消えまくるFF Ⅵ
僕は中学の時、人並みにゲームをやったけれど、その中で特に思い出に残ったのは、『ファイナルファンタジーⅥ(FFⅥ)』だった。
どのFFもそうだけど、Ⅵは当時としてはとんでもなく綺麗なグラフィックを誇っていて、店頭のデモ動画を初めて見た時はものすごい衝撃を受けた。発売直後は何らかの理由で買えなかったんだけれど、一年後、ちょうど中学一年の時に、ゲームショップで中古のカートリッジを見つけて購入した。やってみると、映像のみならず、素晴らしい音楽やストーリーにグイグイ引きこまれ、本当に夢中になってやった。
ある日、友人二人がFFⅥを見たいと言ってうちにやってきた。以前から興味があったものの、まだ手に入れてなかったのだそうだ。ちょうどストーリーも中盤の世界が一変する重大な場面に差し掛かっていたので、三人とも圧倒されてしまった。
ところが。
友人のボールの一撃で、画面が一気に醜く歪んだ。
慌ててリセットを押し、ゲームを起ちあげてみたが、それまでやった十数時間分のデータは跡形もなく消えてしまった。
それからというもの、このカートリッジはデータがとんでもなく消えやすくなってしまった。
たとえば、スーパーファミコンを置いている面がちょっと振動するだけで消えるようになった。また、プレイ中に本体の後ろのコードをいじるだけでも画面が動かなくなることがあった。
そこで、スーパーファミコン本体に衝撃が加わらないよう、
いろいろ工夫してみた。
とりあえず、最初にやったのが、本体の下にタオルを置いてみること。
ふかふかなタオルの柔らかさで、床からの衝撃を和らげるという意図だ。
ところが、衝撃は抑えられるものの、なぜか急にブツっと切れるようになった。
僕はタオルに熱がこもってしまったせいで、スーファミの挙動が不安定になったのではないかと思った。
そこで、今度は鉛筆を下に敷き、本体の下の風通しがよくなるようにしてみた。
すると、以前よりあまり熱くならなくなったものの、床からの衝撃を和らげることは出来ず、全然ダメだった。あたりまえだけど、鉛筆にクッション効果は期待できない。
そしてお約束だけれど、カートリッジに息も吹きかけてみた。
これでセーブ消えが解消されるとは思えなかったが、一種のおまじないみたいなものだ。意味はないけどわらをも掴むつもりで一応やってみる。
でも、やっぱり消えまくる。
プレイ後すぐ消えたのも含めると、僕は少なくとも17回は挑戦したが、ラスボスまで辿り着くことができたことは1度もなかった。このカートリッジは完全に壊れてしまったようだった。
僕はさじを投げた。
すると、
彼はY。頭が良く、成績も優秀なやつだった。
そして、何よりものの扱いが几帳面。持ち物はすべて新品同様に綺麗だし、字も美しい。中学の夏服の白シャツも常に眩しいぐらいに白かったし、シワひとつなかった。要するに、「爽やか」という言葉を具現化したようなやつだった。ものを乱雑に扱ってしまう僕とは何もかもが正反対だった。
僕は「ガサツ」と言われてちょっとムッとしたが、その点に関しては全く反論できないので、やれるものならやってみろ、という気持ちでカートリッジを貸した。
すると、彼は万全な体制でこのゲームに取り組みだした。
まず梱包材の透明なプチプチを用意し、それをスーパーファミコンの下に敷き、そこに直接扇風機を当てた。
こうすることで床の振動の衝撃を吸収しつつ、風でスーパーファミコンを冷却できる。
さらに、彼の最大の武器である、物への丁寧な扱い。繊細なタッチで、カートリッジにほぼ衝撃を与えることはなかった。
僕は彼がどこまでいけるかちょっと関心があったので、毎日進捗を聞いてみたんだけれど、セーブが消えるどころか、トントン拍子でゲームを進めていき、ついに僕が進んだところを超えてしまった。
それで僕はおもしろくなくなって、もう進捗も聞きたくなくなってしまった。
でも、彼は僕に報告する事に快感を感じてしまったらしく、何度も僕のところに来て、今日はどこどこまで進んだ、〇〇を倒したと逐一報告し、勝ち誇った顔をした。そのたびに、僕の鬱憤は貯まる一方だった。
ところが、数日経ったある日
Yはひどく落ち込んで学校にやってきた。
「どうしたのか、セーブが消えたのか?」と聞いてみると、かなり印象深い返事が返ってきた。
話を聞いてみると、かなり理不尽な消え方だった。
それは前日の午後、夕飯を食べたあとにゲームをしていた時だった。
風呂あがりのYのお姉さんがやってきた。
そこまで激しくペットボトルを置いたわけでもないのに、スーパーファミコンがプチプチからズレ落ち、そのショックで画面が砂嵐になってしまったのだ。もしかしたら、すでに長い間プレーしていたので、ずれ落ちやすい状態になっていたのかもしれない。
それにしても…
呪いとしか思えない理不尽さ。。
落ち込む彼を観ていると、哀れな気持ちになった。
でも
こころの裏側にこみ上げる笑いは抑えきれなかった。
ところが、一連の流れを見ていたこいつが最後に名乗りを上げてきた。
彼はU。特に几帳面でもなければ、学校の成績が良いわけでもなかったが(卒業するときは恐ろしく優秀になってたけど)、とにかく根性のあるやつだった。
やり始めた作業は何時間でも作業できる。何かのゲームを始めたら、レベルを最大まで上げたり、取れるアイテムは全て取るなど、一度決めたらしつこくしつこくプレイし続ける、ある意味狂気じみた男だった。
彼は「俺がちゃっちゃとクリアしてやんよ」と言い残し、ゲームを持って家に帰っていった。
そして、休日を挟んだ3日後。。
彼はズタボロな状態で現れた。
僕とYは、奴もゲームが消えたか、とニヤニヤした。
ところが、話しかけると、期待したのと全く違う反応が返ってきた。
まさか!
まだ貸して3日しか経っていないのに!
その後聞いた彼のゲームの進め方は、僕にとってかなり衝撃的だった。
彼はゲームを中断して何日もかけてプレイするのは、セーブが消える確率を上げるだけだ、と考え…
金曜の夜から月曜の朝まで、ほとんど眠らずにプレイしたのだ。
さすがにこれには圧倒されてしまった。なんという力技。。
醜いヒガミや嫉妬心は消え失せ、素直にUを称賛する気持ちになった。
彼は今日の放課後、ラスボスを倒すけど見に来るか?と言ってきた。
正直ラスボスに至るまでの流れは全然知らないので、かなりストーリーをすっ飛ばすことになるんだけれど、それでも見てみたかった。あの悪魔のようなカートリッジを制覇する瞬間をどうしても見たかったのだ。
それで、Yと一緒に放課後Uの家に行くことにした。
ところが。。
Y「それで俺だけ出てきたんよ。」
僕「え、じゃあセーブは」
Y「消えたんじゃないの?知らないけど」
結局僕がFFⅥをクリアしたのはその一年後、新たに新品を買い直した後だった。
そして、時は経ち。。
今や彼らも妻子持ち。
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