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俳句鑑賞ログ④
虫くんがさっさかさっさか冬ごもり/かほ
さっさかが急いでいるようであり葉っぱをかき分ける音であり必死な感じがして良い。最近暖かいな〜と思っていたら急に大寒波が来たりするので虫くんも気を抜いていられない。布団をはいで寝て明け方にもぞもぞと潜る吾子を思い出す。
悪役を脱いでセーター着て帰る/菊八
役者かもしれないし厳しい上司なのかもしれない。ヒーローショーの着ぐるみの可能性もあるし監査役ってこともある。仕事として悪役になりきるのは割と楽しかったりする。でもセーターに着替えておうちに帰るのは、きっともっと楽しい。
選択的夫婦別姓晦日蕎麦/唯果
今年もまたダメだった。毎年同じような年末を過ごしているけど、変わるべきとこは変わって欲しいと腹を立てつつ蕎麦を啜る。来年の今頃は「やっとだね」って言い合いたいけど希望が持てるような世でもない。選挙に行こう、来年も。良いお年を。
新年がくる嫌な顔ひとつせず/西川火尖
昨日と同じ今日がぬるっと来る。それだけのことなのだが。マリオのオートスクロールのステージのように時間は機械的に進む。問題は何一つ解決しないまま、押し出されるように2022年から追い出され、新年。嫌な顔も、嬉しい顔もせずに。
にんげんにふぐりあること初笑/松本てふこ
季語の「初笑」以外がひらがななのが良い。やわらかくてやさしくて素直で愛おしい。男女でも男男でも親子でもかわいいと思う。プライベートな相手と他愛無いことでごろごろしながら笑い合う良いお正月だ。
初夢の途中で眠くなりにけり/野口る理
それなりに豪勢な初夢だったのかもしれない。だから途中までは見てみたけどどうにも飽きてしまった。初夢なのよ、ちゃんと見なさい!と叱る人もいない。だから眠気に任せるまま寝ちゃう、自由でいい夢。案外、そこで見る夢が本当の初夢かもしれない。
みぞれ汁透けて淑気のとろみかな/このはる紗耶
みぞれ汁は決して華やかなものではないけれど、温かくじんわりと体に染みていく心地よさがある。そのとろみは、世界のやさしさをすべて現しているよう。穏やかに広がっていくやわらかい淑気の喜びを感じる。
元日の信号しかと守りけり/青木ともじ
元旦の人も車もほとんど通らない道の信号をしかと守る。それだけのことだけど心がきりっとして冬の青空のよういに晴れわたるような感覚。そして車の通らない道でも信号を守る大人には、いつも心でありがとうと言います。子供たちは見てるからね。
縦に読み横にして読む賀状かな /津川絵理子
最近はすっかり量も減ったけれどやはり束になった年賀状を捲っていくのは楽しいし、嬉しい。懐かしい知人やよく会う友人まで色んな人たちを思い浮かべながら、一枚一枚、縦にしたり、横にしたりしてご挨拶や報告のを読んでいくのだ。
ドローンの降下飲み込む花野かな/Mコスモ
視界を埋め尽くす花野。その中に飲み込まれて見えなくなっていく一機のドローン。美しい景。これを見ているのは誰なんだろう、と思う。鳥か。もう一機のドローンか。それとも、もしかしたら空の上にある、もっと大いなるものの視点かもしれない。