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サボテン白夜①

未発表の短編小説を、先んじて定期購読限定で投稿しています。400字詰め原稿用紙15枚の分量です。内容のSNSへのシェアはお控え頂けますと幸いです。

 第一の視点ー春道の場合

 もう、まる三日の間、夜がきていなかった。春道(はるみち)は、棚の上に置かれた乳白色の鉢植えにもっこりと育つサボテンの棘を眺めながら、今夜も続いている白夜のことについて考えていた。春道はいつも、サボテンを眺めているとみんなが元々はひとりであるということを実感した。広大な砂漠に、ぽつぽつと離れて生活している緑色の塊を想像するのだった。
 突然に日本に現れた白夜の現象について、ニュースで流れる科学的な説明を幾度きいても、春道の元々知っていた白夜の現象とは仕組みが違うということ以外、春道にとっては分かったような分からないような印象を深めていくばかりだった。
 そう、何はともあれ、この三日間、夜がきていないのだ。大事なことはそのことだった。大半の人にとって、自然現象が起こる科学的で構造的な云々ということよりも、毎日の生活のことが重要だった。それは春道にとっても例外ではなかった。
 暗闇が訪れるはずの時間になっても、世界がうっすらと青白く明るい。まるでそれは、太陽が地平線に現れ始めたくらいの明け方に、うっすらと世界に霧がかかったような印象だった。
 世界から夜が消えようが、春道の生活に大した変化は起こらなかった。初日こそ太陽光が輝き続けているせいかうまく寝付けなかったが、三日も経つと目新しさも薄れてきて、特に自分からそのことについて調べてみようとも思わなくなっていた。春道にとって、どんな環境に置かれようとも毎日を豊かに生きていくことの方が大切なことだった。

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