『私が好きなあなたの匂い』 長谷部千彩×中島敏子 「香水、目に見えないものを書くということ」
※「ハニカムブログ 」2017年6月25日記事より転載
蟹座の新月。
長谷部千彩さんとGINZA編集長中島敏子さんのトークイヴェント「香水、目に見えないものを書くということ」に参加するため下北沢のB&Bへ。
初めてみる長谷部千彩さん。(中島さん曰く「こうして人前でお話しするのは相当にレア!」とのこと)
美しい文章に違わぬ美しい方、そして文章から受ける印象よりもずっとずっと可憐で、まるで小さな花が囁いているような、涼やかで彩りのある声の持ち主。
今回刊行された「私が好きなあなたの匂い」は実在する香水をモチーフにした36のショートストーリー集。
香りを言葉にしていく作業をするために、何日かその香りをつけながら登場人物のイメージを膨らませていったそう。
「香りが行き交うさまがブランコのようだ」というインスピレーションから、ブランコを乗りにいったりもしたというチャーミングなエピソードも。
そうやって編まれた短編はどれも芳醇な香り立ちで、でもさっぱりしていたり、濃度が濃かったり。
本を片手に香水売り場で嗅ぎ比べをしたくなってしまう。
そんな気持ちを察してか、当日の会場には千彩さん愛用の香水が並び、小説に登場する香りをいくつかムエットで嗅がせてもらったり、自分の持ち物にシュッと一ふきして「香りをお土産に」という嬉しい企画もありました。
香りの好みは、刻々と変わるもの。
日々、そんな自分の移ろう気分に合わせて、気の向くままに香りを選ぶ。
気持ちを後押しをしてくれたり、落ち着かせてくれたり。
「有閑マドモワゼル」を執筆していた時は、ずっと同じ香りをつけて気持ちをそこに向けるようにしていたそう。
こんな風に「自分に何かテーマがある時は、その香りを味方につけて気持ちを切り替える」という方法...。
セラピーのセッションの時にはご提案していたにも関わらず、肝心の自分には実践してなかった!ということにハッとして、すぐに香水売り場に走り出したい気持ちに(笑)
香水を、香りを纏うということをこよなく愛しているのがよく伝わる一方、
「でも、育てている花の香りが匂いたつ季節は香水はつけない。」
とおっしゃっていたのが印象的でした。
ご自身の粒子の細かい感性のクリアさを保つために、体内に何を取り入れるか、取り入れないか。
揺るぎない世界観に基づいたフィルターで、ちゃんと濾過している。
「本質を知る人」ってこういうことなんだろうな、と思った。
ちょうど数日前、作家の田口ランディさんのツイートを見ていたら「情報が体に侵入するから、想念の感染予防が必要」というようなことが書いてあり、五感から情報がなだれ込んでくるこの世界で、何を見ようとするのか自分で決めることは本当に大事だなと、思っていたところ。
「無自覚に他人に見せられているものが世界ではない」
「心の窓は見たい景色しか見えない。そのことに気づくと人生は一瞬で変わる。何を見るのか、決めてしまえば、その方向に進むから。」(田口ランディさんの twitterより引用)
自分の領域を自覚し、そこに入る情報のどれを見ながら生きるのかを決める。
そうやって誰もが持っているはずの繊細な感受性を凝縮させて、そこから創造されたものは、まるで植物から精油を採取したように、濃度が高く様々な薬効や香りを含むものになるのではないかな。
そんなことに気づいた翌朝。
起きてすぐに「わたしが好きなあなたの匂い」の中のいくつかの短編を読み進めてみた後に日常を始めると、雨音や水がコップに注ぐ音、道路を走る車の水しぶきの音、台所の蛍光灯の光すらすべて美しく感じる。
どうやら、美しいものも感染するらしい!
「透明度が高い」「粒子が細かい」そういうものや、人に触れれば触れるほど、どんなヒーリングよりも自分がクリアになっていく。
だから、本当はセラピーじゃなくてもいいんだよなぁとシミジミ思ってしまった(笑)
とはいえ、セラピーを生業にしている以上は、まずは自分を透明度高く、粒子細かい状態に保って、それを循環させていけたら。
自分が何を見るか迷ったときは、いつもここに立ちもどろう。
■ 小松ゆり子 official web site
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