見出し画像

不意打ちなんて卑怯じゃないか

いつも通り、ヒメより先に目覚め
俺はキッチンに立った。


別に俺はいま流行りの
料理男子っていうわけじゃないし

乙女男子ってわけでもない。


ただこれが俺の仕事で

俺の義務なのである。


あぁ、ほら、例えばさ。

小学生の宿題みたいな。


やらないとダメだし

やらないと怒られる。


俺の場合も、そう。


やらないと殴られる。


ヒメが一人暮らしを始めて
一番成長したのは実は

ヒメじゃなくて俺だと思う。


…だってそうだろ。

ヒメなんて所詮、
カレーくらいしか作れないし

洗濯物も干しっぱなしだ。


俺はヒメの大好きな
グラタンも作れるようになったし

みじん切りも出来るようになったし

スーパーの特売日も覚えたし。


洗濯物なんて

アイロンまでかけて
綺麗に畳んであげてるし!!


「少しは感謝しろよな。」


聞こえない様に小声で呟き

起きない様に軽く蹴る。


バレたら大変だからな。


ヒメは暑そうにしながら
俺がいた位置に寝返りを打つ。


寝てれば可愛いんだけどなぁ。

うん、本当、姫って感じ。


…俺キモっ。
何を今更一人で変な気持ちになってんの?!


キモいわー、俺まじ終わってるわー。

つーか、ヒメの寝顔
可愛いとか思ってる時点で
おかしくなってるな、うん。


暑さってのは恐ろしい。


「…ヒメー、
起きなくて良いのー??」


朝食を完成させて

洗濯物を取り込みながら
俺がそう尋ねても

相変わらず、寝たまま。


…あれ??
そういえば今日、仕事休みとか
言ってたような気がしてきたぞ。

ちゃんと聞いときゃ良かった。


はぁ、とため息をつき

ヒメのことを見ると

なんか、口開けて寝てるし。


…無防備。


恐る恐る、頬をつねってみる。


…うわ、起きない。

なに、大丈夫なの、この子。

息してる??平気??


「…おい、ヒメ。
起きろよ、朝だぞ。」


いや、別に仕事ないなら
起きなくて良いんだけどさ。


「…起きないならキスす-」


最後まで言い終える直前に

腹部に激痛が走る。


「変態を彼氏にした覚えないぞ。」

「ひ、ひっどい…!!
俺、そんな悪いことした?!」

「お前に言われるのはキモい。」


…おれ、かれしだよ?!?!


そう声にすることもできず
うずくまったまま、顔をあげると


軽く、チュっと

唇を奪われて。



「立ち上がんねーなら

キスするぞ。」



…え、なにそれ。

なんか、すげー可愛い。


…あ、暑さのせいか。



不意打ちなんて
卑怯じゃないか







**


なんか、悔しいな。


俺ってやっぱり


結局君が好きなんだな。






2011.09.17
hakuseiサマ
不意打ちなんて卑怯じゃないか

いいなと思ったら応援しよう!