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奄美の風は冬色

奄美大島に冬が来た。
とんでもなく寒い。

コタツが恋しい。
いや、絶対にテーブル式コタツを通販で買うぞと心に決めている。

去年の今頃、移住をしようか迷って訪れた時には、
「あったか~い!」とK子さんと話していたはずなのに。
暖かさに慣れきった身体には、18度はもう極寒。

「これからもっと寒くなるよ」の言葉に怯える移住1年目の初心者。
常夏の島ではなかったのか?

ゴールデンウィークの梅雨時と同様に、
青い海、青い空を期待して訪れてはいけない季節がまたやってきた。
そう、オフシーズンである。

農家さんのところのタンカンはまだ黄色い。
これが大きく育ってほどよく色づく頃が、ようやく冬が終わる前のサイン。

まだまだ黄色。目の覚めるようなオレンジ色になるまでまだ数か月。

≪津之輝≫という品種はもうそろそろ終わりかけている。
恐らく、だけど、都会では手に入らないのでは?と思う。
その酸味と甘みのバランスが、タンカンを凌ぐ美味しさだと言われているのだけど。

僅かな晴れ間に収穫のお手伝い

ちょっとだけ収穫をお手伝いしたら、出荷できない不ぞろい品をどうぞと、お手伝いした分の何倍ものおすそ分けを頂いた。
それをまたみんなで分け合う。

「〇〇が手に入った」
「▽▽さんの所の親戚が来ているよ」
「✕✕たくさん採れたよ」
「▲▲をたくさん作ったんだけど」
 
そんな言葉を聞いて、そこに自然に集まってくる人々。そして始まる宴。
けれど、以前ほどには回数も、集まる人も多くないという。
感染症禍、ここの人々はどれほど我慢していたのだろうかと感じてしまう。
忘年会も、まだまだ控える動きもある。
 
少しずつ戻る日常に、ほっとしたり、いやまだまだ警戒せねばと身を引き締めたり。
 
そんな中で、無謀にも、「フリーマーケットをやりましょう!」ということになった。いや、自ら仕掛けてしまった。
 
来たばかりの新参者、この10か月間、村の人々と話をしたり、農家のお手伝いをしたりしながら、ようやく悩み事や夢を話してもらえるようになった。
色々なお話をしていくうちに、出来る限り自分たちの力で開こうということで、こじんまりした市を開くことに。
島内各地のFM局に顔を出し宣伝をしたものの、どれくらい人が来てくれるかは、蓋を開けてみなければ分からなかった。

奄美市内のディ!FM。駄菓子屋さん併設で駄菓子がいっぱい。お世話になりました。
中央部分(4行目)の文章が、秀逸です。

放送でマイクを前にして語るうちに気づく、このシマへの想い。
助けてくれた人々への想い。

何年も続く市になりますように。
誰かの使わなくなった物が、誰かの宝物になりますように。
生産者さんが野菜を廃棄せずに済みますように。
そんな思いで始めたマーケット。
 
「利益が出なくてもとりあえずやってみましょうよ。手伝いますよ」
と、遠く市内からキッチンカーを走らせてくれた人たち。

「とにかく楽しみましょう! やりたい人だけで楽しんだ方がいいです!」
そう言ってくれた、同じ移住者という立場の人たち。

「今ある店舗が集落から遠すぎて、車が無いから野菜を出しに行けない」と、がっかりされていた人たち。

新参者の声を聞いて、「あの子を手伝ってあげようよ!」と言ってくれた、沢山の人たち。

そんな人たちが、自然発生的に集まってできたマーケット。
 
「虫が食った野菜だから店舗には出せない」と、がっかりされていたおばあの野菜は、2時間で完売した。そのみずみずしさは、一目でわかる。
 
スーパーに小奇麗に並んでいる野菜と違って、虫食いだらけの葉っぱ。
不揃いなかたち。
でも、それは、ここのおばあたちが、小さな種や苗から毎日毎日見守りながら育てたもの。

この村の、綺麗な土と、澄んだ水から産まれたもの。
美味しくない訳がない。
不揃いで葉っぱをかじられた野菜は、売切れる前に手に入れて、家に帰って早速浅漬けにした。
 
「葉っぱをカットしていいから、既存店舗にも出してくださいね」
その言葉に、売上金を受け取りながら野菜を育ててくれた人は、嬉しそうにほほ笑んだ。
実際は虫さんたちに食べ荒らされている葉っぱもすごく美味しいのだけど。

開始時間の1時間後でも、まだまだ出店受付中のゆるゆるさ。

当日は、相変わらずの晴れ女パワーを発揮し、前日までの土砂降りの雨も、冬空も吹き飛ばす快晴。

9時開催だけど、10時過ぎからゆるゆる集まる人たち。
島時間がゆっくり流れる。

そして14時には売り切って帰る人々。
暑すぎて、かき氷が売れまくっていた。

反省点は、人の流れがうまく動かなかったこと。
感染症を気にして、店舗と店舗の間をあけすぎてしまった。

初マーケットで、励ましつつの辛口コメントもいただき、勉強もできた。

実は、ほんのつい先月まで、自分が身を置く環境にずっと愚痴ばかり言っていた。記事の更新が出来なかったのも、愚痴を連ねそうだったから。

インバウンド対応の仕事がしたくてここまで来たのにと、
腐りきっていた心にも太陽が射した。
 
観光の仕事もないのに何故呼んだのか?と、不思議だった。
民間じゃ考えられないんですけど?と、そのやり方にも逐一呆れていた。
上から目線の押し付けである。

地域おこしの補助金狙いなの?と疑問さえ浮かんでいた。
インバウンド観光、馬鹿にしすぎでしょ?本当にやる気あるの?
とまで思っていた。

けれど、ある人の言葉で、目からうろこが落ちた。

「そんな状況でも、呼んでくれるなんて、有難いねぇ」と。

もしかしたら、一緒にやるつもりがないのではなく、
何かをやってくれるかもと期待してくれていたのかもしれない。

何もしてくれないと自分が相手に思っていたように、
むこうもそう思っていたのかもしれない。

「とうとがなし」

ここの人たちは、朝に夕にこの言葉を口にする。
勿体ないことです。
有難いことです。そんな意味なのだと思う。

「尊々加那志」と書くのだという。
自分よりもまず相手を想い尊ぶ心のことを言うらしい。

歩き疲れたおじいに、「ここ座ってください」と、椅子を出すだけで、
「とうとがなし」と言われ、お辞儀をされてから腰かけられる。

一番忘れてはいけない心を、この9か月、愚痴ばかり言うことで忘れていた自分に気が付けた。

「とうとがなし」

集まってくれた仲間と、諸先輩たち。
愚痴を黙って聞き流してくれた人たち。
本当は、腹を立てていたかもしれないのに、協力してくれた人たち。
来ていただけたお客様と、この村の全てに心からそう思えた。

そうして、休みなく働き続けた11月が終わり、すっかり冬空になった奄美。
久々の平日のお休みに、ずっと放置していた歯の治療のため市内に出てみると、先月応援してくれたキッチンカーが停まっていた。

先日の御礼を伝えると「こちらこそ楽しかったです」と笑顔が帰って来た。
「とうとがなし」と、心で呟く。

当日食べることが叶わなかったタコライスを念願かなって注文。
「みなさんのアンケート回答での応援のおかげで、2月にまた開催します!
また来てもらいたいです!」そう伝えると、
「これまで行ったことの無い所で知らない人と出会えてとても嬉しかった。
是非また行きたいです!」と答えが帰って来た。

とうとがなし。

何度も呟いた心の声

数か月前まで、会ったことも無かった人たちの輪が、SNSというツールで繋がった。
今までその人たちが知らなかったという宇検村で、人と人が繋がって行く。

そして、とりあえず楽しもうとやってみたフリーマーケットには、
この小さな村で、わずかな時間に200名を超えるお客様に来ていただいた。

それでも宣伝不足と言われたので、これからはもっと声掛けをしなければ。そう思った。ここでは、新聞のチラシが最も効果的らしい。
SNSも、ラジオも、届かない人の方が圧倒的に多い場所。

清々しい思いで、市内から車で10分ほどの大浜海浜公園で食べようと、
意気込んだのだけれど……。

冬空のもとでランチ、のはずが……。

空はすっかり冬色、寒すぎて外では食べられなかった。

宇検村に戻って、温め直そう。
そう思って振り返った砂浜の上には、観光客がぽつりぽつり。

先月のように泳いでいる人は流石にもういない。
空は鈍いグレー。

もうすっかり冬の景色だった。
冬の楽しみ方を、これから探しに行こう。


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