、昨年が2636人だ。しかしかつては年間2万人近くが亡くなっていたのだ。
元夫である相手方の父親は幼少期に亡くなっていると聞いている。病気などの可能性はなくはないが、年齢的に言っても事故の可能性は大きいだろう。どんな事故なのかは想像も出来ないが、交通事故ではなく仕事上の事故だと推察する。と言うのも、近年の話だがコンビニやらチェーン飲食で見かける外国人は以前とは国が異なる。まず、殆ど見かけなくなったのが韓国や中国からの人でその人数もかなり少なくなった。他方で増えているのがベトナムやネパールで、新型コロナの影響もあるがついに昨年ベトナムが最多となった。これには当然に事情がある。かつて我が国は家電や半導体がお家芸であり世界を席巻していた。しかし現代では家電も半導体も新興国に後れを取る始末である。バブル後の失われた10年とか言っているうちに中国に抜かれてGDPは世界3位に転落した。いや転落したというだけではない、大きく水を開けられたのだ。世界一は米国だが、かつての我が国は米国の約50%の水準に迫っていた。我が国の人口は米国の40%弱だから一人当たりGDPは上回っていたのだ。
他方、中国は我が国の10倍近い人口を有し、その点では些かの利があるがいずれ追いつかれるだろう。世界のシンクタンクに拠れば、2028年頃までにアメリカは抜かれるという見方もある。もっとも一人っ子政策などの弊害で生産年齢人口の鈍化が著しく、停滞するという見方もある。この辺、経済の先を見通す事は非常に難しい。しかし中国以上に発展したのが韓国だ。人口が我が国の半分以下(約5000万人)で、GDPの絶対額は当然及ばない。しかし1人当たりにすれば既に我が国と大差ない(我が国が1.16倍)。既に絶対額でもカナダに匹敵する。韓国より上位なのは米中日独英仏伊しかない。いずれも韓国より人口の多い先進国だけだ。豪、加と言った先進国でも人口が少ない国ではもはや韓国に及ばない。
昭和の終わりから平成初頭の頃、我が国の最低賃金は東京都で600円くらい(平成1年に525円)。当時の韓国は90円ぐらいだった。昨年10月の改訂で1041円となっているが34年経っても2倍には届いていない。
アメリカは州によって制度も違うし、チップと言う習慣がありそれも賃金と見做すかどうかで変化するが概ね15ドルほど。つまり最低時給は約1700円だ。イギリスは8.91ポンド(全国一律)。つまり約1400円。だから当然出稼ぎ目的で我が国に来るものは先進国からはいない。
つまり、我が国は落ちぶれるところまで落ちぶれたのだ。
かつては東北にもこうした「人買い」が出向いていた。さすがに今では「均衡ある国土の発展」とやらで、格差はあるにせよ東北でも生きられない事はない。しかし土地の人間からすると、苦労話などは絶えず聞かされたはずだ。
当時の都市部の人間からすれば、東北の出稼ぎ労働者を見る目は、後進国からの外国人出稼ぎのそれと大差はない。
相手方は、そうした事をイヤというほど思い知らされているのだろう。
だからこそ、「出稼ぎ労働者」と言う言葉に対して 「マザコン」 と同じくらい反応したのだろう。そこに子どもたちへの配慮は一切感じられない。まあ、だから他にまた女を作ってから実子誘拐を決行できたのであろうが。
また、すでに書いたように、相手方は2歳のときに父親を亡くしているが「俺のせいで父親が死んだ」と言っていたことがある。その理由を聞いたら「お前が知る必要はない」と相手方の次兄・英明の嫁、豊美と話していた。
と言うか、これが解せぬのだ。
豊美からしたら私の事を良く思わないと言うか、それこそ悪感情しかない事が容易に推察できる。なぜかというと、相手方が前婚家庭の存在を隠していた時のその元嫁がこの豊美の友人・美喜であり、知らなかったとはいえ、美喜とその子どもたちを相手方が捨て去った理由を私だと思い込んでいるからだ。まさに家庭を壊した誑惑(←「きょうわく」と読む)の女狐ぐらいに思っているはずだ。
ただ、それでも豊美の夫・英明の弟、つまりは末弟の隆志君のしでかした事だ。確かに不倫の末の略奪婚だと聞くし、そこは騙されたと言っても始まらない。子どもを捨て去る動機となった存在だと分かっていたのなら尚更だ。そこは色々有ったとしか言わないが、豊美にしてもどの時期かは分からないにしても次兄・英明や友人・美喜の年齢からすれば既に当時も齢40を過ぎた中年女だ。分別や弁えのない年齢ではあるまい。つまり、その時点から良からぬことを企図していた事は十分に考えられる。実子誘拐の手伝いをさせたことは、相手方が平成25年(2013年)12月の供述調書で認めている。
そもそも、英明・隆志の父親が亡くなった。子どものせいとは言うが、例えば溺れた我が子を助けようとしてという絵に描いたような事例ではないだろう。小山田隆志君が生まれた年は東北からの出稼ぎのピークでもある。その翌年のオイルショックで減少に転じた。出稼ぎ仕事も減る中、隆志君が生まれて大変ではあっただろうし、危険な仕事も厭わず従事したのではないか。
親が子のために働くのは当然の事ではあるが、無理した出稼ぎ先で野垂れ死にしたのではないかと拝察する。往時の事故で言えばマンホール内での酸欠死とか。何かは分からないにしても非業の死であろう。と言うか、その事は英明の状況というか、聞く限りの話ではつながるのだ。その端緒となるのが仕事だ。就職の際、何を基準に選ぶのか。そこは人それぞれだろうけど大卒の就職と高卒の就職は大きく異なる。基準は給料の額とか働く場所とか職種とか企業規模とか様々だろう。意外だろうが田舎の高卒で地元を離れて就職する場合、将来的な出世とかは見込めないだろうが、誰もが名前を知るような有名企業に入社する事は可能だ。そんな中で、中小企業とは言えないが能美防災というチンケな会社に入社した。最初は英明が就職し、その縁故で元夫・隆志君がと聞いてる。確かに防災分野ではホーチキ(会社名)と並ぶトップ企業ではあるが、能美防災自体セコム(旧社名・日本警備保障)の子会社に過ぎず、ホーチキも損保会社のグループ企業に過ぎない。
会社を選ぶ際に縁故も重要な要素だから、相手方が能美防災を選んだのは必然なのであろうが、英明が「防災」という職種を選んだのは父親の野垂れ死にというのが経緯ではないのかと推測できるのだ。