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それはまるでヒーローみたいで


大会から帰ってきて
道場に一回寄った。


「都は本当、弱いな。
弱すぎて見てられない。」


冷たくそう言った義旭くんを見て

私は唇を噛んだ。


「義旭くん、言い過ぎ!!」

「うるさい。
俺は本当のことを言っただけだ。」


同い年の宏枝ちゃんが
かばってくれたけど

義旭くんはそんなのお構いなし。


「だいたい義旭くんは男子なんだから
都ちゃんに構うことないじゃん!

都が負けたって別に
義旭くんには関係ないじゃんっ!!」


「大会で俺の道場の奴が初戦敗退なんて

道場の恥だ。」


二個上の義旭くんは
今年、中学に入学して
大会優勝をあっさり決めてしまった。


それに比べて私は

相変わらず、弱いまま。


今日の大会でも初戦敗退です。


「道場の恥だ、なんて
そんな言い方ないじゃん!!」

「ギャーギャーうるさい。」


宏枝ちゃんにピシャリとそう言って

義旭くんはため息。


「また泣くのか、都。」

「…まだ泣いてないもん。」


勇気を出してそう答えたが

涙はポロポロ頬を伝った。


「あーっ!

また義旭くんが泣かしたーっ!!」


そう言われると
余計に涙は零れる。


「慰謝料せいきゅーっ!!」

「うるさい、宏枝。」


それだけ言い残して
義旭くんは面倒くさそうに
さっさと帰ってしまった。


「都、大丈夫??」


宏枝ちゃんは心配そうに
私の隣にいてくれる。


「大丈夫だよ、都っ!
また次もあるからっ!!」

「…うん、」


でも泣き止まない私に
宏枝ちゃんも少し困っていたら。


「…あれ??都ちゃん、宏枝ちゃん。」


道場に入ってきたのは

義旭くんのお兄さんの朝長くん。


「まだ残ってたの?」


朝長くんは
大会とかには出ないし
中学もバスケ部だけど

たまに夜の部の練習に
参加しています。


「中学生とか高校生が
もう来ちゃう時間だし、
外も暗くなるから早く帰りな??」


そう言ってから私を見て

ビックリした顔をする。


「義旭くんのせいで、
都、泣いちゃったの。」


宏枝ちゃんの言葉に
私は更に泣いてしまう。


「義旭が??」

「そうっ!
義旭くん、いっつも都に
意地悪言うんだよ!!」


宏枝ちゃんの言葉に軽く頷き

朝長くんは私を覗き込む。


「…大丈夫??」


少し戸惑った様にそう言って

制服のポッケを探す。


「…あ、これ。」


そう言って朝長くんは
ハイ、と私に飴を差し出す。


「あげるから、その…、
義旭も怒っとくから、

もう、泣かないで??」


首を縦に振ると

ニコッと笑う朝長くん。


「偉い、偉い。」


その笑顔に涙は止まって

胸がキュンってなって、


朝長くんの背中が

眩しくなった。



それはまるで
ヒーローみたいで







**


「またついてる。」


山本に口元を指摘され
俺は慌てて口をこする。


「ハンカチは??」

「そんなの持ってねーよ。」


はぁ、とため息をつき
ハンカチを渡して来た。


「ハンカチくらい
持ち歩きなさいよ。」

「飴は持ち歩いてる。」

「ポッケに入れるもの
間違ってるから。」






2011.04.04

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