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伊坂幸太郎『ペッパーズ・ゴースト』|伊坂幸太郎らしさてんこ盛りのエンタメ作品
伊坂幸太郎、作家生活20周年超えの集大成として発売された『ペッパーズ・ゴースト』(2021)が遂に文庫化されました。
やったー!!!(と言いつつ、感想のタイミング遅い)
皆さまは伊坂幸太郎の小説のどこが好きですか?
超能力とか不思議な現象が起こってもファンタジー過ぎないところ?
会話が軽妙で独特なところ?
多数の登場人物の視点で描かれるところ?
伏線いっぱいなところ?
悪役も何とも言えない魅力があるところ?
はい、大丈夫です。
こちら全部入ってます!
お待たせしました、こちら伊坂幸太郎てんこ盛り『ペッパーズ・ゴースト』です。
あらすじはこちら。
中学教師の檀は、猫を愛する妙な二人組の小説原稿を生徒から渡される。さらに他人の未来を観る力を持つことから謎の集団とも関わり始め……。苦い過去を乗り越えて檀先生は、世界を、自分を救えるのか!?
ロシアンブルーーーー!!!!!!!!
と叫びました。
※いきなりラストの内容に一部触れますので、未読の方はとりあえず1度読んでから戻ってきてください。
皆さま、叫びましたよね?
ロシアンブルーーーーー!!!!!!!
おい、お前金でヤバいこと色々やってんのに、
人の命とか気にしてなさそうなのに、
何でお前がコイツを助けてんだよ!
お前はコイツを痛めつけたかっただけだろう?
それでお前が撃たれるってどういうことだよ!
しかも撃ってきた奴のことも気に食わないし、なんであんなよくわからん、いけ好かない野郎にロシアンブルが撃たれなきゃいけなんだよ!!!!!!!
と、もはや半泣き。
伊坂先生の小説って、疾走感とユーモアのある文章で、割と酷い状況が書かれていてもどんどん読んでしまうんですけど、重要人物(読んでるこっちはもうその人のこと大好きになってるような人)がスルっと死んじゃったりするじゃないですか。
ハッピーエンドのものももろちんありますけど、みんな全力で幸せハッピー!って感じじゃなくて、悲しい結末だけど希望や優しさを感じさせるラストも多い印象。
あとは、殺し屋とか銀行強盗とか「悪役」をあくまで普通の人間として描いてるんで、なんとなく怖いと思いつつもそういう奴が魅力的に見えてしまう力があります。
でももちろん肯定しているわけではないので、その仕事を辞めようとしていても、いかにその人が本当はとても優しい心を持っているとしても、幸福な結末は待っていないこともあります。
そんなこれまでを思い出し、読んでいる途中から沸々と嫌な予感がしていました。
なんか、誰か死んだり、絶望的な展開になったりするじゃないか……
怖いけど、面白くてページをめくる手が止まらない。それが伊坂幸太郎の小説の魅力です。
そう、今回も魅力的だった「悪役」アメショーとロシアンブル。
彼らは、物語の主人公である壇先生の生徒である女子生徒が書いた物語に登場する「ネコジゴハンター」の2人組で、過去に猫を虐待した人間たちに、猫に代わって復讐をしています。
「ネコジゴ」とは、過去に「猫を地獄に送る会」と称して猫を虐待し、その様をSNSにアップしていた卑劣な集団の通称。(趣味悪過ぎて気持ち悪い……!)
そのネコジゴたちに制裁を加えて回るのがネコジゴハンターの2人、アメショーとロシアンブルというわけです。
「ネコジゴハンター」なんてオブラートに包みまくって言ってますけど、要は殺し屋です。虐待された猫と同じ目に合わせて殺害して回っています。
虐待された猫と同じ方法で殺すなんて狂気の沙汰。やってることめちゃくちゃだし、普通ならただただ怖いだけなんですけど、この2人が不思議なことにめちゃくちゃ魅力的です。
楽観的な性格のアメショーと、
悲観的な性格のロシアンブル。
野球好きで東北イーグルスを応援していたり、ロシアンブルは「もう終わりだ」が口癖でアメショーに呆れられていたりと、殺し屋と思えないくらいに普通の、というよりポップな印象すらあります。
こちら、壇先生の生徒である不藤鞠子という少女が書いている自作小説に出てくるわけですが、「この子天才!!!」ってなりますよね。中学生でこんな面白い小説書いてきたら天才ですよ!なんつーユーモアと個性的な登場人物だよ!と鞠子に嫉妬しました。
アメショーとロシアンブル、本筋に出てきて欲しかったな……
と思いませんでした?
なんか2人のことが気になって、小説の登場人物じゃなきゃよかったのになぁ……
なんて思っていたら、
まさかの、アメショーとロシアンブルが壇先生の前に登場。
……え?
出てきました!出てきましたよ!
アメショーとロシアンブルが小説の中から現実の世界に出てきました!!!!!
アメショー、ロシアンブル、お前たちちゃんと生きてたのかーーーー涙!!!!
という謎の歓喜。
ペッパーズ・ゴースト、という言葉を知っていれば少しは予想できたりもするのでしょうか?
劇場や映像の技術のひとつで、照明とガラスを使い、別の場所に存在する物を観客の前に映し出す手法のことらしいです。
アメショーとロシアンブルが生きていたなんて嬉しすぎ。
殺し屋だけど、それは猫に虐待した人間を狙っているだけだし、私は猫に虐待をしたこともSNSでそういう発言をしたこともないから、アメショーとロシアンブルに命を狙われる理由もない。うん、大丈夫。
アメショーとロシアンブルが現実世界に登場してから物語は加速していきますが、先ほど申し上げた通り、私は徐々に嫌な予感がしてきました。
壇先生が観た〈先行上演〉を防ぐためにはやはりそれに代わる大きな犠牲が出るのでは……
アメショーやロシアンブル好きだけど、世間的に見たら殺し屋だし、このまま平和に終わるとも思えない……
サークルメンバーの犠牲が重いし、
それよりメンバー以外の巻き添えが重すぎるし、
怒りで冷静じゃなくなってる野口がやばいし、
そんなことよりマイク育馬に超絶ムカついてるからコイツはどうなっても構わないけど、こういつ奴ってなんか死なないんだよな……
って思ってたらあれですよ。
ロシアンブルーーーーーー!!!!!
(3回目)
何でお前がコイツのこと守ってんだよ!!!
お前後でどうせコイツのこと殺すんだろ?!!!
ロシアンブル、お前が死んだらアメショーが悲しむだろうが!
残りの「ネコジゴ」どうすんだよ!
まだまだ殺さなきゃいけない奴いるだろーーーー涙!!!!
もはや自分がどの立場なのかもわからない状況で悲しみに暮れていたところで、最後にあの〈先行上映〉。
……ロシアンブルーーーーーー涙!!!!!
(本日4回目)
そしてアメショーーーー涙!!!!
またどこかで会えるのを楽しみにしてるぞ、アメショーとロシアンブル。
ネコジゴハンターもほどほどにね。
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伊坂幸太郎先生、作家生活20周年超(あれ、もう25年?)、おめでとうございます!!!!
ずっとずっと大好きです!!!
おしまい。
なんと『ペッパーズ・ゴースト』にはあの、『ガソリン生活』の緑のデミオっぽい車が出てきます。
あの子が慌ててワイパーを動かしちゃったと思うとめちゃくちゃかわいい……!
元気そうでよかったです。