ささはら
箱に入っていた彼女の髪は早緑色だった。彼女に生えていたであろう根元の方を紺の糸できつく縛られていた。
「ちいさい頃は、クリームみたいな、ほとんど白の金髪だったの」彼女は言った。今の髪は濡れたような黒だった。
「毎年、春になって、道の木の葉がでる頃になると、毛先から私も色づいて」風が吹いて箱の中の髪の表面の方だけがなびく。目線は箱。
「夏になる頃には全てが葉色になったわ」
「わたしが、一番景色が鮮やかに変わる、そのころが毎年、一番すきだったから」
「そういう、信じられないようなことが起こっていたのよ」
純粋に世界をすきな力が引き起こす、これから先、もう起こりえないこと。
「なぜ」と問うた。なぜ今は、と。
「それはもう、全てが変わらないくらいにすきになったから」彼女から世界に向ける方向の力は、彼女の仕方も変える。彼女はすき、と言うとき、きゅっとわらう。各方向に向かう笑み。
そういう信じられないことが起こるのがここであって、それが日常であるのもここだから。