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見えないものを見ようとして:お話物理:散乱
前回は,電子の持つスピンと排他律という性質について話してきた.量子力学の範疇では,なぜか持っている性質だった.
なぜ電子がそう言ったスピンや排他律を持っているかの理由を探っていきたい.それが素粒子物理という世界の話だ.
素粒子物理の世界の話をするために量子力学を使って,また量子力学を超えた物理を準備する必要がある.今日からはその話をしたい.特に今回は素粒子物理の典型的なアプローチの仕方(の一つ)の話.本当にお話.
さて,突然だが遊びをしよう.ブラックボックスゲームだ.中身を見ることができない"箱"に何かが入っている.
箱の中に入っているものの"形"を知るにはどうすればいいだろうか.ちょっと考えてみてほしい.
簡単だ.手を突っ込めばいい.質の低いお笑い芸人たちのゲームでよくあるあれだ.中のこんにゃくに,オーバーリアクションをとって叫べば笑いが取れる.
では手を突っ込むのを禁止しよう.箱には手を入れられるような隙間はなくて,箱の中身を知りたいとしよう.この場合,箱の中のものの形を知るにはどうすればいいか.
ちょっと汚い手段だが,針金を使えばいいのだ.箱を突き破って,手の代わりに針金で間接的に触れてしまえば形はわかる.
まぁただ,こんな安全な方法では芸人は笑いを取れそうにない.しかしそれでいい.僕らは物理をやっているのだ.形がわかればそれでいい.
ではさらに難しくしよう.箱の中身に直接,または間接的に触れることなく,箱の中身の形を知るにはどうすればいいだろうか.
これが典型的な素粒子物理の問題だ."素粒子"と呼ばれる,非常に小さな,少なくとも目で見ることはできない何かに対して,その性質(例えば形)を探って行くのが問題だ.素粒子はとても小さいから直接,または間接的に"触れる"ことは現実的でない.
どうだろう,中身を知る方法の案は出ただろうか.
直接,間接的に触れられないが,形は知りたい.そんな物理学者は頭がいいのか悪いのか,とんでもない方法を思いつく.
それは,"銃弾"をぶち込むのだ.なんと物騒な.
気でも狂ったか,それとも僕はFPSのやりすぎで物理にもゲームの考えを使い始めたのか.否,正気だ.
まず,銃弾をぶち込むのは箱の中身に直接,または間接的に触れていない.弾丸は人の手を離れて飛んで行くのだ.少なくとも触っていない.
次に弾丸はやすやすと箱を貫通する.狙いが外れて中身に当たらなければそのまま箱を素通りして外に出て行く.
そして中身に当たれば(中身はぶっ壊れるが),破片が飛び散る.もしくは跳弾する.飛び散った何かや弾丸を見れば,少なくとも何かに当たったのはわかる.
その飛び散ったものを,どの向きから飛んできたかをよくよく見れば,箱の中身がどこに形を持っているかわかるのだ.冷静に考えれば針金の代わりに飛ぶ弾丸を使うだけだ.
いや中身をぶっ壊すのはいいのかよ,と思うかもしれない.しかしいいのだ.なぜなら量子力学の観測は,観測するだけで中身をそもそもぶっ壊してしまうのだ.だから,針金で突こうが手で触れようが,量子力学の観測に相当する行為をしてしまえば,そもそも中身がぶっ壊れる.
こうして中身を知る方法を得た.見ることも触れることもできないものの形を知るには,何か(銃弾)をぶち込んで飛び散ったものを見れば良い.
そんな物騒なことを,そんな頭の悪いことをするのかと聞かれれば,するのだ.物理屋は物騒で頭は悪いのかもしれない.
歌手や詩人は見えないものを見ようとして,望遠鏡を覗き込むが,物理屋は弾丸をぶちこむ.
次回からは,物理屋の"銃弾"とは何か,飛び散ったものはどうやって見るか,そういう話をしていこうと思う.
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