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絵に描いたもち:お話物理:摂動論のさわり

前回までは,粒子の性質を探る方法について話してきた.目に見えない粒子の性質を探るには,粒子をぶつけて,飛び散りかたを見るのだった.

そのデモンストレーションとして,陽子-電子散乱の話を始めたのだった.陽子-電子の系は,水素原子と同じハミルトニアンで指定される.ただ,電子が陽子に囚われているのが水素,これから考えるのは電子のもつエネルギーが高く,囚われない状態を考えるのだ.

散乱を考えるときは,始状態から終状態への遷移を決めるS行列を計算すればよかった.

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ではこの問題でのS行列はどんな形をしているのだろうか.S行列は始状態から終状態への遷移なわけだから,粒子を撃ち込んでから出てくるまでの十分な時間をかけた変化なわけだ.

系の時間発展はSchrodinger 方程式で記述されるから

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ハミルトニアンで時間発展が決まるはずだ.Schrodinger 方程式の左辺は,時間微分,つまり時間のちょびっと変化を表し,そのちょびっと変化はハミルトニアンで決まると言うものだ.

ではS行列を作るなら,ちょびっと変化を積み重ねれば良いのだ.

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ほぉ〜ん.ハミルトニアンを指数の肩にのせて積分すればいいのかぁ....


いやまぁそうなのだが,現実的な問題として,この積分は実行できない.なぜなら,ハミルトニアンは演算子,言い換えれば行列だ.数の行列乗と言うものは基本的に定義はできるが,人間に実行できない.人間に実行できるのは,行列が対角化された場合のみだ.

ハミルトニアンが対角化されるのは,エネルギー固有状態に対してのみだ.つまりS行列を知るには,エネルギー固有状態を知らねばならない.


じゃぁ今のハミルトニアンのエネルギー固有状態を求めようかと思うのが視線な流れかもしれない.

がめちゃめちゃ大変なのだ.少なくとも僕はやったことがない.と言うかほとんどの問題,つまりテキトーに用意したハミルトニアンのエネルギー固有状態は数学的に厳密な解を求めることは(人間では)できない.

数学者が何世紀もかけて用意してきた微分方程式の解は,この世に存在する微分方程式の中でごくごく一部なのだ.この世に解ける方程式はほとんどない.

だからハミルトニアンの積分形で書いたS行列は絵に描いた餅だ.


じゃぁお手上げか.散乱問題も,数学者が頑張って微分方程式の解を見つけてくるのを待つか.

いやぁ〜諦めきれない.知的好奇心は,探究心はそんなに素直ではない.


ならわからないのはいいとして,S行列に近い,人間に計算できるものは用意できないのだろうか.

それならできる.それは摂動論と呼ばれる手法だ.



話の進みが遅いが,今日はこれまで.

更新は止まらないので,読む側も気長に待ってくれれば幸いだ.

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touya
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