
憂国考察記事#2 The One Grapefruit Pie
【関連作品】
「シャーロック・ホームズシリーズ」:『オレンジの種5つ』(The Five Orange Pips)、『最後の事件』(The Final Problem)
「憂国のモリアーティ」1巻:#2 The One Grapefruit Pie
「憂国のモリアーティ」の第2話のタイトルはとても秀逸。話の中身や、舞台、被害者の名前は異なるものの、タイトルの英訳を原作のThe Five Orange Pipsに似せて、わざわざ付けているなとはっきりと感じさせた作品だった。オレンジとグレープルーツも良く似ているが、味は全く異なる。タイトルが似ていても全く異なる物語を表すタイトルとして、よく考えついたものだと思う。
原作はK.K.Kに命を狙われる青年の話。陰謀論や秘密結社の話が好きな人は気に入るだろう。短話のため読みやすい。ホームズが出し抜かれた数少ない話の一つでもある。
「憂国のモリアーティ」では、ダラム大学で教鞭を振るうウィリアムの姿が描かれている。第1話の最後にも触れられていたので、併せてここで記載したい。
原作の『最後の事件』では、ホームズがモリアーティ教授についてワトソンにレクチャーする場面がある。
“21歳の時、彼は二項定理に関する論文を書いて、ヨーロッパ中で大評判となった。それが認められて大学の数学部長の座を手に入れ…”
“大学のある町で、彼に黒い噂が付きまとった。”
憂国のモリアーティの第2話はこのあたりをうまく使って、ウィリアムが犯罪郷へと変貌を遂げる過程を描いている。原作では黒い噂とされていただけで、具体的にモリアーティ教授が何をしたのかは分からない。その余白をうまく埋めている。そういう意味でも心憎い演出と言えよう。
※S. Hermann & F. RichterによるPixabayからの画像