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【今はまだ絵のない絵本1】「おうちにおひとついかがですか」

文・ふくだやすのり

ここは街。
街中で静かな声で呼びかけるひとがいた。
「おうちにおひとついかがですか」
と彼はいった。

僕はその商人とは思えない声にたちどまってみると
まぼろしのしなをうります、という立札が目に入った。
「おうちにおひとついかがですか」
といいながら、めのまえにひとつ。

ぽんとおかれたものものは
ぬいぐるみで、それは大きくなく
小さい子でもぎゅっとできる大きさだ。
しばらく気付かなかったが
アッという声を立てると僕の記憶がよみがえった。

これはぼくがかつてもっていたぬいぐるみだった。

小さいころ何をするのも一緒で、
片時も離れなかった。
あるとき学校から帰ると
そのぬいぐるみは
どこにもいなくなっていた。
旅に出たのよと母親に言われ、
ずっと泣いていた記憶が鮮明に思い出された。


しばらくぼうっとしていたのだろう、
彼が言ったことを聞き返すと
「おうちにおひとついかがですか」
とまた彼は言った。

次に目の前に置かれたのは
かつてもっていた写真たちだった

一つ一つ手に取ると
また記憶がよみがえってくる

どうやってこれを?
訊くと
わたしは あなたの記憶が見えます
あなたが忘れてしまったものがとくに。
私が売っているものは今あなたが手に取っている写真やぬいぐるみではありません。
思い出です。だからどうかあなたがいた時間と忘れないでください。
といってしまうとかれは徐々に静かに消えていった。

目の前で起きたことにびっくりして、
彼のいた場所をじっと見ながら
僕はそこに立っていた。

彼は何だったのだろうか?

それはわからないが、
時間の経過とともに忘れていった大事なものを
彼は与えてくれたのだった。



最後までお読みいただきありがとうございます。

次回もどうぞお楽しみに!

tottoto編集部 

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