インバウンド富裕層の食事について思うこと
コロナ前と同様、インバウンドのお客様は日本での食事を楽しんでいる。先日ガイドとして同行したタイ人富裕層のお客様は、
「美味しい和牛はバンコクでも食べられるけれど、美味しい牛タンは日本に来ないと食べられないんだ!」
と、牛タン愛を熱く語って下さり、新宿でのショッピングの合間、デパートにある牛タン専門店で厚切りの牛タン焼とビールを堪能された。そんな様子に刺激を受けた私は、久しぶりに牛タンが食べたくななり、ツアー終了後、自宅近くにある同じ系列の牛タン専門店に足を運んだ。やはり日本の牛タンは美味しい。
訪日インバウンドに関するデータが示すように、外国人が日本旅行に期待するものとして、「日本食」は国籍を問わず上位に挙がる。食事は旅の満足度を左右する。一番楽しみにされているポイントである反面、一番がっかりさせてしまう可能性もはらんでいるのだ。
実はこのことについて書くに至ったのには理由がある。この春にアテンドした富裕層のツアーで、楽しいはずの食事の時間がお客様にとって「苦痛」になってしまったのでは、という経験をしたことだ。
それは決して食事の「味」や「質」においてではない。
問題は食事の「量」と「タイミング」だった。
そのときのお客様の状況を振り返ってみたい。
高級料亭でコース料理の昼食、その数時間後には旅館で会席料理の夕食。明くる日の豪華な和朝食。そしてそれがループのように数日間続く。
3度の食事だけではない。素敵なカフェを見つければ、立ち寄ってコーヒータイム。美味しそうなイチゴ大福も食べたいし、抹茶ソフトクリームも食べたい。そうなると次の食事の時間までにお客様の胃が休まることは無い。
そうしたインバウンド富裕層の食事の現場にいて感じるのは、旅のアレンジ、特に食事のアレンジは、お客様のお腹の空き具合に合わせて柔軟に対応できるよう余白をもたせるべきということだ。日本は食のバラエティが豊富だ。例えば昼食にラーメンや牛丼など手軽でファーストフード、サービスエリアのフードコートなどを利用すれば、メリハリがついてかえって喜ばれることも多い。
以前アテンドしたお客様は、日本滞在中、ミシュランの星付き寿司店、フレンチレストラン、鉄板焼と連日重い食事が続いた後、「今夜は軽く済ませたい。」と、同行の秘書にコンビニでおにぎりとサラダを手配させていた。日本のツナマヨネーズがお気に入りだというこの方は、世界に名立たるゴルフコースのオーナーだ。
富裕層のお客様は、日本旅行中、必ずしも毎食高価な食事を希望されるわけではない。安価なものから高価なものまで、幅広い選択肢の中から、フレキシブルにそのとき自分にとって価値があるものにお金を払う。
5万円のコース料理も、100円のコンビニおにぎりも、そのどちらも選ぶことができるのが富裕層のお客様なのではないかと考えている。
日本は美味しいもので溢れている。その美味しいものを、一番美味しいと感じられるタイミングで食べていただきたい。お客様の胃袋の状態にも気を配りながら、柔軟に対応していきたいと思う。