ない話 炊飯器のお釜
毎度、本当のことでない適当な話にお付き合い。
炊飯器に残ったご飯を、タッパーに移して冷蔵庫へ。
入れたので、お釜と内蓋も出してしまおうと外して持ち上げた。
ら、下からボタンがはえている。
ボタン、スイッチ、押したらダメそうな、適当な箱的なものに赤い丸い凸部が付いている、そういういかにもなやつ。服飾の部品ではない。ゲーム機でもない。
何のボタンなのか、気になる。それはもう気になる。大体、こんな場所にこれが入っているスペースはない。これまでにも見かけていない。
しかし今、見た限りある。箱に触る、触れる。ボタン、触れる。押してみた。
特に何も起こらない。
何だ、つまらん。瞬き、なんか出た出てる。
綿菓子だ。まばたきしたら綿菓子が出た。ボタンは消えた。
もちろん、こんなもん入れてた覚えもない。大体、綿菓子なんか随分食べてない。どういうつもりだ、この綿菓子。
『何だよ、覚えてねえのかよ、薄情もん』
唐突に喋った。綿菓子が。目も口も無いくせに。
綿菓子に知り合いは居ないと思ったんだけど?
訊ねようとして、言葉が止まる。引っ掛かるものを感じた。どうも見覚えが、ある。
そこで思い出した。文化祭だ。中学校の文化祭で、出店の綿菓子を食べた。食べていたのだが、もったいなくてちまちま食べ、友達とお喋りに夢中になり、しているうちに萎んでしまった。よくわからない、口当たりの悪い砂糖の糸くずが残った。あれは大分がっかりした。
あの綿菓子だ。そういやあそもそも、こんな蜘蛛の巣をかき混ぜた後の割り箸みたいなのが綿菓子だと、よく一目で理解できたな。
『全く、思い出したかよ』
鼻で笑ったような声で言って、解けるみたいに消えた。
後にはいつもの、お釜と内蓋を取った炊飯器だけ。
随分偉そうな綿菓子だった。何の用だったのだろう。あの後、食べなかったなんてこともない。むしろ執拗にしゃぶったくらいだ。
私の顔でも見たかったのか、綿菓子が。
何がなんだか、全く到底さっぱりだけど別に害も無し、幻覚か何かだろうからお釜と内蓋置いて寝た。
大体うそっこ無い話