今どこにいますか
『ひなた!清藤くん事故にあったみたい!』
それは親友のまひろからの突然の電話だった。
清藤くんは高校の1つ上の先輩だった人
中学生の頃は手のつけられない不良だったらしく、地元では名前を聞いただけで震えあがるほどの人だったようで……。
下校時間、女子は決まって自分のお目当ての先輩が帰るところを見送るために昇降口に群がる。
その中を自分が通りすぎた後10分経っても匂いが残るほどタクティクスをかぐわせて通りすぎていく…
《匂いでやられたのかな?笑》
タクティクスの香りが鼻に残って気になって仕方ない。
休み時間や放課後まひろを引き連れ気がつくと清藤先輩を探していた。
清藤先輩は応援団だったから、応援団の練習は真面目にやった。
応援団が1人1人指導に見回る
先輩が近くに来た時は指導されたくて少し型を崩したり…
応援団が行く応援にはついていったり…
アドレス帳を書いてもらおうと差し出した時には声も出ず
息も止まった。
2年のある日の放課後、廊下で久しぶりに清藤先輩とすれ違った。
その先には指導の先生……噂で清藤先輩は後輩の謹慎に対する処罰を背負うために退学するらしいと…
もう逢えなくなってしまうと思い涙が出てきた
まひろは私の腕を引き
『最後にちゃんと話してきな!』と先輩の後を追った。
『清藤先輩!』
先輩を引き留めたのはまひろだ。
やっぱり…声も出ない。
そんな姿を見て先輩は
「あと、頼むな」
と言いながら最後に先生からもらった学校での思い出の写真を手渡してくれた。
涙が……止まらなかった。
それから数ヵ月後
同じクラスの女子が
「ひなたってまだ清藤先輩のこと好き?清藤先輩が彼女探してて…ひなたに伝えてこいって頼まれた~」
!!!えっ!どういうこと?
「とりあえず、友達一緒でもいいから俺ん家来いってさ。伝えたからね~」
隣で聞いていたまひろも唖然としていたが
二人で行くことにした。
清藤先輩の家は母子家庭で決して裕福とは言えなかったけど、いつでもダチが集まる賑やかな場所だった。
はじめは落ち着かなかったけど…
何度か足を運ぶうちにそこに居場所が出来てきた。
「いいか~お前ら、こいつを悪の道に引っ張るなよ。この素直な所が俺の癒しの存在なんだからな!」
清藤先輩はそういっていつも隣においてくれた。
とても幸せな空間だった。
だけど突然……
「もう来るな」
悲しそうな表情で清藤先輩が言う。
理由は分からない……けどそのまま連絡もとれなくなった。
数年が経ち私は別の人と結婚したけど上手くいかず
離婚目前で実家に戻ろうとしていた時
旦那が出張でいない夜中に一本の電話が鳴った。
こんな時間に誰?
おそるおそる電話に出ると…
「ひなた~?」
それは数年ぶりに聞く清藤先輩の声だった。
懐かしいやら切ないやら何とも言えない気持ちだった。
先輩は仕事や家庭の事情で私を巻き込みたくなかったために一度距離を起き、落ち着いた時に迎えにこようと考えていたらしかった、けど私が結婚していたため声だけでも聞きたいと出張先から電話してきてくれたのだそうだ。
3時間ほど話、空も明るくなりはじめたので
そろそろ電話を切ろうと。
清藤先輩はこれからバイクで自宅に帰るらしい。
[電話してたから眠れてないんだから気をつけて]
そう伝えると
『地元で逢おう!絶対な!約束!』
それが……最後の言葉になるなんて。
まひろからの事故の連絡…たまたま清藤先輩のお母さんに電話連絡が入ってたところを店で見かけたらしい。
しばらくたって少し落ち着いた頃に
清藤先輩の連絡先を探し自宅に連絡をすると
電話口には弟が……
[清藤先輩いますか?]
【……いません】
それ以上何も聞けなかった。
先輩は…今、どこにいるのでしょうか?
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