拝啓、愛し子の君へ
拝啓、愛し子の君へ
寒気のきびしい日が続いていますが、お変わりありませんか。こちらでは昨夜から雪が降り続け、一面の銀世界に変わりました。
なーんてね。
ふふっ、堅苦しい挨拶は苦手なんだ。
雪が降ると思い出すよ。
天気予報で雪の予報が出ると君はいつもソワソワして、雪が積もったら何をしたいか、いっぱい話してくれた。
朝、雪が積もっているとお母さんの手を引っ張って大はしゃぎしていたね。顔も耳も手も真っ赤にして遊んでいた。わたしも君の投げた雪玉で真っ白にされたのを覚えているよ。
雪だるまの雪玉が大きくなって動かせなくなると「ママー!あとやってー!」って………
お母さん…ふふっ、力が弱いのに、君のために一生懸命雪玉を転がしてくれていた。
キンと冷えた日の空気はキラキラと凍って、朝陽を受けたダイヤモンドダストは虹色に輝いて…まるで宝石箱をこぼしたみたいに綺麗だった。
君はまばたきするのも忘れて、ダイヤに負けないキラキラした目をして見つめていたね。
懐かしいなぁ…
ねぇ?君は今、どこで何をしてるの?
君のお母さんがわたしに話してくれたんだ。
わたしが聞いているとは思っていないだろうけど。
寂しそうに笑いながら「便りがないのは元気な証拠だもの。あの子が幸せならそれでいいの。」そう呟いていた。
君のお母さんはずいぶん小さくなってしまったよ。
どうか、どうか思い出して。
お母さんの温かい手を。
君を優しく、時に厳しく導いたその手を。
どうか…
愛しい娘の子よ。
新しい年になる前に、少しでも顔を見に来れないだろうか。
願わくば……
彼女の最期の時に、寄り添って欲しい。
細く小さくなった手を優しく握って欲しい。
君の心をほんの少しだけ、彼女に注いで悔いのない最期を与えて欲しい。
その後はわたしが引き受けるから。
わたしの足元に、眠った彼女を連れてきておくれ。
わたしは彼女のために、彼女の好きな花を毎年必ず咲かせよう。
彼女の好きな桜吹雪を見せよう。
愛しい人の子よ…
どうか…どうか………
(おわり)
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某イコネを始めたばかりの頃にお題にアップしたのを発掘しまして。
懐かしいなぁと思いながら、このまま消されたままでいるのも寂しいので再掲です。