ご当地マンホールは、まちのコンテンツ。
初めて訪れた街を散策中に、ふと足元にカラフルなマンホールの蓋を見つけてカメラを向ける。そんな経験をされたことはありませんか?
日本全国各地には、北は北海道から南は沖縄まで、様々な「ご当地マンホール」が存在します。まさに路上のアート!特色あるデザインは道行く人の目を楽しませてくれます。それら「ご当地マンホール」を求めて各地に足を運び、写真を撮ってSNSにアップしたり、また近年では自治体とGKP(下水道広報プラットホーム)が共同で作成した「マンホールカード」の収集を趣味とする人も多くいます。そういったマニアの人たちは、しばしば自らを「マンホーラー」と呼び、マンホール関連の活動は「蓋活(フタ活)」とも呼ばれています。
実は、私もご当地マンホールに魅せられたマンホーラーの1人。ここ5年ほどの間、仕事で訪れた先々で、またプライベートで旅した際に見つけたマンホールの蓋を一枚、また一枚と写真に収め続け、気がつけばその枚数は100枚を超えていました。それらの写真はしばらくひとり見返して楽しむだけのものでした。しかし、せっかくなので自分以外の方にも見ていただこうと、半年ほど前からインスタグラム @colorful_art_at_your_feetにアップしています。日本のご当地マンホールの数々、よろしければご覧ください。
なぜ「ご当地マンホール」に魅かれるのか?
もしそう聞かれたとしたら、私はその魅力を3つ答えます。
ひとつめは、まちのシンボルが一目で分かる、視覚的な分かりやすさです。
小江戸・川越は時の鐘、奈良は奈良公園の鹿というように、マンホールの蓋には、その場所や地域の代名詞となるような風景、名物などがモチーフとして描かれています。
上の写真は、以前タイ人のグループのお客様を青森へご案内した際、青森駅前のロータリーで撮影しました。これを見て、ねぶた祭りが青森のシンボルであること、跳人がどんな様子で跳ねるかなど、言葉での説明にプラスして視覚的にも理解していただけたことは言うまでもありません。外国人のお客様にとっても「ご当地マンホール」は日本を知る上で大切なコンテンツとなっています。
2つめの魅力は、宝探しするようなワクワク感です。
普段、よく目にするマンホールの蓋といえば黒や茶色。同じデザインでも彩色されているものはごく一部、「ご当地マンホール」として注目を浴びるのは、たいていこのカラーマンホールの方です。では、どこに設置されているか。駅周辺か、観光スポット周辺なのか。管理する自治体によって事情は異なるため、なかなか見つからないことがよくあります。マンホールの蓋は地面に張り付いているため、近くまで行かないと見えない。これは「ご当地マンホール探しあるある」です。
以前、千葉県銚子市の駅近くで、さんざん歩いて探し回った末、駅の観光案内所で尋ねたら、カラーマンホールの設置場所を示した地図が用意されており感激しました。やはり「地元のことは地元の人に聞け」ですね。
見つけにくいものほど、見つけたときの喜びはひとしお。例えていうならば、ディズニーランドで「隠れミッキー」を探し当てたときのような、ご当地マンホール探しには、そんな宝探しに似たワクワク感があります。
3つめの魅力は、そこにしかない限定ものであること。
「ご当地」という言葉が示す通り、足を運んだ人にしか見られない。そこに行かないと見られない。まさにそれが旅の醍醐味。地元の人には当たり前すぎて気にも留められなかったマンホールの蓋も、誰かにとってはそこを訪れる動機のひとつになり得ます。
タイにもある!デザインマンホール。
こうした個性豊かな日本各地の「ご当地マンホール」は、タイにも影響を与えています。芸術大学の名門シラパコーン大学のジャカパン・ウィラシニークン准教授が中心となり、2018年からバンコク都の都市計画部と共同で「タイ版ご当地マンホール」が製作されました。このプロジェクトは、バンコクのオーンアーン運河沿いの景観改善と地域の活性化、アートの融合を目的としたもので、生まれ変わった運河沿いに設置されたマンホールは人気となり、その様子は現地だけでなく、NHKのニュースでも取り上げられました。
また最近では、バンコクでも特に歴史のあるエリア、ヤワラート地区やチャルンクルン通りにQRコード付きのマンホールが登場し、詳しい情報が英語とタイ語で得られるようになっているようです。コロナ明けのタイ旅行では、ぜひ見に行ってみたいと思います。
タイ語で「マンホールの蓋」は「ファートーラバーイナーム ฝาท่อระบายน้ำ 」といいます。
日本でカラフルなマンホールを見つけたタイ人の多くは「スアイ・マーク สวยมาก」 (とっても美しい)と声をあげ、また美しい模様に「日本人は細部にこだわっている 」と口にしているのをよく耳にします。この「細部へのこだわり ความใส่ใจในรายละเอียด」という言葉は、マンホールに限らずタイ人が日本のコトやモノについて言及するときによく使われる表現。タイ人が感じる「日本らしさ」のひとつと言い換えてもよいでしょう。
たしかに、耐久性は言うまでもなく、デザインには美しさと地域性、さらには通った人が滑らないよう細心の注意が払われている。ご当地マンホールはそうした日本人の「細部へのこだわり」が詰まっています。日本人だけでなく、今後訪日インバウンドのお客様にもたくさん見ていただきたいですね。
ちなみに、私が今まで見たご当地マンホールの中で一番好きなデザインは、長野県松本市の伝統工芸「松本てまり」をモチーフにしたマンホールです。松本城の近くや草間彌生美術館前の歩道に設置されています。
そして、コロナ明けに見に行きたいのは、栃木県宇都宮市のご当地マンホール。宇都宮の名物と言えば餃子!白い餃子を並べてある中に、ひとつだけ焼き色が付いた餃子がデザインされているそうです。これだから「蓋活」は止められそうにありません。