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飛び散り方:お話物理:摂動論
前回までのお話物理で,散乱を記述するS行列をなんとか人間が計算する為に,摂動展開と言う,近似計算を始めたのだった.
散乱問題の摂動計算として,自由粒子がポテンシャル"V"の摂動を受ける状況を考えたのだった.
青の部分はVの影響を受けずそのまま素通りする部分,赤の部分がVの影響を一回受けて散乱される,最低次の部分だ.
今回は電子-陽子散乱の具体的なハミルトニアン
で摂動の最低次がどうなるか,計算してみよう.
陽子の作るポテンシャルの影響を受けて散乱される電子はS行列要素
の計算を実行する.
真面目に考えなければならない部分は二つ.一つは時間積分の部分と,もう一つは運動量固有状態の行列要素の部分だ.
行列要素の部分は時間に依らないから,時間積分の部分とそれぞれ考えることができて,
と
を実行すればいいのだ.
まずは時間積分から考えよう.指数関数の積分はビームの打ち出しから出てくるまでの時間"T"がものすごく長いことを使うと"デルタ関数"と呼ばれるものになる.
デルタ関数は,物理屋さんが使う便利な関数で,積分を前提にした関数だ.
x=0以外ではδ(x)=0で,x=0でのみ値:むをもつ.特殊な関数だ.
デルタ関数と言うのは中々やばい関数で,数学的にきっちり議論してから使うべきなのだが,物理屋さんはガバガバなまま使うし,ここはお話物理,デルタ関数を使う気持ちだけ話しておこう.
"δ(E_i-E_f)"という形になっている訳だから,"E_i=E_f"以外でS行列要素が値を持たない,つまり始状態と終状態のエネルギーが違う場合,遷移確率が0であると言うことだ.
もうちょっとはっきり言えば,始状態と終状態のエネルギーが同じにならなければならない.つまりエネルギーが保存する必要がある.
余談
でもデルタ関数は積分を前提にした関数と言っていたではないか.S行列要素のどこに(エネルギー)積分があるのか.
確かに見かけ上はエネルギー積分はない.しかし現実の状況を考えるに,ビームの打ち出しのエネルギーを完全に揃えることも,検出時に無限の精度で粒子のエネルギーを測定することはできない.ある程度の幅を持ったエネルギーを測定することになる.この幅をまとめて考えることが積分を暗にやっていることになる.
そうやって物理屋はデルタ関数について言い訳をしておく.余談終わり.
時間積分の部分は人間が測定をできる範囲では"エネルギーが保存する"と言う条件を生み出す.この条件は,ポテンシャルが時間に依らない場合の一般に成り立つ.
では運動量固有状態の行列要素はどうなるのか.
ブラケット"<p_f|V|p_i>"で書かれたものは,成分が無限個あるベクトルの内積だった.成分無限のベクトルなど人間には計算できない.
しかしこれの計算には,量子力学の完全系
を入れれば波動関数の形で計算できる.
最後の"r"積分の上端は∞になって値が収束しないのだが,適切な(境界)条件を課すことで0になる.ざっくり言うと散乱された粒子が"出てくる"と言う条件だ.
まとめると
おぉ,なんか計算できた.θはビームの散乱角だ.あとはこれを二乗すれば,ある運動量"p_f"への遷移確率になる.ビームの単位時間,単位立体角(dΩ:ある方向)あたりの散乱を考えると,
になる.これを微分散乱断面積と言う.
最後の最後に計算が面倒になってすっ飛ばしてしまった.まぁ誰も計算を追う気はないだろうから許してほしい.
計算はさておき,ビームの散乱される角度によってその確率が変わると言うことだ.
実験ではこの角度によってどう言う飛び散り方をするかで,その粒子同士の相互作用を調べることになる.
例えばこの場合,ポテンシャル"V"が電子と陽子の相互作用を司っていた.実験で先のような微分散乱断面積が測定できれば,このポテンシャルで相互作用していたのだなと検証できるのだ.
逆に理論計算を実験結果がずれていれば,相互作用がこのポテンシャルではないと,修正が必要になる.
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