奄美 夏の終わりの蒸し暑さとライム色のものたち
台風が去ってしばらくしたら、朝晩が涼しくなってエアコン不要になった。
このまま、秋に突入かと思いきや、まだまだ昼間は泳げそうに暑い。
地元の人は泳がないけど。
空に浮かぶ雲は、まだまだ低い所にある。
それでもトンボがあちこちに飛び始め、「これはなあに?」レベルの大きい虫たちがうろうろし始めた。
そのせいか、鳥たちがよく道路を歩くようになっていて、大きな蝶々は逃げるように車のフロンドグラス目掛けて飛んでくる。
夜には相変わらず小さなカニが道路を横切る。
日々、この景色に慣れてきたとはいえ、「お願い来ないで」という思いは変わらない。
そんな中で、普通に職場にいた巨大芋虫くん。何とも綺麗な黄緑色。
長さにして15センチはあろうか。下から見るとその脚が何とも言えない。
なかなかすばしこく逃げ回っていたが、段ボールの角にまんまと乗せられ、ようやく大人しくなる。
一体何の幼虫か?希少種だったら大変だと、保護して離す優しい職員さん。
なんだか芋虫さん専用のサイトもあるらしく、調べる人たち。
色々調べた方が「蛾の幼虫のようだ」と教えてくれたのだけれど。
一体全体どんなでっかい蛾になるのだろうか……。
これらが飛び交う姿を想像すると、これからの季節も、なかなかのスリルとサスペンス。
久しぶりに市場へ行くと、納品者の方から市場スタッフにおやつのフルーツが差し入れられていた。
どうぞ召し上がれと言われ、お皿を見たらそのカットされた断面が、可愛いスマイル。しかもふたつとも。
ニッコリされて思わずこちらまでニッコリ。
思わず写真を撮った綺麗なライム色のフルーツ。
ばんしろう。と呼ばれている。
一般的には、「グヮバ」と言われているもの。
白いばんしろうよりも、ピンクの方が香りが高く甘みがある。
グヮバジュースとして売られているものがほんのりピンク色なのはそのせいだろうと思う。
けれど、私は白のさっぱりした感じのものが好き。
ひとしきり、かわいい笑顔~♪と皆で盛り上がった後、食べた。顔ごと。
皮ごと食べられる優れもの。
「ご馳走様」をして、店内を見回ると、新製品が。
思い返せば一年前の10月、墓参りがてらK子さんとやってきた奄美。
それから間もなく移住することになるとは、あの時は夢にも思わなかった。
あの時、もう一度行きたかった場所も訪れ、泊まりたかった宿にも泊まり、それらを作っている生産者さんとも今では顔なじみになった。
残念ながら、美味しいホットドッグのパン屋さんの店舗は無くなっていたけれど。
あの時購入して感動した味わいの、≪ましゅレモンドレッシング≫と同じ形のボトルに入ったレモンシロップ。美味しそうなレモンジャムも。
どちらも数量限定らしい。
実は宇検村ではレモンが育っているのだ。
電子決済ができる場所がどこにもない村、宇検村。
一日も早く取り組まねばならない課題。
10か月も放置してきた無能な地域おこしの人。
呼ばれた人しか来られない場所と言われる場所ならば、
帰っていいよと神様から言われるまでは頑張ろう。
嫌な奴はどこにでもいる。
けれど、優しい人たちで溢れた場所を見つけるのはとても難しい。
帰っていいかどうかを判断するのは、私たち人間ではない。そう思う日々。
そう思いながらの仕事終わり、ここで働ける幸せを感じながらも、副業との兼ね合いで休みがなくなっていた身体は限界を迎えかけていた。
お腹いっぱい食べると、すぐさま寝る姿勢を取り、7時前に電気を消す。
そうして横になった途端、今日がお花のレッスン日だったことを思い出す。台風のせいでずれた日程。
行くべきか、休みの電話を入れるべきか……。
悩んだ時の、私の答えを導く方法はいつも同じ。
楽しいと思う方へ。
そうして、重い身体をなんとか起こし、再び車を走らせてレッスン場(講座室)へ。
夏真っ盛りの頃と違って、辺りは真っ暗。
そうして、たどり着いた建物の裏玄関(いつもの入り口)は、ドアが閉まっていた。辺りは真っ暗。
先生から電話が入り、「若い人が走って鍵開けてくれます~?」との言葉。
柔らかくて品のある物腰に、有無を言わさぬ断れない感。
いや、私若くありませんがと思いながら、重い身体を動かす。
正面玄関に車を回して、暗闇の廊下を恐る恐る歩き、なんとか裏口を開けると、外で待っていた柔らかい優しい表情の方たちが入ってきた。
怯える心も、疲れた心も、その瞬間、その笑顔に癒される。
楽しそうな笑い声。
まさか閉まってるとはねぇ!誰よ閉めたの~!と談笑しながら準備を始めるけれど、レッスン時間はとうに過ぎている。
この、予定時間など、あってない感じが好き。
ぎすぎすしていない緩さが好き。
日本的じゃない、海外にいるような南国感が好き。
毎回、使うシマの花材。ここにも鮮やかなライムグリーンが。
まだ蒸し暑い夏の終わり、目の覚めるようなライムポトス。
ヤマト(内地)ではありえないような価格でレッスンをする先生。
シマでの慣習に関する話を聞いていると、あっという間に深夜になった。
日常の些細な話題に心が和む。
ゆるゆるした時間に、ほんわかした話言葉。
今でも時々聞き取れないのだけれど。
レッスンしながら、月の暦で自然と共に生きていく大切さを語る人たち。
来年はお月見団子を三方に載せてススキを飾って楽しみましょうね。
お月見は、神様へ実りの感謝をする日ですよ。
そう言われ、これまでそんな時間を持ってきたことのない自分に気づいた。
相変わらず、全然うまくならない生け花だけれど。
先生が生け込んだ現代風の自由花はとても個性的。
季節を先取る秋の花材。シマの夏は終わりですよと教えてくれる。
さっきまで部屋でひとり、
「疲れた」
「やることいっぱいすぎるわ」
「なのに何もしてないと思われてんのかもな」
「もう一年の3/4が終わろうとしているのに成果物がほとんどないしな」
「ああ、レモンシロップいつ買いに行こうかな。まだあるかな……」
と、ふてくされながら寝ようとして悩んでいた心が、ふと軽くなる。
悩んだ時は、楽しいと思える方へ。
優しい人たちと過ごす時間は、大切な宝物。
一年前、移住を悩んでいた私。
予想通り大変なことは沢山あるけれど、辛い事と同じだけ、いやそれ以上に、素晴らしい経験をして、素敵な人たちに囲まれている。
おやつにどうぞと、一緒にレッスンを受けていた方から頂いたみかん。
その種を植えたらどうなるかという話になった。
「あなたが帰る頃には、まだ小さすぎて実っていないわねぇ……」
先生の言葉に2年後の自分を想像する。
2年なんてあっという間。
ガイドが出来なかった2年間を思い返した。
もうひと踏ん張り、年末に向け、地域おこしの活動を頑張ろう。