ウポポイ民族共生象徴空間・国立アイヌ民族博物館研修視察レポート(2022.11.30)
■研修目的
アイヌ文化に関する観光地、博物館は特に欧米人に人気があり、近年外国人観光客のリピーターが増えており、従来の観光地を見て回るだけの観光ではなく、体験型の観光が求められていると強く感じる。
ウポポイ・博物館では、国立博物館として専門的な展示はもちろん、体験プログラムが充実しているので、実際に体験することで今後の案内業務に活かしたい。
■見学・体験スケジュール
■見学・体験内容
-国立アイヌ民族博物館-
今回特別展の展示がなく、常設展のみの観覧とはいえ、国立博物館として専門的な展示を期待していたが、道内各地のアイヌ関連の博物館、展示でも見たことのあるようなものばかりで特別際立った展示物はなかった。
しいていえば、現代に各分野で活躍するアイヌの方たちの紹介は他にないもので良かった。
貴重なVTRがいくつも流れていたがゆっくり見られる椅子などの設置はなく、普段は触ることのできる模型などもコロナ対策で利用不可なのは残念だった。
今回は35分しか見学時間がなく、くまなく見るには時間が足りなかった。
じっくり見るなら1時間は必要だが、ざっと見るなら30分くらいでもいいかもしれない。
参考までに訪問したことのある他のアイヌの展示がある博物館の特徴と比較してみた。
◎平取二風谷アイヌ文化博物館
音声資料が充実、衣服や装飾品も見ごたえがある。
アクセスがJR+路線バスとあまりよくないのがネック。
◎北海道博物館
1Fにアイヌ関連の展示があり、コタンなど屋外の施設が無い分、屋内にチセを再現したものがあり、説明も充実している。
アイヌと和人の不平等交易の様子など鮭と米俵の模型を使い感覚的に分かりやすい。
アイヌの現代の生活の紹介パネルもあり、子供でも理解できる内容がとても良い。
◎北海道大学総合博物館
イヴェンキ、オロチョンなど北方民族の展示があり、ロシアのサハ共和国の紹介では、同じ口琴でも金属製のものなど違い比較するのも面白い。
◎北海道植物園内部の北方民族資料館
クマ送りのVTR上映がある。
■シアタープログラム「世界が注目したアイヌの技」(約20分)
プログラム概要:
ロシア:
・アイヌ関連の展示物が最も多い。
・サンクトペテルブルクのロシア科学アカデミー人類学民族博物館のアイヌコレクョンは18~20世紀初頭に収集されたもの。
・シベリアと極東ロシアの民族資料や樺太と千島列島で収集された世界最古のコレクションがある。
・北海道平取町で作られた衣服の展示がある。
・ロシア民族博物館にはアザラシの毛皮で作られた樺太アイヌの衣装の展示がある。
ドイツ:
・西ヨーロッパの2/3強、6000点のアイヌコレクションがドイツ語圏にある。
・ドイツでは24の博物館にアイヌコレクションを所蔵しているが、ライプツィヒ民族学博物館の収蔵品の保存状態が最も良いと言われており、日本にはない資料もある。
・ケルンのラウテンシュトラウフヨースト博物館には、日本国内には残っていない子供の頭飾りがある。
アメリカ:
・ニューヨークのアメリカ自然史博物館は恐竜展示で有名だが、1900年前後に収集された樺太アイヌの楽器トンコリなど、アイヌの常設展示がある。
・ワシントンDCのスミソニアン博物館には様々な民族の展示があり、アイヌコレクションは1880年代ヒッチコックが収集したものである。
イギリス:
・ロンドンの大英博物館に博物館から依頼を受けて制作された平取アイヌの工芸家貝澤徹氏の現代アイヌ工芸の作品展示がある。
感想:
西欧の博物館ではアイヌコレクションがないと一流ではないと言われている。博物館の規模に関しては日本と比べると桁違いであり、収蔵数、収蔵物の質は雲泥の差である。
アイヌコレクションに限らず、西欧の博物館に収集されているものは植民地支配の絶対的な権力を利用して収集したものが多く、日本には残されていないような貴重な一点物の装飾品、工芸品が展示されているのは複雑な気分になる。
ロシアのアイヌ資料は基本的に樺太で収集された資料で構成されており、北海道で収集された資料はその半分にも満たない。
もう一つのシアタープログラム「アイヌの歴史と文化」が分かりやすさを重視しているのかやや子供向けのような感じだったが、こちらは欧州の博物館のアイヌコレクションの紹介ということで、一般にあまり知られていない内容で興味深かった。
アイヌ文化の知識が豊富な欧米人観光客にお勧めできるプログラムである。
■シアタープログラム「アイヌの歴史と文化」(約20分)
プログラム概要:
アイヌ民族の歴史と文化について、アイヌ文化にゆかりの深い動物が分かりやすく解説するプログラム。
感想:
20分ほどの時間で全てのアイヌ民族の歴史と文化を網羅するのは難しいと思うので、アイヌ文化に対して予備知識のない観光客向けにはよくできた内容かもしれない。
ただし、この程度の内容だと博物館の展示コーナーで軽く見るようなタイプのような気もする。
個人的には、博物館の展示コーナーのモニターで流している過去の儀式、祭りなどの映像をじっくり座ってシアターで見てみたいと感じた。
プログラムを両方見られたので、観光客のニーズによってどちらがおすすめか提案できるので意義があった。
-体験交流ホール-
■伝統芸能上演「シノッアイヌの歌・踊り・語り」(約20分)
数種類の演目の中から毎回6演目上演される。
ウポポ(座り歌)、弓の踊り、ムックリ演奏が印象的だった。
生活に根差した芸能のため派手さはなく、外国人観光客には好き嫌いが分かれるかもしれない。
■短編映像上映「カムイユカラ」(約20分)
アイヌに伝わる物語2種の上映。
アニメーションだが、カムイと人間の関係を描いた神話物語で大人でも楽しめる。スクリーンの床にも映像が映し出されるので臨場感がある。
-工房-
工房では、ものづくり見学(無料)、刺繍体験と木彫体験ができる。
工芸家による実演が行われているほか、現代アイヌ工芸家の作品の展示が見られる。
今回、あずま袋の刺繍体験に申し込んでみた。所用時間は1時間、参加者は5人。コースターは無料で、あずま袋、プチフレーム、マスクは1000円で体験できる。あずま袋の色と刺繍糸の色が選べ、なかなかお手頃な料金設定。
刺繍が初めてでも説明の用紙とVTRを見ながら簡単にできた。
できた人から解散で、私は30分でできあがったので、思いがけず伝統的コタンでのプログラム鑑賞に間に合った。
VTRの調子が悪いのか、刺繍についての歴史的な解説は詳しくは行われず残念だった。
-伝統的コタン-
伝統的コタン(集落)に建てられたチセ(家)の中で生活空間を体感できるほか、アイヌの文化や暮らしについて様々な体験プログラムが実施されている。それぞれのチセの前に開催時間と内容が記載された看板があり分かりやすい。
今回は、口承文芸実演を見ることができた。
囲炉裏端を囲みながら近くで見ることができて臨場感があった。
上川地方に伝わる英雄叙事詩で主人公は空を飛び超人的な能力を使って悪を退治するというような内容だった。
ちょうとシンガポールのツアーがガイドと共に参加していて、実演者が物語の内容を説明したものをガイドが英語に通訳していた。
-体験学習館-
今回時間の関係で参加できなかったが、楽器演奏やアイヌ料理の調理体験などのプログラムが実施されている。
ホワイトシーズンは、調理体験以外は土日祝しか開催されない。
■研修報告
■今後の案内業務にむけて
アクセス:
・札幌から白老まではJRもしくは都市間高速バス(道南バス)で行く方法がある。現時点でウポポイを経由するバスは運休しているため、JRかバスツアーなどでしか行く方法がない。
・札幌駅から特急利用で約1時間、駅からウポポイまで徒歩10分程度とアクセスが良いので日帰りも十分可能。
平取よりアクセスが良いので時間のない観光客にもおすすめしやすい。
・白老町交流促進バスで白老駅からウポポイまで15分1日18便、月曜運休、
役場、図書館などを経由するため時間がかかる。
乗り場は白老駅北観光インフォメンションセンターの前でウポポイまで歩いて5分ほどの距離のため利用は微妙。
・JRでの札幌方面からの到着ホームと反対側ホーム側にウポポイがあるた め、JR乗り換えこ線橋上に臨時改札口が設置されているが、案内が分かりにくかった。
帰りもこの臨時改札口を利用することになるが、入口は列車到着の10分前くらいにならないと開かない様子。
苫小牧行き普通列車利用の高校生がたくさん並んでいたので、聞いて教えてもらった。
臨時改札口営業時間
8:30~18:00(ウポポイの閉園時間により変動)
休 業 日
月曜日(祝日または休日の場合は翌日以降)
年末年始(12月29日~1月3日)
食事:
・ウポポイには特色のある料理を提供する飲食店が数件あり、エントランス棟にフードコートとレストランのほか、歓迎の広場にカフェがあるがどちらも入退場ゲート外にあるのでやや不便。
今回は昼食時間がとれず、体験学習館前の休憩所で持参のおにぎりを食べた。アイヌの汁物オハウを食べてみたかったが残念だった。
・休憩所は何か所かプレハブがあり、内装に木材を使っていて快適な環境だった。
・夏など気候の良いときにはポロト湖畔のベンチで飲食することもできそう。
・駅前にはセブンイレブン、近隣にコープがあるが、入場前に購入することが必要。
博物館:
・じっくり見るなら1時間は必要だが、ざっと見るなら30分くらい。
・係の方によると、修学旅行利用は11月中旬頃でほぼ終了とのこと。
・博物館内のシアタープログラム鑑賞については、平日で観覧者数が少ないためか整理券は不要だった。
・外国人観光客は多言語翻訳機の利用が出来るようだが、コロナ禍のため貸出を中止にしているのか、利用している外国人はいないようだった。
・博物館内部の写真撮影はOKだが、動画撮影は禁止とのこと。
・博物館ロッカーの利用数も制限あり
・博物館のミュージアムショップにはゴールデンカムイの漫画本あり。
体験交流ホール:
・ホワイトシーズンは2つのプログラムが上映されている。
伝統芸能上演は1日4回(土日は5回)、短編映像上映は平日だと1日2回だがそのうち1回は団体の予約状況により上映しないこともある。
・どちらも座席指定整理券が必要で10分前くらいには集合する必要がある。
・伝統芸能上演は目玉のプログラムのようで、日本のほか海外の団体ツアーの観覧者も何組かおり、一番前の席に案内されていた。
・短編映像上映は、観覧者が少なくアメリカの若者三人組のほか日本人数人だけ。
・撮影、動画ともに禁止となっている。
工房:
・体験は刺繍体験と木彫体験があり所要時間1時間程度で1日に各2回開催。
今回なるべく多くのプログラムを体験するため時間を合わせるのが大変だった。
・オフシーズンの平日のためか参加人数は少なかった。
・刺繍体験はコースターに刺繍する場合は無料なので参加者に人気だった。
・直接来場か会場で受付のため参加しやすい。
伝統的コタン:
・ポロチセ、シノッチセ、ポンチセ、屋外の四カ所でプログラムが開催されている。
・アイヌ語学習プログラムなど子供むけのものがあり家族連れでも楽しめる内容。
・直接来場で参加でき、「はじめてのムックリ」以外は無料である。
・コタン見学とプログラム参加などで所要時間目安は1時間ほど。
体験学習館:
・調理体験以外は土日祝しか開催されない(シーズンによる)。
・会場で直接受付のものと調理体験のような事前予約が必要なプログラムがある。
・有料と無料のプログラムがある。
・隣接する別館ではドーム型スクリーンのパノラマ映像体験ができる。
まとめ:
・主な施設は、国立アイヌ民族博物館、体験交流ホール、工房、伝統的コタン、体験学習館。
・体験プログラムが充実しているので、大人、子供ともに楽しめる。
・リピーター獲得の要素は少ないが、アイヌ文化は北海道ならではの観光コンテンツなので、上手にPRしていけたらと思う。
(reported by MH)
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