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たまには真面目に仕事の話:その20-通訳案内士ってどうよ-どうにもならないことは、ある
あっという間に今年もあと一週間。
今年最後のインバウンドツアーは、これまでで最悪のものだった。
どうにもならないことが多すぎた。
これは、もうひとつステップアップすべき、という忠告なのか。
あなたはガイドには向いていないよ、と言う警告なのか。
とにかく、久々に落ち込んだ。
話が通じない人というのはどこの会社にもいるけれど。
お客様で、そういう人にはこれまで出会ったことがなかった。
自分を見込んでアサインしてくれた会社の担当者に申し訳なさすぎる。
同じ行程を2週間近く一緒にいなければいけなかった他のお客様のことを考えると心が痛い。
どうすれば良かったのか。
どうすべきだったのか。
未だにその回答は得られない。
けれど、お客様の低評価フィードバックを見て思ったのは、
自身のリーダシップの欠如と、エンターテインメント性の乏しさ。
やるべきことをやっていないと思われていたという事実。
自分自身を消しつつ、演じる、という必要性。
まだまだだな。
それでも、これは『伸びしろがある』ということだと自らを励まし、次は何とかしてアサインしてくれた人に恩返しを!と思っていたら、今度はその方が突然辞めたとの連絡を受けた。
これは、私の低評価のせいではないのか?
ああ、もう、お返しする術もない。
そのことが、更に心を落ち込ませた。
物事にはタイミングがあり、一度逃がせは取り戻すことはできない。
誰かが言った。
チャンスの女神の前髪は短いのよと。
いや、どうやって前髪掴むねん? 後ろ髪やろ? 掴むんやったら?
あまりにへこみ続け愚痴り続ける私を見かね、同僚が喝を入れた。
「人生一回しか会わない客のこといつまで考えてんのよ!」
「終わっちゃったもん仕方ないでしょ!」
「クビなってから諦めなさいよ!」
「どんだけトレーニングしてもらったと思ってんのよ!」
「かかった費用返してから言いなさいよ!」
「前を見なさい!」と。
有難い。
同僚は、ライバルでもある。
切磋琢磨する仲間でもある。
そして、辛い時、分かり合える。
有難い。
そんなことを思いつつ、気持ちを切り替え、日本の高校生修学旅行ツアーに取り組んだ12月。
インバウンドは暫く怖い。
大晦日にも受託はしているけれど。
その前にこの心を持ち直したい。
ツアーの後悔は、ツアーでしか返せない。
けれど、その修学旅行で更にへこむことになろうとは予想していなかった。
何故なら、そこで出会った添乗員の方がとてつもなく凄かったから。
そうなりたい、と思わせてくれる人だったけれど。
以前に北海道のツアーでも同じようなことを感じていた。
添乗のプロ、と呼ばれる領域の方たち。
自分に圧倒的に足りないものを突きつけられた気がした。
神様が、「ここなんとかしようね」と彼女を遣わしたとしか思えなかった。
途中でバスに乗り込んできた「はとバス」のガイドさんも、尊敬しかない。
素晴らしかった。こんなガイドをしたい。そう思った。
ああ、こんなに足りない所だらけで、よく今までやってきたなお前は。
という声が遠くから聞こえる。(幻聴)
純粋で、可愛い高校生たちとの東京、横浜への修学旅行。
どうやら偏差値の高い高校らしく、まぁしっかりした高校生だった。
歌舞伎座でも、お行儀よく座っていた。
集合時間を守る姿を、インバウンドのお客さんに見せてやりたいぞ。
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到着から奇跡的に、連日車窓からくっきり麓まで見えていた富士山。
スカイツリーから見えても、高校生からはもう歓声さえ上がらない。
奇跡的ですけど? 超絶レアな景色ですが?
チケットセンターエリアからスカイツリーを見上げた瞬間は、
あんなに嬉しそうな歓声を上げていたのに。
富士山もういいの?
素敵なものを見て声をあげる。楽しくてはしゃぐ。
それでも、しっかりとマナーを守る。
高校生が降りた後のバスの中は、ゴミ一つ落ちてはいなかった。
これが日本の高校生なのか。
インバウンド観光客なら、椅子を倒したままゴミを残し降りていくバス。
降りた後、彼らの中に、「誰が掃除するのか」を考える人はいない。
今度から調教だな。本来の日本を伝えねば。
ついつい何を見ても、闇に落ちた数日前に引き戻されそうになる心。
いかん、またへこみそうだ。そう思っていたら目の前に推しの姿があった。
スカイツリーの中に。
どうやらクリスマス直前22日まで限定のアニメ「呪術廻戦」イベント。
ああ私に強い呪術の力があったなら、「領域展開」できたなら、
「無量空処」マスターできたなら、あの妖術使いを退治できたのに。
絶対、特級の呪霊があいつにはついてたわよ。
(すいません。のめり込みました)
そんな風にこっちが嫌っていれば、相手も嫌っているのは当たり前。
悪意に満ちたレビューを送ってきた。
そして同様にツアー中に散々な目に合っていた他のお客様からは競うように
「あなたをバックアップするわ!」的なレビューもやってきていた。
「他の知り合いを紹介したのだけど、あなたツアーできる?」
というツアー後のメールの優しいお言葉に、涙が溢れた。
けれど、同じツアーをお薦めした。
何故なら、本来はとても良いツアーであることは明らかだったから。
「あなたの参加したツアーは私の知る限り、最高のもののひとつよ、
唯一の残念ポイントはガイドが私だったことね」との言葉に爆笑してくれるお客様に心が少し和らいだ。
どうやら、何となく自然にお客様が団結していた模様。
そしてひとり孤立していた人。の構図。
そりゃ私に何とかしてくれと、双方が思っても仕方あるまい。
どっちからも、「何もしてくれない」と思われても仕方あるまい。
プラスとマイナスの意見が入り混じる内容。
ふたりのガイドがいたようにさえ見えるご意見。
「いつまでくよくよしてんのよ!プロに徹しなさい!」との同僚の声。
出来る限りやったけど?と反発する心。
やっぱり、まだまだです。
どうにもできないこと、あるんですよ。
100件に1件くらいですけどね。
まぁ、ここまでのは初ですがね。
時々辛い過去に引き戻されている添乗員の前で、
楽しそうに弾けている来年3年生になるという進学校の高校生たち。
今を全力で楽しんでいる。
どうしようもなく落ち込んでいた心をほんわかと柔らかくしてくれる。
「お姉さんみたいなガイドになりたい! 日本のあちこちに行きたい!」
その言葉に、救われた。
いや、もはや、お姉さんちゃうけどね。
あなたの親御さんより年上だからね。
何なら、あなたのおばあちゃんに近いよ。多分。
それにね、今回はガイドじゃなくて、添乗員なのよ。
この二つのお仕事、全く別物なのよ~。
だからおばさん今、両方勉強中なのよ~。
思えば私も同じことを母に言って、反対されたことを思い出した。
母娘揃って、ガイドと添乗員の区別さえできていなかった頃。
身体が弱いから無理よ、とか。
英語できないでしょ、とか。
あなたが人のお世話なんてできるわけないでしょ、とか。
お給料安いわよ、とか。
休みがないわよ、とか。
大学行かないといけないでしょ、とか。
今思えば、根拠のない説教。
子供の成長を、止めていたのかもしれない。良かれと思って。
自立して自身の道を決めていた友人が、その頃輝いて見えていた。
「あなたの為を思って」という言葉は、
見えない鎖になって未来を迂回させる。
それから数十年かかったけれど、反対を押し切り、この仕事を始めた。
資格を取り有無を言わせない状況にするところから始まり、
どんな企業に入っても続かず、お金が貯まれば英語の勉強に行ってくる、と、放蕩を続ける娘に親が愛想をつかしてくれた。
彼らの保護者さんたちは、彼らの未来を塞がないでくれるだろうか。
彼らは自分の歩みたい道を、誰にも反対されずに進めるだろうか。
「楽しかった?」の問いに、満面の笑みで「楽しかった!」と答えてくれる高校生。弾ける笑顔というのは、こういうことを言うのだろう。
住んでいるエリアによるものなのか。受けた教育によるものなのか。
教育している学校の先生たちのおかげなのか。
純粋な笑顔に感動した。
自分が高校生だった頃を思い返し、
「数十年後に自分がこんな風になっていることは予想もしていなかったな」と、
カラオケ大合唱で盛り上がるアオハル真っ最中のバスの中、進学と恋話以外に悩みのなかった時代に思いを馳せた。
何故だか、昭和の唄を延々と歌う高校生。
私と先生に気を使っておるのか?
よくその曲知ってるね?
まだ生まれてないよね?
とか思いながら、共に口ずさんだ。
もう少しだけ、頑張ってみよう。
そんな思いで戻った鹿児島の夜。
昨年と何ら変わらないクリスマスマーケットがあった。
去年は、未来が見えず絶望的な気持ちで見ていたツリー。
今年は輝いて見えた。
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ああ、もうクリスマスか。と、立ち止まる。
大好きな温泉は改装中で残念だったけれど。
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もう一度、任せてもらえるとは思えないほどのどうしようもない添乗。
けれど参加できてよかった。足りないことを身体で自覚できた。
鹿児島から離れた今、2月迄は奄美大島にも鹿児島にも戻ることはないことに、淋しさ半分と、各地でのツアーができる嬉しさ半分。
「連絡をもっと早くくれたら、霧島の温泉くらい行けたのに!」
そう言ってくれる焼酎マイスタークラブの同僚のメールに癒された。
思えば奄美の滞在中、随分と無理を言ってたくさん勉強させてもらっていたなと思う。愚痴しか出なかったことを初めて申し訳なく感じた。
こんなに多く、広く、ネットワークが広がったではないか。
遠くから貢献できる日が来ればといいなと、遅ればせながら、思えるようになってきたこの頃。
今年最後の長いツアーが終わり、向えた年末、苦手なクリスマスシーズン。
そんな心を知ってか、数少ない友人の一人が、一緒に今年の誕生日を祝おうと誘ってくれた。お互いに祝い忘れていたでしょう、と。
普段団体ツアーでは絶対使わないようなところを用意して。
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夜遅くまで、互いのことを話し、辛かったツアーのことを話す。
楽しかった修学旅行のことを話し、辛い介護の事を話し、
未来について語る。
何十年の付き合い。二人とも将来への不安は尽きない。
そうして彼女がくれたもの。
それは、「バケットリスト」手帳。
「一緒に沢山旅をしよう」そう微笑みながら。
恐らくは彼女の方が、辛いことが多かった数年間。
それを乗り越えてきた強い女性。
微笑みながら長い愚痴を黙って聞いてくれた。
「無事終わってよかったね」と。
その言葉に、はたと気が付いた。
誰も命をおとさず、無事に国に帰って行った。ということに。
それだけでも良かったのだ。
無事終わって、良かった。
高齢者だらけのツアー、何が起こっても不思議ではなかったのだから。
どうにもならないことを気にするよりも、無事にツアーを終えられたことに感謝すべきだった。それを、すっかり忘れていた。
自分を守りたくて。
自分の力でどうにもならないことは、ある。
そこら中に、ある。
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ひとり旅好きの私。
だから団体ツアーには参加したことがない。
友人もツアーは嫌い。
だから団体ツアー客の来ないような良いホテルを良く知っている。
そんな人との旅は楽しい旅になる。
来年はどこに行こうか? そんな話で盛り上がる。
ひとり旅が辛くなる年齢は、人によって違う。
そんな人をターゲットにしているひとり旅向け団体ツアーもある。
けれど、私たちは参加しないよね。そう言って笑い合っていた。
かつては。
団体ツアーのお客様の気持ちは、恐らく団体ツアーに参加しないと判らないのかもしれない。
高齢になるにつれ、連れ合いが亡くなり一人で参加する人が増えてくる。
最初で最後のツアーにと日本を選ぶご高齢の方たちは、一体何を求めて団体ツアーを選んでいるのか。それを知りたくなった。
富裕層FITばかりを担当してきたせいで、その心がつかめていなかったのかもしれない。
「来年は団体ツアーにお客さんとして参加する」
バケットリストにそう付け加えた。
目線を変えたい、そんな不純な動機だけれど。
そんな二人の珍道中を、来年はここに綴れることを期待して。
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日本人らしく、どんな宗教をも受け入れる年の瀬。
あなたの次の一年が、より良い年になりますように。
メリー・クリスマス。