奄美の美味しいもの-パパイヤの……
奄美大島の冬のとある日の、昼下がり。
あちこちでテレビに出たりしたせいか、村をのんびり歩く観光客の姿も少しずつ増えてきた、奄美の秘境と呼ばれる宇検村。
田検のバス停のガジュマルの前や、
湯湾のがじまる茶屋では撮影する人の姿が増えた気がする。
シマ中に、タンカンで一杯のバイラ―(箱)が山積みの季節。
奄美市内でびっくりする高値で売られているたんかんが、「これで農家さんの利益は大丈夫?」的な価格になっているので、
島内の人、市内からも車で湯湾の市場まで買い求めに来られていたりする。
残念ながら、良い品は先に高く買い取られていたり故郷納税向けに出払っていたりするので市場には主に家庭消費向けの物が並んでいるのだけれど。
それでも農家さん毎に味が違ったりするので、
表示を見ながら「ここのは美味しいよ」などという会話が飛び交っている。
市場にも観光客の姿がちらほら。
それでもやっぱりのどかな村。
アクティブに動くのもいいけれど、何もしないという贅沢を、是非味わってもらいたいと思う。
ただ座って海を見る。
ビーチのベンチに横になって天を仰げば、渡り鳥のサシバが天高く舞い、鳴く声がする季節。
久しぶりに晴れたので、遠くの畑とビーチを見に行こうと思った。
(自分の畑じゃないよ)
奄美の秘境宇検村の中でも、更に車で奥へ進むこと30分。
日中に広い道路を歩いている人はいない。
何故なら動ける人はみんな畑にいるから。
たんかん出荷の最盛期が終わりを迎えようとしている奄美。
疲れ切っている農家さんの邪魔をしては悪いなぁ……と、恐る恐る、
でもしかし、強引に、訪れたひとさまの畑。
それはもう、いろんなものがあって。
自給自足ってこうゆう事ね。と感動する。
それも無農薬だったりするから、野菜の味がして美味しい。
虫さん沢山いるのが難点だけどね。
虫も食べるくらい美味しいってことよ。
ああ家に島バナナの木が欲しい、たんかんの木が欲しい……と、
また思う。
農家さんの奥様は、大概、皆さんお料理がお得意で、訪れると必ず美味しいものをご馳走になる。
何なら、それ目当てで行ってるのではないか?という疑惑もあるくらい。
「お土産に持って帰りなさいね」
そう言って笑顔でいただいたもの。
それは、「青パパイヤ」。
見れは、目の前には沢山のパパイヤの木。
花が咲いているものもあって、これからもどんどんできそうな勢い。
(タイトル写真)
そう、ここでは、パパイヤはどこにでも、普通に生えているもの。
いったいパパイヤの実を丸ごともらってもどうすべきかわからない新参者。地域おこしの先輩が、どうやって調理するか優しく手ほどきしてくれた。
「この白い液体が手に着くとかぶれる人もいるのでまず手袋して。
それから、調理する時は、まず表皮に小さな傷をつけて白い液体を出して。
皮向いて、あとは料理に合わせて好きな大きさにカットして。
人参しりしりみたいに千切りにすれば色々使えるし、冷凍保存もできるし。
干せば乾燥パパイヤもできる……」
いやそれはもう、聞いたことないことだらけ。
こんなこともできる、あんなこともできる、と教えていただいた。
が……その実の大きさに暫し戸惑う新参者。
顔の大きさほどはある。それを、ふたつもいただいた。
大きめの段ボールの中、ふたつころころさせながら自宅に持ち帰る。
そしておきまりの……車の後部座席でしばし放置。
どうしていいかわからない大きな段ボール、他に置く場所がない。
そして、次の朝、通勤しようと乗った車の中で、
後部座席で表面の白い液体が渇いた状態になったパパイヤに再び「遭遇」。
そう思いながら、出勤。そして、再び、放置。
そして夕方、帰宅時間、自宅に帰ろうと乗った車の中で、またもや、こちらを見つめるように
じっとしているパパイヤを確認。
この全く同じルーチーンを2日、繰り返した。
そしていよいよ、明日は「生ごみ出す日」です!となり、突然焦りまくる。
このまま、これを置いておくと、どうなるかは分かっている。
そして3日目、ようやく重い腰を上げた。
狭いキッチンは運び入れられたふたつのパパイヤによって占拠されることになる。
聞いていた通りにゴム手袋を装着し、青々とした表皮を掴み、思い切って皮にナイフで線を入れる。と、出るわ出るわ白い液体。
とか思いながらも、顔に付けることはできなかった。
かぶれるかもと聞いたら怖くて手袋も外せない。
そしてふたつにカットした。
思ったより柔らかくて驚く。
出てきたものは、想像とは違う「白い種」。
つぶつぶ恐怖症(集合体恐怖症?)の方には、見るのも恐ろしいもの。
黄色く完熟したやつには黒い粒粒があるのだけれど。どうやらものが違う様子。
斬った後は、何故か白い液体は出ない。
外の表皮にのみ、つく模様。
とりあえず種を捨てて次にピーラーを取り出し、
緑色部分の皮をそぎ落とす長い作業が始まる。
それが終わったら、次は千切りパパイヤの作成作業。
(もちろんお道具で)
ふたつのパパイヤを剥ききるのに、かかった時間、およそ1時間。
出たごみの量、半端ない。
出来上がった千切りパパイヤは、大きなボウルに山盛り二杯。
下ごしらえで力尽き、とりあえず水に晒してあくを抜き、それをじっと見つめる人。
はたと、調味料だけは持っているということに気が付いた。
そうだ、サラダで良いではないか。
適当に色々混ぜ混ぜしてソースを作る。
メインは黒糖焼酎。
それにナンプラーもスイートチリソースもとりあえず入れる。
色々混ぜたら、なんとなくドレッシングになった。
調味料だけはやたらと持っている。
料理しないくせに。
こうやって出来たパパイヤサラダ。
確か「ソムタム」とか、タイ料理屋さんでは呼ばれていたような。
甘酸っぱく、美味しかった、から良しとしよう。
実際には、ほぼドレッシングの味なんですが。
これは神様からパパイヤダイエットをしろと言われているなと、思わざるを得ない、キッチンに山盛りある千切りパパイヤ。
とりあえず見なかったことにして、一旦寝る。
翌朝、再び見なかったことにして出勤したら、
いろんな人が色々なメニューを教えてくれた。
「給料日前の救世主よねぇ。絶対家にあるもん」
「そうそう、給料日前はパパイヤ取りに行くよね」
「シーチキンの缶詰め混ぜて炒めるだけでいいよ」
「めんつゆと豚肉あれば、すべて解決」
「油揚げ薄く切って炒めても美味しいわよ、甘辛くしてね」
「酢の物もいいわよね~」
「残ったら、漬物よね!」
「味がないから、何にでも合うのよ。
冷蔵庫にあるもの混ぜて炒めれば、
とりあえず一品できるわよ。
ごま油とかとも合うわよ」
……ということで、家に帰ってから再び千切りと格闘した。
驚いたことに、炒めると柔らかくなった。
量も減った。
そしてできあがったのがこちら。
パパイヤと牛肉のコチュジャン炒め、ガーリック風味。
前回はタイだったので、今回は韓国風ということで。
諸先輩方の教え通り、冷蔵庫にあったものをとりあえず混ぜて炒めただけ。
正解かどうかわからないが、とりあえず美味しかった。
というか、パパイヤ半量をがっつり消費出来て、満足。
それでもまだまだあるパパイヤ千切り軍団。
明日は何にしようか、と悩んでみたものの……。
結果、残りは全て冷凍することに。
冷凍したら水分が抜け干したようになるらしい。
次に何ができるかは、お楽しみに。
村にいるインドネシアの留学生(実習生)に聞いたところ、
花が咲かなくなり実もつかなくなった老木の新芽さえも刻んで炒めれば美味しいらしい。
若い木ではだめらしい。
「そういう木、村で見たことある?」
と聞いたところ、
「分からないし、お母さんが作ってたから作り方も知らないよ。
でも、すごく美味しいんだよ!」というお返事と共に笑顔で写真を見せてくれた「パパイヤの新芽の炒め物」。
めっちゃ美味しそうなのに……作れないではないか。
……何故話す。
それでもパパイヤの木だけは「欲しい」とはならないのは何故か。
理由はひとつ。
「調理しないと食べられないから」
(熟すまで待てない)
試行錯誤は続く。