泉御櫛怪奇譚 第十四話
第十四話『付喪神ノ櫛 夜明ノ帳』
原案:解通易堂
著:紫煙
――貴方には、夢や希望を持った経験がおありですか?
なりたかった職業、行ってみたかった場所。まだ見ぬ可能性の世界……。
しかし、残念なことに、歳を重ねる毎にその夢や希望は社会の歯車によって擦り潰され、いつの間にか記憶から消されしまう人が少なからず存在します。
……おや、こちらに一人『夢や希望』を失ったことに気付かれた方がおりますね。絶望を纏わせた彼女がどんな行動をとるのか、少しだけ物見遊山といきましょうか――
◆
――ひとつ、いちやのとばりがおちりゃ……ふたつ、にぶくからだがおもくなる――
夢を見ている。果物の甘い香り、誰かが道路を歩いている。
(声が聞こえる? 声なのかな……なんか、平仮名が直接耳に入り込んでくるみたいな感覚)
重い瞼を開けると、白なのか黄色なのか分からない空間が広がっている。足場も無いのか、足元に視線を向けると、宙ぶらりんになった自分の足が見えた。
――みっつ、さんだんまちがえりゃ、よっつ、しのみちいざなうむくろくる――
(しのみち……死の道? なんだろう……数え歌?)
ぼんやりとまとまらない考えを巡らせていると、何処からともなく舞妓の様な髪形の女が近づいて来る。
(誰? 綺麗な人だけど……)
近付こうにも逃げようにも、体を動かす事は出来ない。女はゆっくり顔を近付けて『私』を覗き込んでくる。見た事のない不思議な模様の紅を差した美しい女が、妖艶に微笑んでほうと口を開いた。
――くとしは、なしにいたしましょう……――
◆
とある会社の更衣室。ロッカーに備え付けられた鏡を睨みつけながら、梨花は重たい溜息を吐いて会社の制服に着替える。
(なんか、不思議な夢を見た気がする……体が重いな……)
着替え終わってから黒縁眼鏡をかけ直し、安物のブラシで背中まで伸びた髪をまとめていると、明るい声の集団が更衣室に入ってきた。
女子更衣室の一番奥のロッカーは人目に付かない為、出入口側で着替えをしている女性社員の容赦の無い言葉が丸聞こえである。彼女たちは梨花の存在に気付かない位置のロッカーに移動すると、最近社内でトレンドの噂話に花を咲かせる。
「ねえねえ、総務課の椎橋さん、婚約破棄って本当?」
「ほんとほんと!」
誰の声なのかは分からない。しかし、確実に同僚の誰かが話していると分かるだけで、梨花の体が強張った。
(椎橋! 私の名前だ……上司にしか言ってないのに、もうこんなに噂が広がってるんだ)
極力存在感を消して、音を立てない様にロッカーの中にブラシを仕舞う。女性たちは梨花が居るなんて微塵も疑わないのか、噂話をするには些か大きな声で話を続けている。
「てか、私婚約発表も聞いてないんだけど。あの人彼氏とか居たんだ」
「ねー! 私も知らなかったんだけど」
「それが、会社に就職した頃にはもう彼氏持ちだったらしいよ」
「えー見えなぁい」
梨花は口に手を押し付けて息を潜め、囃し立てる女性社員が更衣室を出て行くまで『そこにいないフリ』をする。
「あーあ、勿体無い。あの人今年30歳でしょ? もう婚期逃したも同然じゃん」
「そもそもあのコミュ障に新しい彼氏出来るの?」
「ちょっとお、言い過ぎだって~」
「きゃはははは!」
他人の不幸をネタに、彼女たちは笑って更衣室を出て行く。梨花はほうと息を吐くと、黒縁眼鏡をかけ直して辛うじて涙を堪えた。
(落ち込むな、傷つくな自分……全部事実だ。なんで広まったのか分からないけど、全部、本当なんだから……)
必死で言い訳を作って、重たい足取りで更衣室を出る。無表情を顔に貼り付けながらデスクにつくと、ただでさえ人が足りない総務課は壁の無い個室のような空間になる。朝礼が終わると激務で余計な考え事をしなくて済むから、梨花にとっては楽だった。
(よし、この書類を30部刷って、営業部に届けて……)
「ほら、あの人が……」
「えー! 婚約までして結婚断っちゃったの?」
ひそひそと聞こえる声も、聞こえないふりをして仕事を続ける。
(大丈夫。他人の声で傷付かない……傷付かない……)
黒縁眼鏡をかけ直し、いつも通りの日常を送っている筈だった。
「逆に、椎橋さんと結婚しなくて良かったんじゃない? 彼氏の方」
「そうだよねぇ。彼氏さんの方が可哀相」
「……っ!」
誰かの心無い一言に、作業していた梨花の手がピタリと止まる。
(違う。それは絶対に違う! 私が悪いわけじゃない。私のせいじゃない!)
◆
梨花と彼氏は、それなりに良好な関係を続けているつもりだった。大学時代に付き合い9年、引っ込み思案な彼の方から結婚を申し込んでくれた時はとても嬉しかった。
既に両親同士の顔合わせも済み。実家に戻って小学生や幼稚園時代の卒園アルバムを眺めていると、必ず質問項目にある『将来の夢』を振り返る。
「んへへ……『綺麗なお嫁さんになりたい』かあ」
(お姫様じゃなくてお嫁さんだったのが面白いよな……この頃からの夢が叶うんだ……!)
梨花は慎ましやかな幸せが手に入ることを、決して疑わなかった。
しかし、結婚指輪を買って、いざ式場や細かい事を決めようと彼の家に行ったとある日。
「入るよー? ……っ!?」
合鍵を使って入った先で見たことも無い女性と彼氏が出迎えてきたのだ。
(え? 誰……なに?)
「ねえ……その人、誰?」
「自己紹介は私からしますので、先ずは中に入ってください」
混乱する梨花の目の前で、リビングで彼氏の隣に座る女性は淡々と、彼と職場で出会い、3年間付き合っていたことを告げる。彼の方は何も言わずに、指輪の付けていない左手の薬指をしきりに触っている。
(え……浮気? 私、浮気されてたの?)
昼ドラのような現実が、梨花の心を容赦なく押しつぶしていく。女性は現在自分が彼氏の子どもをお腹に宿している事を告げ、梨花に向かって丁寧に頭を下げてきた。
「お願いします。婚約を取り下げてください。そして、彼とはもう会わないでください」
消極的な梨花と彼氏の前で、意志の強い女性は圧倒的に強者だった。抵抗しようにも、味方になってくれる筈の彼氏は梨花の方を見ようともしない。
(好きだって、愛してるって言ってくれたのに……なんで?)
「お願いします。彼の願いでもあるんです。ただ、自分からプロポーズした手前、断り難いと言ったので、私が代わりにお願いしています。一緒に出した結婚指輪代もお返しします。お願いします」
「え⁉ 指輪代折半したこと秘密にしようって、あなたが言ったんじゃ……」
「あの、だから代わりに私が言ってるんです。聞いてましたか?」
「っ!?」
女性の強くなった口調に、梨花と彼氏の肩が反応する。主導権を完全に失った梨花は、浮気された女性の言われるがまま、その場で合鍵と指輪を置いて、泣きながら彼氏だった男の部屋を出た。
◆
結婚が破談になった一連を思い出した梨花は、胃が不自然に蠢くのを感じて、慌てて職場のトイレへ駆け込んだ。便器に顔を突っ込んで吐き気に耐えながら、梨花は涙で汚れない様に眼鏡を外して泣いた。
「ぐ、ぐう……うぅ……!」
(子どもの頃はあんなに大人に憧れていたのに、大人になるって、惨めだ)
梨花は職場で肩身の狭い思いをしながら、常に早く一日が終わるよう祈りながら日常を過ごすが、休日になったからと言って、彼女の憂鬱が晴れることはない。
仕事に忙殺され、尾ひれ背びれが付いた噂話に耐え続けた平日が終わり、休日を虚無で迎えた梨花は、生気の無い瞳で自室の窓を眺めていた。
過去を振り返っても、今までは当たり前の様に彼氏の家に行って、目的もなく過ごすことが殆どだったのだ。
(ご飯作ったり、買い物したり、お散歩帰りにオシャレなお家見て『こんな家に住んでみたいね』って言って……お互い大した趣味も無かったから、そんな会話しかしなくて……)
彼氏との思い出を振り返る度、胸をえぐる様な虚しさが襲ってくる。呼吸すら苦しくなった梨花は、何か気が紛れる物はないかと部屋を見渡した。
しかし、彼氏がいた頃の名残ばかりが目について、余計に体が重く苦しくなる。
(この服も、机のコップも、洗面台の歯ブラシも……あれも、あれも、あれも……もう嫌だ‼)
物に罪は無いが、元彼の名残に恨みすら感じた梨花は、ゴミ用のビニール袋に元彼の残留物を放り込んで家を飛び出した。
猛暑が過ぎたとはいえ、まだまだ昼間は身が眩むほど太陽が照り付けてくる。梨花は一瞬ふらつきながらも、真っ直ぐ最寄り駅まで走り出す。
(ゴミの日なんて待てない。今日は確か、午前中だけ隣駅のゴミ処理場が営業してるから、そこに捨てに行こう。全部捨てて、これで忘れるんだ‼)
そう自分に言い聞かせて、脇目も振らずに走る。最寄り駅についた梨花は、無意識に伸ばした手が空を掴んでハッとした。
「あ、鞄……」
交通電子マネーや財布が入った鞄はおろか、衝動的に外へ出たせいで、左右の靴まで違っている。
「……なにやってんだろ、私……」
虚しさで視界が滲む。
「もう無理……」
(死にたい……消えていなくなりたい……)
眼鏡を外し、駅の出入り口前で座り込んで泣いていると、懐かしい声が上から降ってきた。
「あれ? 梨花先輩?」
「へ?」
慌てて眼鏡をかけて見上げると、元職場の美希が覗き込んでいた。一年前、梨花と同じ職場の総務部に勤めていた美希は、唯一梨花の事を慕ってくれた、気さくで明るい性格の女性だ。
「やっぱり梨花先輩だ! 久しぶりー」
「美希さん? 一年振り……っ! ごめ、こんな情けない顔……」
ぐちゃぐちゃの顔を袖で擦ろうとする梨花に、美希が慌ててハンカチを差し出す。
「わーわー! 擦らないで先輩、これ使ってください!」
美希は人目を気にして梨花を引っ張ると、近くのカフェに入った。梨花が落ち着くまで適当に注文して、預かったビニール袋の中身を確認する。
「歯ブラシ、コップ、服……これ、梨花先輩の趣味じゃないですよね? 全部男物にも見えるけど……なんかあったんですか?」
美希には元彼の話をしたことが無い。一瞬口を噤んだ梨花だったが、胸の蟠りを今更隠し切ることも出来ず、再び涙を浮かべた。
(美希さんはもう会社違うし、いっそ全部言っちゃおうかな……とにかく、楽になりたい)
「……実は……」
弱々しい声で事情を説明すると、美希は机に届いたソーダフロートが零れそうな程机を叩いて驚愕した。
「はあ⁉ なにそれ、最低男‼ 私の元カレも大概クズだったけど、それよりも最低! 浮気女の思う壺じゃん、ばっかみたい‼」
(良かった……美希さんは会社の人達とは違う)
美希の反応にホッとした梨花は、眼鏡の汚れを服の裾で拭き取って、もう一度かけ直して彼女と向き合った。
「……美希さんだけだよ。そうやって言ってくれる人」
「当たり前ですよ! だってさっき梨花先輩見た時、本当に『普通じゃなかった』と言うか……先輩って、こんな滅茶苦茶な行動するような人じゃないですよ。ゴミ処理場に電車で行こうとするなんて……アレって、車使ったり、集荷頼んだりするのが普通でしょう?」
「あ、そうか……」
今更当たり前のことに気付いて、梨花は恥ずかしさで俯いた。美希は「でもまあ……」とソーダを飲みながら、当たり前の様に話し始めた。
「それだけ梨花先輩、苦しかったんですよ。私は自棄酒でそういうの発散してたけど、先輩はお酒も煙草もやってないじゃないですか……ストレスが発散できない人って、無意識に変な行動しちゃうって聞きますし」
「そう……か、そっか……」
説得力のある美希に、梨花は肩の力を抜いて自分の不自然な行動を振り返る。元彼の未練に振り回され、日常すら分からなくなって、毎朝起きる度に虚無を味わう。
「確かにそうかも……美希さんのお陰で、ちょっとだけ冷静になれたかも知れない。ありがとう」
「全然! 私も元カレと別れた時、散々先輩にお世話になってましたもん。これでおあいこです」
からりと笑う美希に複雑な表情で返す梨花は、ふと気になっていたことを問いかけた。
「……美希さんの元カレって、一年前言ってた人?」
ホットコーヒーで心を落ち着かせながら聞き返すと、美希はアイスクリームを突きながら「そうなんです!」と捲し立てた。
「私の元カレは結局顔だけで私を選んだ面食いクズ! でも、あの時はそんな風に割り切れなくて……そう言えば、あの時会社で……そう、梨花先輩が私の愚痴を聞いてくれたから、元カレと行くはずだった夏祭りに行けたんです!」
美希は去年の夏祭りの夜。一度は無視してしまった、道端に捨てられた猫を助けに行こうとしたら、家でポルターガイストの様な怪現象に遭遇し、止む無く断念した。意味深な夢を見た後、猫の様子を見に向かったところ、その道路で深夜に交通事故が起きていた為、計らずも怪現象のおかげで一命をとりとめたのだ。
「それで、慌てて捨て猫探したら、道路の溝……っていうんですかね? アレの中に逃げ込んでて……私、初めてあそこに腕、突っ込みました!」
「え⁉ 素手で側溝の中に?」
「はい。でも、お陰で猫を助けられたんです。あの時、なんか色んなものから吹っ切れて……」
楽しそうに喋る美希の、ヘアカラーを止めたのか黒く艶やかな髪が冷房で少し揺らめいている。その様子が梨花には眩しく見えて、去年より伸びた髪が良く似合う彼女に、梨花はつい本音を溢した。
「そっか……美希さんは克服出来たんだ……良いなあ。私もあんな浮気男、さっさと諦められればいいのに」
コーヒーを飲み干して、再び塞ぎ込んでしまう梨花に、美希は意を決して口を開いた。
「……実はですね。私が変われる切掛けって、もう一つあったんですよ」
再び泣きそうになる梨花の前で、梨花はバッグの中から一本の櫛を取り出した。猫の焦がし絵が描かれた木製の櫛は、新しい物が好きそうな彼女にはいささか不釣り合いに感じる。
「夏祭りの出店で買ったんです。すっごいイケメンのお兄さんが櫛を紹介してくれて、で、その後その櫛を使ってから、あの変な体験をして……それで私、人生が変わったんです」
「人生が……変わった?」
俄かには信じられないと驚く梨花に、美希は身を乗り出して自信満々に櫛を掲げる。
「勿論、変な宗教とかじゃないです! でも、この櫛をお祭りで買って使うようになってから、私、拾った猫を飼い始めたり、前の会社辞めてから昔やってみたかったイラスト系の仕事を始められたり……勿論、全く嫌なことが無くなった訳じゃないです。でも、この櫛を使ってから寝ると、次の日に憑き物が落ちたみたいにスッキリ過ごせるんですよ。ストレスフリー大事!」
「そう、なんだ……」
「そうだ、ウチの猫ちゃん見ます? クシナくんって名前なんですけど、これがもう可愛くて……!」
楽しそうに猫の写真を見せてくる美希に、梨花は気遣いを感じて少しだけ微笑んだ。
(そうか、美希さんなりに、私を元気づけようとしてくれているんだ。櫛の話は意外だったけど、優しい良い人と再会できて良かった)
美希が見せてくるスマホに目を向ける。クシナと名付けられた美希の猫は、弱々しい子猫時代から現在の立派な成猫になるまで、溢れんばかりの写真や動画で記録されていた。
「このサンマの蹴りけり人形がお気に入りで、今は二代目なんです。私、裁縫が出来ないから、ほつれた布縫い合わせるのとか苦手で……綿が出ちゃうと誤飲の原因になっちゃうから」
「ペット飼ってるってことは、前のアパート引っ越ししたの?」
「そうです。退職金全部使って、ここからちょっと遠いんですけど、広くてペット可のマンションに住んでいます」
「そうなんだ。私も、ここが最寄り駅で、歩いても10分しない所に住んでるんだよ」
「本当ですか⁉ 今度の休日、ウチに来てくださいよ! クシナくん人間大好きだから、多分先輩も直ぐ懐かれますよ」
美希の提案に梨花は快く頷きながら、いつの間にか元カレや浮気女の事を忘れていたことに気付いた。
(あんなに毎日苦しかったのに、美希さんと話せて良かった…このゴミも、来週のゴミの日まで耐えられそう)
「ありがとう美希さん。まだ完全に吹っ切れた訳じゃないけど……今日はこのまま家に帰れそうな気がする」
「本当ですか? 良かった……。あ、そうだ、ゲン担ぎじゃないですけど、良かったらこれを持ってってください」
美希はそう言うと、櫛を梨花の目の前に差し出した。櫛に焦がし描かれた猫と目が合い、思わず少し仰け反る。
「え、でも、美希さん毎日使ってる物でしょ?」
「はい。でも、丁度メンテナンスした後なので、清潔ですよ」
「いや、勿論汚いとは思ってないよ。でも、大事な物を持って帰るのは……」
言葉を選びながらなんとか断ろうとする梨花の前で、櫛の中の焦がし猫が心なしか悲しそうに手招いている。
「じゃあじゃあ、今度の休みの日に返すで良いんで! 貸すだけ、梨花先輩も借りるだけ!」
美希からやや強引に猫の櫛を押し付けられた梨花は「じゃあ、借りるだけね」と苦笑して、彼女と別れた。
◆
梨花はすっかり日が暮れた帰り道を軽い足取りで歩く。あれ程重たいと思っていた元彼のゴミ袋は、心なしか軽かった。
(それにしても……櫛で人生が変わる? 本当に? 宗教でも聞いたことないんだけど)
ポケットから美希の櫛を出し、歩きながらまじまじと見つめる。片面に焼き焦がされた猫は楽しそうにこちらに向かって手で招いている。
(美希さんって、こう言うのが好きだったのか……会社に居る時は、良く笑う子ではあったけど、どこか棘々してて、ああ、後……彼氏さんと別れてからは、お化粧も最低限で、週末誰かしらとお酒飲みに行ってて)
過去の事を思い出して、今日会った彼女と本当に同一人物か疑問が生じる。
(え……もしかして、実は別人? そんな訳ないよね? え、でもあれだけ話してたのに別人だって気付かないなんてことある?)
櫛をクルクルと回転させながら悶々と考えていると、不意に櫛の中の猫が『チラリ』と目を動かしたように見えた。
「え⁉」
改めて猫を確認するが、瞳は変わらず正面を向いて手を招いている。梨花は幻覚だと思いながら恐る恐る猫が向いたと思われる方を見ると、そこには見たことのない骨董品店が現れた。骨董品店とは形容したが、和風よりも中華風の外観に、洋風のランプ。出入口は馴染みのある構造の筈なのに、無地の暖簾がかけられたその建物を『骨董店』と表現する以外の方法を、梨花が知らなかったのだ。
(あれ……私、道間違えた? こんな店、一度も見たことない……)
梨花が恐る恐る見上げたその店には『解通易堂』と書かれた看板だけが掲げられ、夕暮れの藍色がかった背景も相まって非日常的な雰囲気が溢れている。
「あ……え?」
(なに? かい、とおる? なに店?)
止まってしまった足と思考が動かない。異質な体験に体が竦んで動けない梨花の前で、ゆっくりと店の扉が開いた。
「……っ‼」
(なに!? 外国人が出てくる? それとも刺青刺した、や……ヤクザさんとかだったらどうしよう?)
身構えた梨花のことなど、露ほども意識しない勢いで店の中から出てきたのは、短髪で大柄な配達員だ。
(あ、ヤマネコ配達員さんだ。なんだ、意外とちゃんとしたお店なのかも)
見覚えのある帽子にホッと息を吐いた梨花は、目が合った配達員に無意識に会釈をする。配達員も梨花に気付いたと同時に、帽子のツバに手を当てて軽く一礼する。
「ッス……」
「あ、お疲れ様です」
たったそれだけの会話しかしなかったが、一気に親近感が沸いた梨花は、深呼吸をしてから店とその周辺をもう一度見渡す。
(この道……あ! あっちに行ったらいつもの道だから、いつの間にか裏路地に来ちゃってたんだ。いつも同じ道しか行き来しないから、こんな所にお店があるなんて知らなかった。)
新しい発見に好奇心が動いた梨花は、配達員が出てきた際に閉め切らずに少しだけ開いた扉を、意を決して握ってみる。ゆっくりと力を加えて扉を開けると、骨董品店だと思っていた店内には、一面の櫛が置かれていた。
「あ、櫛屋さん?」
(木の香りに混ざって、ミントっぽい香りがする? 美希さんのことと言い、今日は櫛に縁があるな……)
梨花が美希の櫛と見比べながら持ちながら店内を眺めていると、帳場の奥から店長らしき人が現れた。腰まで伸びた黒い髪、梨花とは違う縁の細い丸眼鏡をかけていて、見ただけでは性別が分からない。
「いらっしゃいませ、ようこそ……『解通易堂』へ」
「あ、はい……」
(あ、ここ『ととやすどう』っていうお店なのか。声を聞かないと男の人って分からなかった……あれ女性物の着物だよね?)
正確には男性も着るアオザイなのだが、そもそも梨花にその知識はない。加えて、アオザイの下にレースで織り込まれたスカートの様な物を身に着けている為、余計に誤解を招いたのだろう。
計らずも彼の靴が左右で違う事に気付いた梨花は、自分が履き違えていた羞恥心から無意識に解放される。
「私は、泉と申します……」
「あ、どうも……椎橋です」
(あ、仕事の癖でうっかり名前言っちゃった)
思わず自己紹介してしまったと焦る梨花に、泉は気にすることなくゆるりと近づいた。
「おや、そちらの櫛は……その節は当店の櫛を、お買い求めいただき……誠にありがとう、ございます……」
梨花の手にしている櫛を見て、泉がゆっくりと頭を下げる。一瞬なんのことか分からなかった梨花は、手に持った美希の櫛に気付き、泉の行動に合点がいった。
(お買い求め? あ、私がこの櫛を買ったって思ってる?)
帰りからずっと持ち歩いていた猫柄の櫛を慌てて横に振り、誤解を解こうと慌てて言葉を探す。
「え? あ、これは違うんです。今から買う物じゃなくて、えっと……友人? 元会社の元後輩? からー……えっと、一時的に借りているもので! この店の売り物でも、櫛を売りに来た訳でもないんです」
「ほう……」
泉は興味ありげに近づいて、梨花の持っている櫛をまじまじと眺める。
「これは、これは……失礼、いたしました……売ろうとしていないのは、充分に伺えます。その櫛は、当店で販売された……商品で、ございまして……それにしても……」
泉は滑らかに梨花へと視線を移すと、視線を合わせる様に屈んで微笑んだ。
「余りにも、貴方が『櫛を必要としている』様に……見えたもので」
「必要?」
「ええ、こんなに素敵な……美しい髪を、お持ちで……いらっしゃいますので」
不意に伸びてきた泉の手を、梨花は反射的にゴミ袋を持っていた手で弾いてしまった。
「ひっ……!?」
「……?」
泉の表情から初めて笑顔が消える。面食らった猫の様に瞳が細くなった彼に対し、拒絶した梨花の方が焦って顔を赤くしている。
(ああああ! 思わず遮っちゃった。元彼以外男の人に触られたことなかったから、つい……っ!)
「あの、違うんです、私……人に触られるの慣れてなくてっ! 美容院でも緊張しちゃって美容師さんの話聞き取れなかったり……なんの話してるんでしょうね私?」
パニックになりながら悪気はなかったと謝罪しようとした梨花に対し、泉はビニール袋の中身が気になるようで、細くなった瞳のまま袋の中を覗き込んだ。
「これは……見た所、椎橋様のサイズには……合わない衣類や陶器が、揃えられて……いるようですが、殿方のお買い物で……いらっしゃいますか?」
「え? あ、これは……もう捨てる物なんです。」
梨花がビニール袋を開いて見せると、こっそり美希が整えてくれたのか、服もコップも清潔そうに整頓されていた。歯ブラシや箸、スプーンは喫茶店の紙ナプキンで使用部分が包まれており、泉が買い物と勘違いしたのも頷ける。
泉は衣類に興味があるようで、元彼の服を一枚広げながら興味深そうに微笑んだ。
「ほうほう……襟首のくたびれ具合から、そこまで長く……身に着けている服では、ありませんね?」
「そう……ですね。今年買って、月に一回くらい? の、頻度で着たくらいです」
「では、この陶器の数々も?」
「そうです……?」
会話の意図が読めない梨花に対し、泉はズボンや下着以外の衣類とコップと何枚かの平皿を取り出して、温和な表情で交渉してきた。
「こちらと、こちら……もし、差し支えなければ……私が買い取らせて、いただいても……よろしいですか?」
「え? あ、えっと……」
「失礼……どの様な、理由があれど……役目を全う出来ずに、破棄される……作品を見捨てることが、出来ない性分なものでして……」
梨花が恨めしく思っていた元彼の私物を愛しそうに撫でる泉の姿に、彼女は知見が広がるのを感じた。
(そうか……物に罪はないもんね。私にとっては捨てたくて仕方ない物だけど、使ってくれる人が他にいるなら)
「……良いですよ。差し上げます」
「ご配慮、誠にありがとう……ございます。では、早速代金の準備を……」
「あ、お金は要らないです! 私にとって、この袋の中身は全部0円なので」
(あんな男の私物で貰ったお金なんて、あっても使いたくない)
頑なに拒否する梨花に、泉は「それでは……」と、一度帳場の奥に戻って、ひとつの櫛を持って戻ってきた。
「せめてもの、対価として……こちらの櫛を、贈らせてください。」
櫛には小振りの花と両脇に丸い模様があしらわれたシンプルな物だった。美希の猫櫛と違うのは、何度も何度も油を染み込ませたような深い茶色が特徴的で、まるで何年も前から大切にされているような、年季と言うよりも貫禄を感じる。
「この櫛……」
「ええ……。年季が入り、店頭に並べられない程の櫛なのですが、長年の月日を経て『あるもの』が宿った、稀有な櫛にございます」
「あるもの?」
首を傾げる梨花に、泉は微笑みだけで誤魔化す。
「ふふ……梨の木から作られ、巡り巡って……この解通易堂に、渡ってきたのです……」
「梨の木から? 私、下の名前は『梨花』って言うんです。梨の花って書いて『梨花』」
(あ、初めて自分と櫛の共通点を見つけられた気がする……)
少し嬉しそうに笑う梨花に、泉も満足そうに頷いた。帳場に戻って梨櫛を布製のカバーに仕舞いながら、感慨深く話を続ける。
「梨花様、何という……巡り合わせでしょうか。この櫛に描かれた花は、正に梨の花……もしかしたら、この櫛は梨花様に逢うために……この店に残り続けていたのかも、知れませんね」
泉はそう言うと「ほんの気持ちです」と言ってゆっくりと櫛を差し出した。
(んー……なんか気になる所を有耶無耶にされた気もするけど……物々交換だと思えば、良いかな?)
梨花はためらいながらも、おずおずと手を伸ばして櫛を手に取る。しっとりとした梨櫛は、カバーに仕舞われているにも関わらず、不思議と美希の猫櫛よりも手に馴染んだ。
「その櫛が……梨花様の胸の蟠りを、少しでも梳き落として、くれますように……」
泉は最後にそう言うと、今度はゆっくりと梨花の髪をひと掬いした。さらりと弄ばれる梨花の黒髪は、艶やかに店の光を反射して、本人さえ少し驚く程美しく見えた。
(あ、そう言えば、今日髪梳いてなかったな……夕方になって思い出すなんて、よっぽどまともじゃなかったんだ)
「……っ、あの、それじゃあ、私はこれでっ……‼」
梨花は途端に恥ずかしくなって一歩下がると、泉に勢いよく頭を下げて店を飛び出した。明らかに軽くなった筈のビニール袋に櫛を入れると、不思議と重く感じた。
◆
その日の夜。アイフォンのチャットアプリで美希に櫛を返す日取りを決めると、恐る恐る梨櫛を手に取る。
「プラスチック以外の櫛って、何気に初めて使うかも……普通に使って良いのかな?」
シャワーを浴びてから、洗面台に戻って乾かした髪に恐る恐る梨櫛を通す。癖のない梨花の髪は櫛にされるがまま梳かれて、特に普段使っているブラシとの違いも感じられない。鏡に映る変わらない日常に安堵しながら、漠然と視線を彷徨わせる。
「……あっ!?」
毎日眺めていた場所なだけに、無意識化で忘れてしまっていた元彼の名残。昔旅行で行った時のツーショット写真を見つけてしまい、梨花の体が硬直する。
「あ……あぁ……」
(そうだった……しかもこれ2年前の……この時には、もうあの女と浮気していた……)
「いや……ダメだ! 忘れるって、決めたのに……決めたのにっ!」
梨花の情緒が急激に不安定になっていく。しかし、結果的に9年間紡いできた思い出を1日で解消する方法などどこにも無く。未練や恨みが彼女の体を苦しめていく。
「はあ、はぁ……っあ!?」
取り乱して過呼吸になりよろめいた瞬間、梨櫛で梳いていた頭につんとした刺激を感じて、毛玉なんて無かったはず髪が何本か抜け落ちる。
「なんで……傷んでたのかな?」
鏡で刺激があった部分を確認したが、特別髪が傷んだり毛玉になったりしているようには見えない。櫛から絡まった毛を取ろうとすると、ふわりと眠気が襲ってきた。
「……っ!?」
(あれ……なんでこんなに眠いんだろう……普段と違うことして、疲れたかな……?)
がくんと体から力が抜ける。洗面所から辛うじて自分のベッドまで辿り着いた梨花は、ベッドに勢いよく倒れ込んだ。遠のく意識の中で、視界に転がってきた梨櫛を呆然と見つめる。
(ああ、髪の毛、櫛に絡まったまま……)
力の入らない手を懸命に伸ばして櫛に触れようとすると、からんと木が落ちる様な音が鳴り響いた。
(なに……? 鐘の音……違う、足音だ)
――ひとつ、いちやのとばりがおちりゃ……ふたつ、にぶくからだがおもくなる――
何処からともなく声がする。重力に逆らえなかった梨花の体が浮遊感を覚え、同時に香る果物の香りで最近見た夢を思い出す。
(あ、これ、梨の匂いだったんだ……この前見た夢の続き?)
――みっつ、さんだんまちがえりゃ……よっつ、しのみちいざなうむくろくる――
しゃなりしゃなりと現れたのは、無数の髪を衣の様に纏った、妖艶な美しさを醸し出す妖女だった。木製のぽっくりを器用に滑らせて近づくと、梨の香りが一段と濃くなっていく。
(夢……本当に夢? この香りも声も姿も、本当に存在しているみたい……ああでも、私が浮いてる時点で夢か)
自由の利かない梨花の体は妖女に吸い寄せられるようにゆらゆらと移動して、彼女の手の届く範囲でひたりと留まる。妖女は櫛状の手をゆるりと伸ばして、梨花の頭を優しく撫でる。
「あな……たは……?」
重たい口を懸命に動かして妖女に問う。すると、妖女は微笑みながら、梨花の顔を覗き込んだ。その顔には白粉が塗られ、櫛模様の紅が目の周りに施されている。口を開かずとも歌は聞こえている仕組みが分からないが、妖女が喋ろうとしないのは明白だった。
横たわる梨花の前に、妖女は彼女の髪を優しく梳いた。すると、髪から『苦』や『死』といった文字が髪から現れてきた。文字は髪から離れて宙を彷徨うと、妖女の隣で漂っている巨大な梨の実へ吸い寄せられていく。梨の実には『苦』と『死』の漢字が書かれた赤い紙と、裏側に『無』と書かれた白い紙が貼られてあり、まるで言葉を巻き取る様にゆっくりと自転している。
(無し……苦、死? なしくしは、今日貰った梨櫛と同じ音だけど……この人の名前かな?)
目に入った順番に漢字を読みながら、吸い寄せられていく『苦』と『死』の文字を眺めていくと、漠然とした悲しみで涙が溢れてきた。
――ここのつ、くるしみもがいてたすけをまたず、とおいあのよへさまようでしょう――
(悲しい、苦しい数え歌だ……でも、なんでだろう。共感して涙が止まらない)
梨花はいつの間にか泣きじゃくりながら、妖女の髪衣を縋るように掴んでいた。妖女は片方の手、もとい、櫛と化した手で優しく梨花を撫でながら、丁寧に、丁寧に髪を梳かしていく。
――『く』と『し』は『なし』にいたしましょう。わがみはくるしみすきとるくしなれば、からんだかみとてほれこのとおり、なかったことにいたしましょう――
妖女の髪梳きが終わる頃には、梨花はすっかり泣きはらして、文字通り風船のような軽やかさで宙に浮いていた。
(そう言えば、失恋してからこんなに泣いた事なかった……でも、泣いただけじゃこんなにスッキリしないよね?)
「あのっ……あ、口も軽い」
急に喋れるようになった自分に驚きながらも、梨花は妖女に向かって自然と微笑んだ。
「あの……きちんとお礼をしたいんですけど、お名前は……」
梨花の問いに、妖女は表情を変えるでも口を開くわけでもなく、そもそも答える術を持たない様な佇まいで髪衣を揺らめかせている。
「じゃあ、あの……では、失礼ですがその梨の実と手の櫛に因んで『なしくし様』と呼ばせてください……ありがとうございました、なしくし様。お陰で、気持ちよく起きれそうです」
妖女もとい、なしくし様は落ちている櫛に絡まった髪を一本だけ拾うと、ゆるりと梨花から離れていく。
――おだいは、あなたのかみいっぽん。なぜなら、このくしがすくうは『く』と『し』だけ……さあ、さあ、おめざめくださいな――
「待って! まだ全然、なしくし様のこと知らないのに……」
梨花が慌てて腕を伸ばすが、しゃなりしゃなりと躱されて足音と声が遠のいていく。歌声の主がなしくし様だと気付くころには、声は遠く薄くなっていった。
――もういちど、いちからこのよをはじめましょう……――
◆
翌朝、梨花は今までに感じたことのない体調と共に目覚めた。体が軽いなんてものじゃない。失恋で受けた死にたい思いも、会社に対する苦しみも、まるっと無くなっているのだ。
「あれ? なんか夢を見ていた気がするんだけど……」
(なんだろう。昨日までウジウジしていた自分が馬鹿みたいだ)
試しにうんっと背伸びをしてみる。肩に感じていたずっしりとした重みがまるでなく、両腕の可動範囲を確かめる様にグルグルと回しても、なんのしこりも感じない。
(凄い。こんなに軽い体、人生で初めてだ……今日はとことん自分のやりたい事だけやってみたい気分)
「そうだな……手始めに、えっと……眼鏡を変えてみようかな。それで、美容院予約して……」
アイフォンで美容院を予約しながら、手元にあった梨櫛で髪を梳く。まだ一晩しか経っていないのに、不思議と梨花には日常と変わらない行動に感じた。
「長さは……ちょっと切ってみようかな。眼鏡は……いっそコンタクトにして、あ、美希さん家に行く時の服も買って……ふふ、アラサーなのに、はしゃいじゃって馬鹿みたいだ」
言葉とは裏腹に、梨花の表情は明るく、楽しそうにしていた。
◆
とある休日。和寿が解通易堂に向かってバイクを走らせていると、彼ですら目を引く華やかな女性の二人組が歩道を歩いているのを見かけた。一瞬視界をかすめただけだったが、どちらも綺麗な黒髪を個性的にまとめて、一人は猫モチーフのポーチを肩にかけていた為、記憶に残ったのだ。
しかし、その後の彼女たちがどうなったのか、和寿には興味も関心もない。
そのまま真っ直ぐ解通易堂に向かい、いつものように店の裏口から入ると、仄かな果物の香りが部屋一面に広がった。
「おう、旦那。珍しいもん置いてんじゃねえか」
机の上に置かれた梨のマークの段ボールを、泉の許可なく開けていく。一層甘い香りに包まれた空間を楽しむように現れた泉は、穏やかに微笑んで梨をひと撫でする。
「先程、随分と……華やかなお客様が『無苦死様の御礼です』と……おっしゃって、差し入れて……くださったんです」
「なしくしさま? 梨櫛なら解通易堂のよくある櫛じゃねえか。宗教じゃあるめえし、様付けって……」
「いえ、梨櫛の中でも……長い間使い続けられ、八百万の縁を……渡り歩いた櫛に、ごく稀に……『無苦死様』という付喪神が、宿るのですよ」
「はあ? 妖怪の次は付喪神かぁ、ホント旦那の頓珍漢な話はイマイチ分からねえなぁ」
和寿は溜息を吐いて頭を掻くと、梨が傷まない様に箱に梱包材として使われていた新聞紙に一玉ずつ包み始める。甘い香りは和寿も嫌いじゃないらしく、ちゃっかり直ぐ食べる用の梨を机の端に避けたのを見て、泉は面白そうに微笑んだ。
「ふふ……付喪神とて、神は神……無苦死様に、出会った梨花様は……それは、それは……とても素敵な笑顔のお客様、でしたよ……」
【完】