網走研修視察レポート 2024/2/19~20
研修の目的・スケジュール
昨年の雪まつりの時期に、流氷を見る為におーろら号を予約したいという海外旅行客を何組か対応した。
その際に電話がなかなか繋がらず、流氷観光の人気が高いという事を初めて知った。
北海道で生活していても、流氷観光はあまりメジャーなものとして捉えていなかったので、繁忙期の状況を確認することが一番の目的である。
網走観光と聞いて思い浮かぶのは網走監獄や能取湖のサンゴ草ぐらいと自分の中でのイメージが少ない。
今後の観光案内に役立てる為に、網走の観光のおすすめポイントも調べてみたい。
今回は以下の4つのポイントを視察のテーマとし、1泊2日でのプランを計画した。
1.どの位の海外旅行客が流氷観光に来ているのかを確認する
2.流氷以外で人気の観光場所を探る
3.アクティビティ体験
4.観光施設をめぐる路線バスの利便性を確認する
1日目:①ファットバイク体験 ②流氷ガラス館見学
2日目:①モヨロ貝塚館見学 ②おーろら号乗船 ③博物館網走監獄見学 ④北方民族博物館見学 ⑤オホーツク流氷館見学
交通手段は、行きは飛行機を利用し新千歳空港から女満別空港へ移動。
帰りはJR特急を利用し網走から札幌駅へと戻ってきた。
研修報告
1.どの位の海外観光客が流氷観光に来ているのかを確認する
研修当日2月の観測史上最高気温が各地で更新され、網走の気温は14℃。
前日からの南風の影響で流氷も流されてしまっていた。
研修中の2日間流氷はなく、海上遊覧のみであったがおーろら号は運航していたので、多くの旅行客が訪れていた。
2日目に乗船予定であったが流氷がない上に軽く吹雪いていた影響で船上からの景色も良くなく、今回は乗船を断念した。
代わりに乗降場から乗船下船の様子を確認した。
■おーろら号の定員約400名に対し、中国語圏からの団体旅行のツアー客が300名ほど乗船していた。残りは、日本のツアーの旅行客と日本/海外両方の個人旅行客であった。確認した時間帯には、欧米からの旅行客は見かけなかった。
■観光バスが常時10台前後駐車場に止まっており、下船した後は次に乗船するツアー客を乗せたバスに駐車場を開けるために、慌ただしく出発していた。
■出発時にデッキはたくさんの旅行客で混みあっており、ベストスポットを確保するには早めに支払いをして並んでいた方が確実である。
■毎年10月に予約が開始されると旅行会社が一斉に枠を確保するそうだ。個人の利用者はその残った枠を予約する為、直前の予約は中々難しいらしい。
2.流氷以外で人気の観光地を探る
網走の観光地といえば「網走監獄」が有名であるが、網走市の観光パンフレットにはそれ以外にもいくつか観光施設が紹介されている。
今回は観光施設めぐりの路線バスを利用して行くことができる、網走監獄・北方民族博物館・オホーツク流氷館の他、おーろら号の乗船場所である道の駅から徒歩圏内のモヨロ貝塚館・流氷硝子館を見学した。
博物館網走監獄
旧網走刑務所の建物が移築復元された敷地内は広く、当初1時間半ほど見学時間をとっていたが、各建物をくまなく見学すると2時間ほど時間がかかった。
中でも放射状に広がる5棟の舎房は保存状態が良く見ごたえがある。
冬の寒さもと雪模様の天気も相まって、監獄内の厳しい生活をよりリアルに感じる事ができた。
昔の刑務所の建物を見学する事がメインと思っていたが、網走監獄と当時の収容者が北海道開拓においてどのような役割を果たしたのかという歴史も併せて知る事ができると分かった。
■館内の説明には英語・韓国語・中国語(繁体字/簡体字)が併記されており、海外の旅行客も説明を理解しながら見学する事ができる。
■日本人旅行客がほとんどだが、途中中国語圏の旅行客も何組かすれ違った。チケット販売ブースでは中国語で対応しているスタッフも在中している。
■舎房は中に入ることが出来る部分もあり、中に入って写真を撮って楽しんでいる姿を多く見かけた。
■監獄歴史館ではアニメーション上映があり、厳しい囚人作業をテーマとした10分ほどのアニメを視聴する事ができる。ボタンで言語を選択すると言語を変えられるので、海外の方も映像を見入っている様だった。
■平日だったので混みあってはいなかったが、漫画「ゴールデンカムイ」に網走監獄編がある影響か、20代の若い人たちが多く訪れていた。
■入口近くには、監獄飯を食べられる「監獄食堂」がある。店内が広くないのでお昼時はとても込み合っている。今回はバスの時間があったので並ぶことができなかったが、見学の際は時間を多めにとり監獄飯を体験するのがおすすめである。
北方民族博物館
過去に北海道博物館やウポポイでアイヌ文化やオホーツク文化など北海道に特化した文化の紹介を見学する事はあったが、ここは北海道のみならず広く北方の文化を紹介する施設である。
アイヌ民族を含む各民族の衣装を展示しているエリアは色とりどりの衣装が多数あり、デザインや使用する素材の違いなどが興味深かった。
狩猟や漁労に利用された道具や、儀式などに使用されたオブジェなど多数展示されているので、博物館の難しい説明は苦手な人や子供でも十分楽しめる。
■音声ガイドが用意されており入り口にあるQRコードを読み込むと、日本語を始め英語・中国語・韓国語・タイ語のガイドで展示の説明を聞くことが出来る。展示の前にはタッチパネル式の説明も設置されており、言語も変更できるようになっている。
■滞在中、15から20人程が見学していた。中国語圏や欧米の観光客も数組訪れていた。
■1時間で展示を見て廻る事が出来るので、帰りの時間まであと少し時間があるような状況におすすめしたい。
オホーツク流氷館
天都山の頂上にある、流氷とオホーツク海の生き物などをテーマとした施設である。
展示エリアは改修/リニューアルを経て2023年から現在の展示を行っている。
メインは-15℃と生の流氷を体感できる「流氷体感テラス」で、濡れたタオルを振り回すと30秒で固まるという「しばれ体験」が出来る。
北海道で生活していると特に珍しい事ではないが、暖かい地域から訪れている旅行客には気になる体験であろうと感じた。
中には流氷の塊がいくつも展示されており、間近で観察ができる。
正面のスクリーンでは、期間限定でポケモンキャラクターが流氷の上を駆け巡るアニメーションが流れていて、アジア圏の旅行客がとても喜んでいた。
■入場料は990円と施設の大きさと展示内容に比べて少し割高に感じる。
■オホーツクの生き物が展示されている水槽やスクリーン上映がメインなので、多言語対応はないが特に問題はないと思われる。
■いくつかのアジア圏の団体ツアーの見学時間と重なった事もあり、日本人旅行客との割合は5:5位であった。
モヨロ貝塚館
網走に暮らしたオホーツク文化のモヨロ人についての博物館である。
博物館の横では、大正時代に発掘されたモヨロ貝塚の遺跡が周回遠路として公開されている。
冬は雪に覆われていて全容を見る事が出来なかった為、雪のない時期に再度見学してみたい。
館内には発掘された土器や狩猟の道具などが展示されている他、再現された住居に入るエリアや墓地の様子を発掘された状態に復元したエリアなど、他の博物館にはない展示が魅力的である。
■開館直後は見学者も少なく、じっくりと見て回る事ができる。
■受付に音声ガイドが用意されており、日本語・英語・中国語・韓国語・ロシア語に対応している。
流氷硝子館
道の駅のすぐ横にある為、おーろら号の乗船前後に見学できる。
館内は広くはないが、廃蛍光灯を利用した流氷硝子製品が販売されている。食器や置物の他、アクセサリーなど多数の製品があり、女性の旅行客が多く見られた。
吹きガラス体験をしてみたかったのだが、昨年より受付を休止していた。
グラスやカップなどガラス製品への絵付けやアクセサリー制作体験は実施されており、見学時は4名の参加者が体験を楽しんでいた。
この時は海外の観光客はいなかったが、手頃な価格でガラス製品を購入できるので網走を観光する際には立ち寄るようお勧めしたいと思う。
アクティビティ体験
今回の研修では、ファットバイクという車輪の太い自転車に乗る3時間半¥8,000の体験を予約した。
体験後に予定がある場合は、その時間に間に合うように調整をしてくれるので安心である。
当日気温が14℃まで上がっていたので、寒さも感じずサイクリングを楽しめると思っていたが、予想以上に雪が溶けてしまい予定のコースを走る事が出来なかった。
道の駅から能取湖を経由して能取岬まで行くルートはアスファルトが出ていて、ゴールの能取岬では雪も流氷もわずかしか無くなっていた。
代わりに、本来走る予定だったルートや海岸沿いを車で案内してくださった。
途中、砂浜に若干雪が残っている所があり短い距離ではあったがファットバイクに乗せてもらうことが出来た。
雪の上をザクザクと進む感覚は初めてで、車で雪道を走るのとも違う体験であった。
ガイドの方は地元でサイクルショップを経営しており、夏は電動自転車の貸し出し、冬はファットバイクのガイドを観光協会と共同で行っているそうだ。
初めて見たオホーツク海とわずかに残っていた流氷だけでも十分楽しむことが出来た。
もう少し参加者が多いのかと思っていたが、冬はワカサギ釣りの方が人気で参加者も多いと教えてくれた。
あまり勾配も激しくなく景色のいい所をサイクリングするので、このツアーは今後おすすめしていきたいと思う。
■ギアを調節することで負荷を簡単に調節できるので、自転車に乗りなれてなくても問題なく進んでいける。
■途中、双眼鏡を通してアザラシやワシを観察出来、鹿の群れにも遭遇した。写真に収めることは出来なかったが、ワシを至近距離で見るのはとても迫力があった。
■今シーズンは1月下旬から20組程の申し込みがあり、オーストラリアと香港からの観光客が多いそうだ。
観光施設を巡る路線バスの利便性を確認する
網走バスでは、観光客を対象にしたあばしりフリーパスというチケットが販売されている。
2日券(2,200円)と3日券(3,300円)があり、女満別空港からのバスも対象になるので、バスを使って観光する際にはお得なチケットである。
事前に今回視察する施設の移動を計算すると2日券の金額を超えていたので迷わず購入した。
主に利用した観光施設めぐり線はバスのスケジュールと各施設の見学時間が上手く組み合わさっている。
各施設を十分に見学した後に丁度よく次のバスが到着するので、計画的に回る事が出来た。
観光地しか止まらない為、バスは常に満員であったが地元の人達が乗れないなどの問題もなかった。
海外の旅行客もたくさん乗車していたが、パスを購入している人が多いので特に問題は見られずスムーズに利用していた。
公共交通機関が無い為行く事が出来ない観光施設がある地域も多いが、網走ではこのバスのシステムが上手く稼働していて、他の地域でも参考に出来れば解決できる問題があるのではないかと感じた。
■このチケットには特典がついており、主要な観光施設の入場料が割引になったり道の駅での飲食などが割引されたりする。研修で訪れたほとんどの施設で割引が適用された。
■オンラインで事前にパスが購入可能である。降りる際にスマホの画面を運転手に見せるだけで利用できる。旅行中は荷物が多かったりするので、チケットの出し入れが無いのはとても使い勝手が良かった。
研修を終えて
自然をメインとした観光は当日の天候次第であることを痛感する研修となった。
この研修の数日後には気温は平年並みに戻り、おーろら号も流氷見学ありで運行していた。
おーろら号の直前の予約はほぼ不可能なので、直近の天気予報を見て決めることは難しい。
しかし、普段は見る事ができない氷の群れと奥に見える知床山脈の景色にはまた訪れてみたいと感じさせる物があり、ぜひリベンジしたいと思う。
来年もおーろら号の予約をしたいと訪れる旅行客がいると思うが、予約するだけではなくこういう状況もあり得るといった情報も合わせて提供していきたいと考えている。
おーろら号の乗船者は多いが大半はそのまま次のエリアへ移動してしまい、網走に滞在してじっくりと観光している旅行客は意外と少ない。
駅周辺は飲食店も少なく、15時半までの営業といった所も多い。
商店街の通りもシャッター街が続いていて、観光地といえども地方都市の厳しさを感じた。
しかし、街中に旅行客が溢れている都市部とは違い、どこに行ってもゆったりのんびり観光できる良さがあった。
ファットバイクのガイドの方はもちろんの事、バスの運転手や各施設のスタッフの方は、流れ作業ではなく皆丁寧に対応して下さっていた。
観光する側と対応する側の割合が適切である事は、お互いにとってプラスになると改めて感じた。
道の駅をはじめ市内の観光施設はキャッシュレス決済に対応しているので、海外の旅行客が支払いで時間がかかる様子もあまり見られなかった。
JR網走駅には数は少ないがJR札幌駅にはない幅の広い大型ロッカー(利用料600円)がある他、観光案内所では手荷物預かりも行っている。
旅行客が観光しやすい対策がいろいろされている点は、とても参考になった。道の駅に観光案内所とおーろら号の乗船場がある事から、観光案内所のスタッフがSNS用の写真を撮影している姿も見られた。
普段は駅の構内で外の様子が全くわからない中で勤務している為、観光の様子をリアルタイムで知る事が出来る立地に案内所があるのも良いな、と感じた。
観光施設だけではなく、季節ごとに色々な自然を楽しめてアクティビティが豊富である点など、メジャーな所は行き尽くした旅行客に網走をお勧めしていきたいと思う。
(reported by MH)