「市民開発」の可能性と適するアプリケーション[20240919]
今週は、市民開発について情シスが検討し覚悟すべきコトについて話している。
EUC時代の不良資産が20年以上も積み上がってしまい「首が回らない」領域が未だに存在していることは私も知っている。
だからといって市民開発を「リスクが大きい」と拒絶するのは得策ではないだろう。
市民開発によるアプリケーションは「情シスで一切面倒を見ない」と私は一貫して話している。
それから、情シス部門で開発・運用をしてきた「コンピュータ・システム」は無くなることはない。
業務系システムとここでは敢えて呼ぶが、企業活動を正常に稼働させているシステムは、情シス部門によって開発・運用/管理されなければならない。
例えば、会計システムなどは業務系システムの最たるものだろう。
製造業であれば、注文が入ってから設計・調達・生産・納品と一連の業務を流すためのツールとしての「コンピュータ・システム」も情シス部門によって開発・運用/管理される。
機械製造などの企業におけるCAD/CAMシステム、特に最近では3Dが当たり前になっているし、設計してそのままシミュレーション可能になっているが、これらのシステムも情シス部門の開発・運用/管理である。
では、市民開発するアプリケーションとは何だろうか?
業務系システムと呼ぶにはおこがましいが、有ると無いとでは現場の仕事が大違いというようなものが市民開発に適している。
「情シス部門は、ちょっとも楽にならないじゃないか」と言う声が聞こえてきそうだが、その程度のことしか市民開発では出来ないし、させてはならない。
本来、業務系システムで実行しなければならないことを市民開発で補完してはならないのだ。
「情シス部門に、わざわざ作って貰うほどのことではない」というニーズを片付けるための手段が市民開発である。
前回、私が山一證券で営業員をしていた話をしたが、見込客データを使って封筒をプリンタ印字する程度の話が丁度良いのだ。
もう少し言うと、見込み客リストを元に営業員がどのようにコンタクトをしているのかを記録するようなシステムは市民開発でも良いだろう。
企業が業務系システムとして正しく準備する必要はないからだ。
これらの仕事をパッケージソフトで代替したり新規開発をしたりするよりは、現場ニーズもブレにくいし、市民開発が良いと思う。
何でもかんでも市民開発をしろという訳ではないということを、認識いただきたい。
情シス部門は、市民開発でどのようなシステムが開発されているのかを定期的に調査をして「業務系システムの機能として取り込む必要性」を審査しなければならない。
というのは「データ」階層の問題に対処しなければならないからだ。
市民開発している機能でglobal classに記録しなければならないデータ・情報が発生した時は、間違い無く業務系システムで持たなければならない機能だということである。
これらが発生する理由は、2つある。
1つは、業務系システムを導入する際に考慮不足でその機能を取り込んでいなかった。
もう1つは、業務そのものが変化してきてシステムがそれに追随しなければならなくなった。
市民開発環境が提供されていると、業務系システムにて対応しなければならないことも、ユーザが先行開発してしまう可能性がある。
情シス部門は遅滞なく業務系システムに取り込んでいかなければならない。
それから、情シスが市民開発をリスクと捉える理由に「ユーザが勝手に作ったプログラムの面倒を見続けさせられる」という点があるが「面倒を見ません」と宣言することが市民開発の条件である。
業務系システムに搭載しなくても良い程度の「お便利ツール」だからこそ、永続的にメンテナンスする必要は無いのだ。
重要ポイントなのでもう一度説明するが、
「市民開発においてユーザが開発したアプリを情シスがメンテナンスをしない」
「メンテナンスが必要ならば、ノーコードなのでご自身でお願いします」
更に「指定したノーコードツールで出来る程度のことを市民開発してください」ということも大事だ。
デジタル民度を高めて市民開発すれば、無限大に何でも出来ると思ってもらっては困る。
業務系システムに取り込む必要が無い内容ならば何をしても問題無いのだが、ツールには制限を掛けたい。
市民開発が可能というだけで「デジタル民度向上」に寄与するはずだし、結果的にDX推進のベーススキルとなり得る。
私個人としては、そのベーススキルを醸成することのメリットに重きを置きたいと思うのだ。
情シスとユーザとの間に「私、作る人」「あなた、使う人」みたいな関係になって欲しくない。
業務系システムは情シス部門が開発するべきと言ったが「それは作る人と使う人の関係になっても良いのか?」と疑問に思うかもしれないが、それはOKだ。
なぜなら、業務系システムの機能は、企業組織を運営する上で必要不可欠なことのみ実装するからである。
では、業務系システムに取り込むべきかどうかは何で判定するのか?
明日は、そこについて話したい。
合同会社タッチコア 小西一有