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パーティーで、テンション低いといいことなし




1.

数年前に、東京の友人宅でホームパーティーがあった。僕は、僕にしては早い段階で友人宅に到着し、高校の同級生の男友達やーぼーとおしゃべりをした。

その家には、でっかい赤いソファがあった。合成皮だけど、フカフカで、座ると適度に沈み込む気持ちのよいソファだった。僕はこれに深く座り、正面の大型テレビをぼんやり見ながら缶ビールをすすっていたんだけれど、アルコールの酔いと共に、脳内にシータ波でも出てきたのか、他人の家とは思えないほどくつろいでしまった。頭の中がトロ〜リとして、お花畑にでも来たような気分だ。



ソファに座っているのは僕だけで、やーぼーはソファの隣の床に座り、他の女の子もじゅうたんの上に座って、背の低いテーブルの上に並べられたピザやら何やらを食べていた。つまり僕だけが極端にくつろいでいた。いや、パーティー的に、別に悪いことではないんだけれど。。

 


そこに遅れて知らない女の子が二人やってきた。


そのうち一人はかなりテンションが高く、口を開けばずっと話し続ける面白い子だった。その子が来たことによって、まったりな雰囲気だった場が、にわかに活気づいてきた。


僕は相変わらずソファにまったり座ってテレビを見ながら、やーぼーと、ちょうどテレビでやっていた「アド街ック天国」という番組について話していた。

「タモリ倶楽部と制作会社が一緒らしいぜ〜」

「あー、なんか番組の雰囲気同じかんじだよね」

それからタモリ倶楽部の話をしていた。が、次第に俺ら二人とも、場の雰囲気にうまく入り込めていないんじゃないかと気になりだしてきた。一番賑やかなグループは、それぞれの話で盛り上がっていて、僕らには何の興味も持っていない。

隣には賑やかに盛り上がる女子達。そして片隅で番組の制作会社について話すメガネが2人。これは虚しい。。


そこで、なんとか女の子たちの会話に入ろうと考えた。耳をそばだててみる。ところが、話題がてんでわからず、しかもあまり聞き取れない。

ちょうどその時、テレビでやっている「アド街ック天国」に僕が知っている場所が映った。

僕は思わず反応してしまい、やや大きめな声を出してしまった。



「ここすごい面白いよなー!」















 

言った瞬間に気がついた。



今、俺はすごいイタいことしている。。



まるで女の子から注目を集めたい中学生のお兄ちゃんだ。

その言い方が明らかに無理して言っているように自分でも感じられた。急にものすごく恥ずかしくなった。


その時だった。テンションの高い子が「なにが?」と聞いてきた。


僕は一人で勝手に恥ずかしがっていたせいで、女の子の「なにが?」って質問が、何に対して言われたのか、一瞬わからなかった。

それで僕も「え?なにが?」と聞き返してしまった。



一瞬流れる沈黙。






そして、何事もなかったかのように女の子たちは話し始めた。

頭を掻く男友達。

しまったと思う俺。

恥ずかしさと苛立たしさが湧いてきたので、ビールをすすって心をごまかそうとする。

ところが、ますます頭が混乱状態になっていく。。

 






2.

このことが、僕には物凄く恥ずかしく感じられた。

元はといえば、僕が場の空気も読まず極端にくつろいだからいけなかったんじゃないのかと思った。みんなと話そうとせず、幸せな気分でソファに深く座ってトロンとしたのが問題だったのだ。そこでテンションも周りとギャップが出来てしまい、むりやりその差を埋めようとしたせいで無理が出てしまった。はじめからもっと周りのみんなと溶け込もうと努力すべきだったのだ。

僕はそのまま帰ろうかと思ったが、正直、「恥ずかしさ」というしこりが残ったまま去るのは嫌だった。どこかで一発逆転のホームランを打ちたい。まだ時間はある。

でも、また俺の方から話題を振るのはリスクが高いように思われた。だから、女の子たちの会話に耳を傾け、俺の知っている話題になった時にすかさず飛び込み、笑いを巻き起こそうと考える。

さあ、それまでにはテンションを上げなければ。低いままじゃ駄目だ。ビールじゃなく、焼酎を煽る。自信を持て。お前なら出来る。

その時、女の子集団からとんでもない単語が聞こえてきた














えっ!?なに!?!?うそ



きたァァァーーーーーーッ!!!

 


タモリ倶楽部なら知っている。毎週金曜日見てまっせ!

ていうかさっきめっちゃ話してました!!


僕はその言葉が、聞き間違いかどうかの疑いもせず、気がついた時は大声で叫んでいた。


「あれ面白いよなー!あれはすごい!!」


















びっくりして一瞬凍りつく女の子たち。

すると、テンションの高い女の子が聞いて来た。

「な、なにがすごいの?」

 




タモリ倶楽部のなにがすごいのか。






それは僕も考えたことがなかった。






放送期間が長い。それは確かにすごい。

でも、もっとすごいと思ったのは、僕がやらかしたフライングだった。彼女らは「タモリ倶楽部」という単語しか発していなかったのだ。それを発した瞬間、アホみたいに「すごい!」とか言って食いついてしまったのだ。お前は観光客の撒く餌に食いつく池のコイか。


僕は目が泳いだ。そして、僕の隣に座っていたやーぼーと目があった。



その瞬間、ズバァァァーーーーンと思い出した。

さっきまでやーぼーとしていた会話の内容を、稲妻のように思い出したのだ。


そして、それが頭のなかに浮かんだ瞬間、僕はまたそれを考えもせずに口に出していた。

「タモリ倶楽部の制作会社、アド街ック天国とおんなじなんだぜ!」

















女の子たちは文字通り静まりかえった。

そう、彼女らにとっては、タモリ倶楽部とアド街ック天国の制作会社が同じだとか、そんなことはどうでも良かった。それを自信満々に言われたのだ。しかも、楽しい会話を遮られて。



「そ、そうなんだ」



そして、女の子たちは会話に戻っていった。







fin.






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