Kickstarterのボードゲームプロジェクトと「ストレッチゴール」の考え方
Kickstarterを使った日本発のボードゲームのプロジェクトが増えています。
支援者として新しいゲームを発見し、クリエイターと直接関わることができるこのプラットフォームは、ゲーム業界に新しい風を吹き込んでいます。
プロジェクトのページを見ていると、よく目にするのが「ストレッチゴール(追加目標)」です。最初に設定された目標金額を超え、さらに支援が増えることで追加のコンテンツや要素がアンロックされる、というものです。
ストレッチゴールはプロジェクトを魅力的に見せ、支援者の「応援したい」という気持ちを刺激するための仕掛けと言えるでしょう。
しかし、ボードゲームを制作する立場としては、ストレッチゴールとして設定される「新しいコンポーネント」については、少し疑問に思うことがあります。
ストレッチゴールの「新しいコンポーネント」には2種類ある?
まず、新しいコンポーネントのストレッチゴールには大きく分けて2つのパターンがあるように思います。
1つは既存のコンポーネントを物理的にアップグレードするものです。
たとえば、プラスチック製のコマを木製に変更したり、カードの厚さを増して耐久性を高めたり、イラストを豪華にするなど、ゲームの外見や品質を高めるための変更です。これらはゲームプレイ自体には影響を与えませんが、見た目や触ったときの満足感が向上しますよね。
このタイプのストレッチゴールは非常に自然なものだと思います。
なぜなら、支援者にとっても「せっかく手に入れるなら少しでも良いものが欲しい」と思うのは当然のことですし、制作者としてもコストを理由に初期の段階で全ての要素を盛り込むのが難しいため、一定以上の支援が得られたら品質を向上させるのは理にかなっています。
もう1つのパターンは、新しいルールや要素を伴う拡張セットです。
これは、ストレッチゴールが達成されると新しいキャラクターやシナリオ、特別なカードが追加され、ゲームの内容そのものが変わることを指します。つまり、プレイ体験に直接影響を与える新しい要素が追加されるのです。
「拡張ルールのストレッチゴール」ってどうなの?
私はこの2つ目のパターンについて、少し疑問を感じることがあります。
たとえば、もしプロジェクトの開始時点で「新しいキャラクターや追加シナリオ」をすでに考えているのならば、最初から基本セットに含めた方が良いのでは?と思うのです。もしくは、拡張ルールを独立した別売りパッケージとして設定し、ストレッチゴールを達成したら無料でつける、という形式も考えられるのではないでしょうか。
プロジェクト開始の段階でゲームの基本構造が固まっていることを前提とするならば、ストレッチゴールによって急に新しいルールが追加されると、本当にゲームのバランスは大丈夫なのかと、少し心配になってしまうのです。
急ごしらえでバランスが破綻していたり、拡張が加わることで複雑さが増し、テストプレイで評価されたゲーム性が失われてしまうこともあるかもしれません。
そもそも、ストレッチゴールに文句を言う人の多くは支援していない人で、支援している人は今公開されている情報でOKとしている人たちです。
前者はストレッチゴールが設定されたら支援するかといえば、別のプロジェクトに文句を言うことに忙しくてそれどころではないかもしれません。
クリエイターは、どちらの人を大切にすべきでしょうか?
とはいえ、Kickstarterの支援者としては「さらに遊びの幅が広がる」ことに期待して支援する方も多くいるでしょうし、追加のルールやキャラクターがアンロックされるのを楽しみにしているのも事実です。
デジタルコンテンツで解決?
この問題を解決するために、Kickstarterのプラットフォーム側から提案されるデジタルコンテンツの追加という手法はとても良いアイデアだと感じています。
たとえば、PDF形式の追加ルールやイラスト集、ゲームのバックグラウンドストーリーを提供することで、送料も含めた物理的なコストをかけずに拡張要素(価値)を追加できる点は魅力です。技術的に許されるなら、NFTアートなどもよいでしょう。
これなら、急な支援増加にも対応しやすく、支援者も「何か特別なものをもらえた」という満足感を得やすいでしょう。
いずれにせよ、ストレッチゴールの設計はプロジェクトの魅力を左右する重要な要素です。これからも、いろんなストレッチゴールのアイデアやプロジェクトに触れて、支援者としても制作者としても学んでいきたいと思っています。