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憂国考察記事#4 The Case of the Noble Kidnapping

【関連作品】

「シャーロック・ホームズシリーズ」:『花婿失踪事件』(A Case Of Identity)、『ギリシャ語通訳』(The Greek Interpreter)、『最後の事件』(The Final Problem)、『ブルース・パーティントン設計書』(The Adventure of the Bruce-Partington Plans)

「憂国のモリアーティ」2巻:#4 The Case of the Noble Kidnapping


「憂国のモリアーティ」の第4話の邦題は『伯爵子弟誘拐事件』。原作の『花婿失踪事件』を意識したタイトルではないかと思われる。

原作はシリーズ初期の作品で、義父が花婿に扮して行方不明を装う話。「憂国のモリアーティ」ではウィリアムがわざと誘拐される話。内容は全く違うが、目的達成のために事件を装うという点では一致している。

この回で、アルバートはまだ中佐だ。原作では、モリアーティ教授の兄は「モリアーティ大佐」と表現されていた。ここでアルバートが作戦の成功の見返りに大佐への昇進を要求しているのは心憎い。作戦後に原作と同じモリアーティ大佐になったことが想像できる。

そして、アルバートが任命されたMや、立ち上げに関わることになったMI6は007シリーズの前哨戦と言えよう。「憂国のモリアーティ」では、007シリーズネタも数多く散りばめられている。007シリーズは別の機会で触れるとして、ここではアルバートをMに任命したホームズの兄・マイクロフトに触れたい。

「憂国のモリアーティ」では、シャーロック・ホームズよりも先にマイクロフト・ホームズが登場する。初登場回では名前は明かされず、マイクロフトだったことはかなり後に判明する。ただ、原作ファンには分かるように少しだけヒントが示されていた。

原作の『ギリシャ語通訳』でホームズは兄・マイクロフトについて以下のようにワトソンに説明している。

“兄は数学にはものすごい才能があるので、いくつかの政府機関で会計監査をやっている”

兄の職業は「会計監査」とされるが、別の『ブルース・パーティントン設計書』ではイギリス国家の最高機密を扱う立場にあった。

“兄以外の人間は全員専門家だ。しかし彼の専門は全能だということだ。ある大臣が一つの点に関して情報を必要としていえると想定してみよう。その情報は、海軍、インド、カナダ、金銀複本位制問題に関係がある。兄はさまざまな部署からそれに関してそれぞれの助言を受けることができる。…何度となく、兄の意見で国策が左右されてきた。”

原作ではマイクロフトがいったいイギリス政府のどんな役職に就いているのか具体的な明示はなかったが、明らかに情報を管理する部門である。

そして、「憂国のモリアーティ」でアルバートがマイクロフトに会いに行ったのはロンドン陸軍省情報部。MI6の立ち上げにマイクロフトが深く関係しているのは、原作ファンにとっても嬉しい演出だ。原作と007をうまく融合させた最初の回であり、その組み合わせの妙に舌を巻いてしまった。

※satyamkumarpeによるPixabayからの画像

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