ロックダウン下のイギリスで、ご近所の絆が深まっている その1
3月16日に不要不急の外出を控えるよう促すガイダンス、その一週間後の23日、外出禁止令が出され事実上のロックダウンが始まったイギリス。食料品、医薬品などの生活必需品の購入と、通勤、1日1種類の運動以外の目的では外出が出来なくなった。私は18日からすでに在宅勤務を始めていたので、外出禁止令が出てからもそれほど大きな変化はなく、アパートで一人、引きこもり生活を続けていた。
私のアパートには常駐の管理人さんがいて、不在時に荷物を代わりに受け取ってくれたり、生活の中で困りごとがあると助けてくれたりしていた。そのため各住民と管理人さんの間ではそれぞれ良好な関係を築いていたものの、住民同士の関わりはそれほどなかったように思う。エレベーターや廊下ですれ違って、挨拶をすれば返してくれる人もいるし返さない人もいる、そのぐらいの付き合いだった。アパート全体のFacebookグループがあったので、私も加入していたが、投稿する人はまれだった。クリスマスのイルミネーションが飾り付けられたときに、住民の誰かが管理人さんに感謝の投稿をするくらいのものだった。
ところが、ロックダウンが始まって状況は大きく変わった。感染拡大を避けるため、管理人さんがアパートに常駐しなくなったのだ。すると、アパートのFacebookグループがだんだん活発に動くようになり、住民同士の自発的な助け合いが生まれていった。「家に、使っていないランニングマシーンがあるから、使いたい人に貸し出します」「ドアのカギが開きづらいので、潤滑スプレーを持っている人がいたら貸してください」などの投稿が、飛び交うようになった。
「住民の中に、コロナウイルスの感染が疑われるため自己隔離をしている人がいる」
私が在宅勤務を始めてしばらく経ったある日、不動産会社から「住民の中に、コロナウイルスの感染が疑われるため自己隔離をしている人がいる」と連絡が入った。正直、ちょっとぎょっとしてしまった。何階の住人かはわからないが、エレベーターやドアの手すりなど共有しているものも多いため、少し心配していた。しばらくして、アパートのFacebookに自己隔離をしている住民から投稿があった。そこにはチョコレートやワインなど食料品の写真とともに、『このアパートの〇〇さんと〇〇さんが、私の代わりに食料品の買い出しをしてくれているおかげで、安心して自己隔離生活ができています。ありがとう』という旨の感謝のメッセージが添えられていた。
私は、自分のことだけ心配していた自分を恥じた。自己隔離をしている本人も「自分がコロナウイルスに感染しているかも」と不安に思いながら過ごしているのだ。また、他の住民が買い出しを手伝うことで、万が一その人が感染していた場合にも、地域で感染が広がるのを防ぐことができる。一人ひとりが不安に思いながら、ぎすぎすしながら過ごしているこの時期だからこそ、人にやさしくする、困っている人を助ける心を持とうと思った出来事だった。
1人で暮らす私を、お隣さんが心配してくれている
3月26日から毎週木曜日の20時に、NHS(国民保健サービス)で働く人々に対して感謝の意を表そうと、イギリス各地で人々が自分の家の前に立ち拍手をするようになった。1週目の木曜日は寝過ごしてしまって参加できなかったが、2週目の木曜からは参加することにした。例のFacebookグループにも、ある住人から「先週は、廊下に2メートルずつ距離を空けて立って、拍手をしました。今週もみんなで参加しましょう」という呼びかけがあった。
20時になると、廊下に響く拍手の音が聞こえてきた。部屋の外に出て拍手に参加すると、もちろん全戸ではないものの、何人かの住民が廊下に出て拍手していた。このアパートにNHS関係者が住んでいるのかはわからないが、厳しい状況のなか医療現場で働く人々に対して、国のあちこちで感謝を示す、その活動の一部に参加したことは、あたたかく感動的な体験だった。次第に拍手が収まり、部屋に戻ろうとすると、隣に住んでいる方が、「大丈夫?一人での暮らし、なんとかなっている?困ったことがあったら、いつでも声をかけてね」と話しかけてくれた。
お隣さんは犬を飼っているので、これまでも、散歩から戻ってきたときにばったり会うことがあり、挨拶はするくらいの間柄だった。一人きりで暮らすイギリスで、近くに私を気にかけてくれている人がいることを知り、とてもうれしかった。
買い物を手伝ったり、隣人に声をかけたり、一つひとつの行動は小さなことかもしれない。それでも、厳しい状況の中で、人のやさしさやご近所の連帯を感じられることの、意味はとても大きいと感じている。とくに、一人で外国人として暮らしている自分にとって、「ご近所コミュニティに属している」と感じられることは、「困ったときには助けてくれそうな人がいる」という安心感をもたらしてくれた。ヨーロッパでもコロナウイルスの流行にともなって、アジア人差別が激化している地域もあるなかで、分け隔てなく接してくれることがありがたかった。
ご近所の絆を感じた出来事はこの他にもあるので、多分その2に続きます~。