奄美の梅雨、台風2号:MAWAR(マーワー)がやって来た
今年4月の台風1号、名前はSanvu(サンヴ―)。
「珊瑚」という意味だったらしい。
台風2号の名前は、Mawar(マーワー)。
マレー語で「薔薇」、だとか。
どっちの漢字も、さらりと書けない文字認定。
どっちの台風も、美しい名前なのが謎。
それにしても、今年の台風は随分早いような気がするのは気のせいか。
さすがに昨日は、海の便空の便とも全便欠航していのだけれど。
今日は機材繰りができないエリアを除き、かなりのフライトが戻った模様。
こんなことを言っていられるのも、被害が無かったおかげ。
けれど他の地域で梅雨前線の停滞で豪雨になっている地域が広いと聞いて、複雑な気持ちになる。
特に海外から来ている個人観光客の方は、アナウンスが全部日本語のため、さぞ心配だろうなと思ってしまう職業病。
こういう時、添乗員付きのツアーに参加の観光客は、その不安と怒りを添乗員にぶつけがちなんだけど、頼りにできるのはその人だけだと分かっているからこその所業。
通訳案内士としての仕事を始める直前、インバウンド観光客が爆撃増加中の大阪で、大阪メトロのインフォメーションをお手伝いしていたのだけれど、電車が停まるというアナウンスが聞き取れない不安そうな顔のインバウンド観光客が窓口に押し寄せて、その説明に明け暮れていたことを思い出した。
「何故、百貨店がお昼から閉まるの?」
「台風が近づいております。列車が止まりますので、一刻も早くホテルにお戻りください」
不安を感じさせない笑顔で答えるインフォメーションスタッフ。
「何故、皆急いでいるの?」
「台風が近づいております。列車が止まりますので、一刻も早くホテルにお戻りください」(With やわらかい笑顔)
「いったい何が起こっているの?」
「なぜみんな険しい顔なの?」
「私たちはどうすれば良いの? 食事が付いてないツアーなのよ」
「台風が近づいております。列車が止まりますので、一刻も早くホテルにお戻りください。コンビニも閉まる可能性がございます。軽食や飲み物など、とにかく何か調達しておいてください」(若干口角下がり気味の笑み)
「観光できるところはありますか?……」
「台風が近づいております。全ての施設が午前中には閉館いたします。列車が止まります。一刻も早くホテルにお戻りください」(ほぼ無表情)
繰り返す同じ質問に、同僚4名とカウンターの中と外を走り回り、お客様の不安を取り除くべく案内を続けていた、あの頃。
そのインフォメーションも、この3年の間に閉鎖されたようだけれど。
あの時の同僚は、今どうしているだろうか。
そう、関西空港の連絡橋に大型タンカーが激突したあの年、とんでもない規模の台風に襲われていた大阪。多くの人が、あの島に取り残された。
あの経験が2025万博への備えになるといいなと思わずにはいられない。
あの時の観光客のように、シマ初心者の私は、あらゆる人に聞いて回った。
「台風が来る前に何を準備すればよいですか?」
あの人たちの気持ちが今ようやくわかる。
とにかく安心したいという気持ち。
「日持ちのする食料を買いだめしなさい」
「まずはパンと、カップラーメンかな」
「懐中電灯は必須よ」
「あと、乾電池もね」
「冷凍食品は、停電したら全部溶けるかもよ」
「雨戸はついてる? 閉めなきゃだめだよ」
「飛びそうなものは、家の中に入れておいてね」
「洗濯物溜めないように洗っておいた方が良いよ」
「とにかく、外に出ないことだね」
「海が近いと、車が潮でやられるからね、気を付けて」
そんな風に脅されて(いや、心配されて)、安心できるわけなどない。
「今回は、かなり危ないかもね」
そう言われていたこともあって、1週間前から準備した小心者。
前回、「珊瑚」台風の失敗から学び、まずは食料を確保。
食料を積んだ船は、次にいつやって来るか分からない……らしい。
郵便物も来なくなる。
停電に備えて、乾電池を確保。
非常用ラジオも役場に買いに行った。
これで村内のアナウンスが聞けるらしい。
案の定、二日前にはスーパーの棚からパンや乾麺が消えていた。
備えあれば患いなし。
帰宅時には、村の長老(副村長さん)が優しい笑顔で、
「もう大丈夫そうだから、安心だね」
と仰っていたこともあり、ドキドキも軽減はしていたのだけれど。
いつも鳴いているクッカル(アカショウビン)の声が聞こえない。
夜に鳴く、梟の声もしない。
ケケケといつも笑っているヤモリ君よ、どこへ行った???
引っ越してきてはじめてシャッターを閉めた小心者。
電源を繋いだラジオからは、台風情報が聞こえていた。
はじめてクリアに聞こえた村内アナウンス。
湾にたなびく風でいつもよく聞こえていなかった。
結局、大ごとにはならずに、奄美から離れていった台風。
島が山がちであることが、風を遮り、幸い。
数日間緊張して眠れていなかったせいか、あれほど怖がっていたくせに爆睡する。目覚めてシャッターを開けると、空には青空が広がっていた。
畑が台風でやられてしまわないか心配で前日電話をかけていた農家の方から早朝に電話を受け、早速現地を見に行くことに。
「こっちは全然大丈夫だったよ。北東からの風には強いからね」
そんなことを言いながら、畑を見せてくださった農家のオーナーさん。
畑には、たわわに実るパッションフルーツが。
実のひとつひとつに袋をかける手間。想像しただけで倒れそう。
「秋は袋掛けから手伝いますね」の言葉に、「それより、受粉から手伝ってもらえる方が有難いね」とのお返事。
この可愛い実たちが、大きく育つのを楽しみに待っている人がいる。
ふるさと納税としても人気の商品。
沢山の人に喜んでもらえる仕事をする喜び。
ここの方たちは、心が豊かで余裕があるように見えるのは、なぜだろう。
都会と比べれば、圧倒的に不便なのに、何倍も豊かに見えるのは何故?
「スモモ持って帰るかい?」
そう言いながら訪れた別の畑。たわわに実るスモモ。
隣には、バナナ。
その隣には、パパイヤ。
「ほっといたら勝手にできるんだよ」
……ということらしい。
畑チェックを終えて、お茶の時間にお邪魔したお宅には、いい香りの花が。プルメリアではないか!?
お茶を頂きながら、今日放送予定だったラジオのことを思い出した愚か者。
畑仕事で汗だくですっかり忘れていた。皆さんと一緒に聞こうと思っていたのに。
一緒に聞いてみませんか?の問いかけ前に、盛り上がり始めた野球放送に負ける新参者。そう、地方ではどこも圧倒的にジャイアンツファンが多い。
ラジオを聞いてくださっている視聴者さんへのプレゼントにしたいと、前々から相談していたのだけれど。
「生産者さんの写真付きで送りませんか?」との提案に「恥ずかしいよ」とのお返事。
「なぜ選手たちのユニフォームから背番号上の名前がなくなったのか」で盛り上がる人々を後にして「また来ますね」と立ち去った。
帰り際、いつも通り、労働時間以上分のお土産を山盛り頂く。
「今日は、ご飯作らなくていいわよ」と料理上手の奥様がほほ笑む。
映画みたいな穏やかな一日がゆっくり過ぎ去っていく。
あの台風の怖さがすっかり消えた午後。
頻繁に行くのだから、今度聞いてもらおう。
収穫まで、あと3週間あるのだから。
毎日あの畑を見守っている農家さんに頭が下がる思い。
そして、家に戻ってラジオを聞きながら、頂いたお料理をオープン!
この島で、料理が上手になる気が一向にしないのは、料理が上手な人が山のようにいるせいです。はい。
黒米ご飯の炊き方を間違え、ここ一週間ずっと「真っ黒おにぎり」を食べ続けていた私。
その話を聞いた奥様、「炊き立てご飯」まで包んでくれている。
もう、甘やかしすぎなんだから。
奄美の梅雨はまだまだ続くけれど、明日までが「梅雨の晴れ間」らしい。
長い長い梅雨の間の、僅かな晴れ間の一日。
さて、明日はどこへ行こうか。