定義の定義が理解できていないと…[20240418]
IPAのデジタル推進スキル標準で定義されているビジネスアーキテクトのスキルについて。
ビジネス戦略策定・実行の重要度については前回までに私見を述べた。
さて、ビジネスモデル・プロセスの領域も重要度aと定義されているスキルが多いのだが、ここにも一家言ある。
反論する訳ではないが「具体的に何が出来れば良いのでしょうか?」の問いに対する回答を考えると本当に難しい。
ビジネスモデルという言葉の定義も割と曖昧である。
ビジネスモデルという言葉は学者が提唱したのではなく、マスコミが語感の良さで適当に使い始めたためだ。
2000年代には、学者が定義をすべく様々な説が登場した。
ただ、いづれも戦略論として考慮すべき内容が包含されていて、あまり気持ちの良い定義ではなかった。
2010年以降には、戦略論界隈の先生方から「戦略を切り離して」考慮すべきと、新たな定義が提唱された。
「策定された戦略にもとづいてモノやサービスを顧客に提供し、事業として収益をあげるための一連の仕事の枠組み」(2010年:西野・伊丹)
あくまで戦略は所与であると明確に述べたのである。
IPAでも戦略とビジネスモデルとは切り離して考えているように見える。
多くの方々の理解の誤りは、ビジネスアイディアとビジネスモデルとを混同していることだ。
「新たなビジネスモデルを創出するワークショップ」と耳にすることがあるのだが、恐らく誤用である。
正しくは「ビジネスアイディアを創出」が正解だろう。
ビジネスモデルは、ビジネスの型であり、ビジネスアイディアとは意味が全く違う。
ビジネスモデルについては、スイスのザンクトガレン大学上級教授のオリバー・ガスマンらが55種類のビジネスモデルを特定している。
この分類が基本となって、いくつかの組合せにより簡単に真似出来ないビジネスアイディアが生み出されたりすると考えて概ね間違いは無い。
最近のデジタル・ケーパビリティの進展によって、今まで生み出されることが無かったビジネスアイディアが出現しているが、殆どはオリバー・ガスマンの55パターンの組合せである。
ビジネスアーキテクトのスキルとして「ビジネスモデル設計」のスキルレベルとしては重要度aとあるが、この55種類を熟知している必要は無いだろう。
55種類存在していて、概ねどのようなモノかを理解していれば良いと考えている。
では、ビジネスモデル設計とは如何なるスキルなのか?
ビジネスアーキテクトに問われるスキルという意味では、ビジネスモデルキャンバス(BMC)が書ける、分かるという意味ではないかと思う。
ビジネスモデルの型の名前は知らなくても良いし、どのモデルがどのモデルの派生だとかも知らなくても良い。
BMCの9つのエレメントの中身を検討し具体的に表記する能力は必要だろう。
ちなみに、私がBMCを見る際に一番大事にしているポイントは何か。
BMCの真ん中に「価値提案」があるが、これとその左側の「主要活動」に注目する。
如何なる価値を如何に提供するのかというビジネスの基本である。
何でもそうだが、基本の基本を理解しなければ先には進めない。
価値提案に「価格」と「性能」しか言えない日本企業が多いように思えるのは気のせいだろうか。
合同会社タッチコア 小西一有
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